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ほえぶる!

ファンタジーやら現代もののエンタメ小説やら紀行文やら書いてます。自転車にも乗る。「文藝サークル~綴~」の中の人、「おにこくらぶ」の中の人、「ドジョウ街道宿場町」の中の人です。



「お前の夢の世界に住む人間だ」
 少し鬱陶しかったので、適当に答えた。
「夢? それじゃあ、俺は寝てるってことなのか?」
「ああ、そうだ」
 即答すると、少年は目を見開いて困惑した。
「ええっ? それじゃあ今日八時半に起きて、寝坊したと思って学校まで来たけど、これも夢だって言うのかよ!」
「そうだ、夢だ。試しに頬をつねってみるといい」
 分かった、と金髪の少年はバカ正直に自分の頬を引っ張った。
「イデデッ! なんだよ、やっぱ夢じゃねえじゃん!」
「そうか……なら、あの噂は本当だったのか」
 オレは奴の反応を見て、あからさまに落胆する。
「夢の世界が、お前を支配しようとしている……みたいなんだ」
「ど、どういう意味だよ、それ……」
 金髪少年の顔がみるみる青くなるのが分かる。こいつ、マジで信じてやがる。
「夢の世界を現実の世界だと勘違いして、目覚めなくなるんだ」
「こ、このままだとどうなっちまうんだよ……!」
「永眠」
 その一言で奴は目に見えるほど震えだす。よほど現世に未練があるようだ。
「どどどどうすればいいんだよ! あああ明日最終回のテレビがあるんだよ! めめ、目覚める方法は? 知ってたら教えてくれよ!」
 必死にオレの襟を掴んで放そうとしない。最終回が観れないことによほどの未練があるんだろう。このままだと本当に窒息死してしまいそうなので、適当に目が覚めるようなことを言っておく。
「三分以内にジュース奢ってくれたら目が覚めるんじゃねえの?」
「ジュースか! 分かった! 買ってくる!」
 襟を放したかと思うと、脱兎の如く駆けだした。
「三葉サイダーな!」
 その背中にオレの要望を投げかけるが、あまりに必死そうだったので聞いてくれたのかは微妙だ。
 とまあ、こいつが一年のこと奏と一緒にバカやってきた大瀬崎駿河(おせざきスルガ)だ。詳しい説明をするより、先の会話を見たほうがよく分かると思う。まさに百聞は一見に如かず、というものだ。
 補足して言えば、大瀬崎をいじるのはオレだけじゃない。大瀬崎はみんなのもの、とでも言っておこう。
 遅ればせながら、現在時刻も確認できたので伝えておく。八時四十七分。どうやら朝のホームルームが終わった後のようだ。このまま寝ていたら二年になって初めての授業を寝て過ごすことになっていた。誰かは知らんが、オレを起こしてくれた御方に感謝したいものだ。
「お待たせっ!」
 その起こしてくれた御方様がオレの飲み物を抱えて帰ってきた!
 彼は滑り込むようにして教室目前で止まり、大声で叫んでいた。クラスの連中の視線が一気に大瀬崎に注がれるが、当の本人はお構いなしに教室を進む。そして、コーヒーをオレに投げつけるように渡した。
「これで……俺の目が、覚めるんだなっ!」
 鼻息荒く大瀬崎はオレを鋭い形相で言う。
「……はぁ? 何寝言言ってんだよ」
「寝言? 俺は本気で言ってるんだぞ! 穂枝にジュースを奢れば夢が覚めるって!」
 ジュース(しかも種類を特定した)を奢れと言ったのに、どうしてコーヒーを渡されるんだか。
「夢? 夢だと思うんなら頬つねってみろよ」
 そう言って、大瀬崎から缶コーヒーを受け取り、プルタブを開ける。
 大瀬崎は言われたとおりに頬をつねった。
「イテテッ! なんだよ、やっぱり夢じゃねえかよ!」
「何言ってんの? 痛いんだから夢なんかじゃねえだろ」
 寝ぼけている大瀬崎に、真実を伝えてやった。
「え……ええ? それじゃあ、ええと……あれ?」
 この後すぐに一時限目が始まるチャイムが鳴ったのだが、大瀬崎は三時限目が終わるまでずっと頭上に疑問符を浮かべていた。


第三話『新しい日常の昼下がり 前篇』に続く

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