ほえぶる!

ファンタジーやら現代もののエンタメ小説やら紀行文やら書いてます。自転車にも乗る。「文藝サークル~綴~」の中の人、「おにこくらぶ」の中の人、「ドジョウ街道宿場町」の中の人です。

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ぺたんこであるならば、体を反らせなさいとメニアックな方が仰ってました。
まさに表紙のことです。

どうも、じょがぁです。こんにちは。
今年中は忙しいっぽいです。ひやひや。


来月12/22(木)発売の新刊↓

「妖孤×僕SS 6」
「新装版dear 6(完)」
「花咲くいろは 3」
「繰繰れ! コックリさん 1」
「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる 1」
「うみねこのなく頃に散 2」
「ひぐらしのなく頃に礼 賽殺し編」

ついにひぐらしシリーズも完結か……。長かった道のりでしたなあ。


今月発売の新刊↓

「コープスパーティー Blood Covered 7」
「新装版dear 5」



では本編へ。


P.A.WORKS 千田衛人「花咲くいろは」

みんちの水着がぐいぐい引っ張られちゃってるのを巻頭に持ってくるとは俺得……!
結名さん視点で語られるとな。なるほど面白いなあ。
なんだかんだ言いながら、結名さんもちゃんとした正座をしてるんだよね。さすが跡取娘。


藤原ここあ「妖狐× 僕SS」

扉絵前の「メニアック!」はとりあえず言ってみたんだろうと思う。
そして、ようやく物語の目的が見えてきた。凛々蝶いい顔するねえ。
蜻蛉「鳴かぬなら 身体に聞こう 肉便器」→身体に聞かれるのは蜻蛉のほう、と。


山口ミコト「最底辺の男-Scumbag Loser-」

期待の新連載! 表現的に少年誌の最底辺を突っ走ってるな!(褒め言葉)
主人公村井雅彦の最低っぷりがもうね。限りなく最底辺に近い最低な人間。
変顔と推理で、次のページの展開が読めないこのスリル。続きが気になるなあ。


吉辺あくろ「絶対☆霊域」

おお、今回は新しめのキャラは一切登場しない! いいねえ、たまにはこういう話も悪くはない。
というか、マジで聖一、ひな子、ひこ子だけでなりたってんのな。すっきりしてて面白かった。
最後のページのひなちゃんの表情はもう、何べん読んでも飽きへんがな。


河内和泉「EIGHTH」

前回のアツいさも冷めぬ今回はなんと番外編! くう、続きが気になるが……許す!
カラオケで番外編と聞いて、ある程度オチは分かったけど、
うん、オチを心望みにするんじゃない、経過を楽しむのだ! 番外編は!


祐時悠示 七介「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる」

うっはひっでえ中二病wwとか思ってたけど、よくよく考えるとうちの作品にもこんな設定のはある。
あれ、実は真涼って、隠れ現役中二病なんじゃ……?
モブキャラの顔面不安定さに和んだとか言いたいけどそれは言っちゃいけない大人の約束。


タカヒロ 田代哲也「アカメが斬る!」

ラバックの糸使いのテキストはどう見てもアラク○ドだよな……wさすがHON屋さんだぜ!
初のイェーガーズとの真っ向勝負がアツい! ぜひアニメでも観てみたいもんだ!
シェーレとの再会……って、あれ、レオーネはどうなったんだ!?


忍「ヤンデレ彼女」

先月の続きだったでござるが、ナナミの父さんって、あの店長なんじゃって思わないでもない。
つか、くう、いい話じゃあねえか。ライバルの回想話ほど心を打つ話はない。
しかしまあ、スミカの苦悩はよーくわかる。だからこそ、この話が輝いてるんだわなあ。


竜騎士07 鈴羅木かりん「ひぐらしのく頃に礼 賽殺し編」

父殺しと母殺し、どっちの方が罪深いかっていえば、主観的に言えば母殺しなんだろうなあ。
いや、コインロッカーベイビーズの話だけど、母はグランドな存在なんだと改めて感じた。
最初は蛇足だと思ってたけど、しっかりテーマ持ってきてたところが竜騎士07さんの偉大なところだわ。


遠藤ミドリ「繰繰れ! コックリさん」

あらすじがあらすじじゃねえw こういうの好きだわw 欄外の編集者(?)コメントもな!
一コマを除いてめっちゃ理想的な主夫でございますな。あらやだ奥さん。
そして、あるぇ、まさかの学園もの突入、だと……?


横山知生「私のおウチはHON屋さん」

ビニ本自販機ロボと発明家のお話。
お、おい、この話、信じられねえ、マジで感動できるじゃねえか。
まあ回想場面であまりのシュールさに盛大に吹いちまったわけですがww


高透レイコ「かしずき娘と若燕」

転校生は、ま、まさかの京都弁……だと? いや、京都という確証はありませんが!
京都弁にはおそらくなんかしらの意味がある、はず。
そして、まさかの巫女装束へ変身って、ちょえええ!? ツッコミ不在!


野村美月 高坂りと「“文学少女”と飢え渇く幽霊」

これは流人×心葉の薄い本が出るな……。いや、そういう話じゃねえけど!
さておき心葉くんのトラウマはかなり根強いんだな。おそろしいくらいだ。
そして流人の計略によって、雨宮さんに尋問か。なんて答えるんだろう。


カザマアヤミ「ひとりみ葉月さんと。」

くっそ、告白練習でここまで笑わせるとはwwちくしょう!w
この河原での八ページに及ぶ告白って、こりゃ「まほらば」の告白と双璧を為しますな。
最後のコマが、なぜかフルカラーで浮かんでしまったよ。


松本トモヒロ「プラナス・ガール」

展開が相変わらずだなwしかも、どんどんレベルアップしてるような気がしてならない。
それに比例して、門山たちのやられっぷりの芸術度が増している……。
しかし逃走を見守る会長と副会長、よほどの暇人である。


竜騎士07 秋タカ「うみねこのく頃に散 Episode5:End of the golden witch」

おお、まさにテレビドラマな謎解きだ……。すごくすんなり行っちゃう。
ベアトリーチェと古戸ヱリカの対決、しょっぱなからメタ発言だなw
新キャラドラノールさんの服装、こりゃ狙ってやがるな。


七海慎吾「戦國ストレイズ」

信長さんの一発キタ! 相変わらず信長さんは一言で目を覚ましてくれるぜ!
横暴だけど、信長のカリスマ性はマジすげえ。尊敬するしかないわな。
頼むから信行さんは動いてくれ……!


祁答院慎 篠宮トシミ「コープス・パーティー BloodCovered」

ぱんつはいてない! そういえば! ぱんつはいてない!
流れが早くなったなあ。そのぶんグロテスク展開はないけど。
次辺りで七星さんを正気に戻せるかどうか……!?


村田真哉 いふじシンセン「アラクニド」

おばさん兜虫とかいったら殺されるんだろうから言いません(真顔)
新キャラが大波小波とざぶざぶやってきますな。大丈夫か……?
響さん、相変わらず笑っちまうなwいや、彼が真剣そのものであるからこそなんだけど!


ごぉ 檜山大輔「ひまわり 2nd episode」

大吾生きてたああ!!!
ちくしょう、嬉しそうなアクアがかわいすぎてつらいぜ……!
そして同時に、この悲しさがね。ああゲーム版やりたくなってきた。


鍵空とみやき「カミヨメ」

口癖直したけど驚いた衝撃で癖が再発しちゃった彗華ちゃんが可愛いのじゃ!
カミヨメのこの終わり方、最初はちょっと混乱したけど、でも改めて読んでみるといいなあ。
先生の新作、楽しみに待ってます……!


JORKER PROJECT STARDOM ROOKIES
宮ちひろ「fantasma221B」


なんというか、短編作品を何本か続けて読んでいるような感覚。
文句通りアクションは爽快だし、台詞も紳士チックな皮肉たっぷりなんだけど、ストーリーがなあ。
つか、50ページ以上あるよな……? よく書いたなあ、と感心。





今回は「私のおウチはHON屋さん」が良かったなあ。
確かにトンデモではあったけど、でもああいう展開にホロっときてしまう。
それから「ひとりみ葉山さんと。」も良かった。
あの告白描写の綿密さは魅力的だったなあ。心情も鮮やかだったし、景色も鮮やかだった。

そして来月号ですけど、まさかの柊先生連載決定ww
ええ、あの「ゾンビッチはビッチに含まれますか?」ですよw

まさにスターダム! すげえな……。
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この記事のタイトルを書いたところで気付いた。
「音楽を文章でネタバレするとか、お前何者だよ……と。

というわけで、どうも、じょがぁです。
五日くらい前にボーマス19があって、冷やかしに行ってきました。

衝動買いが過ぎてしまった感が否めませんが、

さておき、

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本命サークル『劇団鬼子』さんから出展された
UTAU_ONICO Vol.02の感想はじめるよー!

鬼子さん知らないって方は「ここ」とか「ここ」とか「ここ」で楽しんでみてはいかがです?

前回に引き続き、CDと薄い本がセットになった『うたコミ』形式の作品でございます。

左が表面、右が裏面です。


まずは、

CIMG2759-2.jpg

『UTAU_ONICO Vol.02』
薄い本から始めますか。
(※目次がなかったため、「」内の各タイトルが誤ってる場合がございます。ご了承ください)

りっくにあ「表紙:UTAU_ONICO2!」

「キーボードときたか!」ってのが、一見したとき思ったことですね。
この鬼子さん、前回と違う衣装なんですよね。
前回と比べると、こっちの方が人間味がびんびん感じます。
立体的だから……なのかどうなのか、詳しいことはわかりませんけど。

気になった点は「025」の刻印がなされたキーボードの取っ手(?)と右手ですかね。
構図上こうせざるをえなかったのかはアレですが、取っ手はもっと長くても良かったんじゃないかなあ、と。
あと右手はもう少し膨らみを抑えたほうが引き締まるような気がする。
断定的には言えませんけど、眺めてて気になりましたね。

でもこのヘッドフォン、これはいいなあ。
頭頂部につけるんじゃなくて後頭部から付ける耳あてを愛用している自分にとっては、
もうね、思わず同志に会った気分ですなあ。このレトロ感がSFチックで、たまらん!



桐騎「La La Song!」

扉絵とその次のページでの緩急差がいい!
デフォルメと等身大の描き分けが丁寧で羨ましいですな。

展開が早すぎる感はあるけれども、
わんこが鬼子さんの姿を見たときの対応に激しく共感してしまいましたね。
少年時代を思い出した、と言ったって言いすぎじゃないでしょう。
うん、多分中一か中二くらいまでの自分だったら、同じ反応をしていたと思う。
完全に不意打ちでした。この感性を見習いたいです。
活力と創作意欲を頂けた作品に感謝感謝。



G.G「アイドルデビューだよ!」

これはね、もうね、最後の最後の残念臭を満喫するための漫画ですね、わかります。
一ページ目と二ページ目の間にクッションがあったほうがよかったなあとか、
そういうことを書こうと思ったんですが、
全てをチャラにしてもいい、このオチの残念感!(いい意味で!)
これは敬服するしかない。

鬼子さんの服装が真にエロティックでございます。
まあ下乳万歳とか下品な輩は賛美するのでしょうが、なんといってもこのクビレは見とれる。

だが自分の中ではこにぽんが、
アルプスでブランコこいでそうな女の子の服を着たこにぽんがマイ・フェイヴァリットです(真顔)



樋口「ぴあにしも!!」

扉絵の田中さんの目、あれどうやって描いてるんだろう。
デジタルだとああいうのも簡単にできちゃうのかしら。
って一読目に思ってたんですが、再読してみるとこの幻想的な背景にページをめくる指が止まりました。
なんだろう、おとぎ話の中にいるみたいだ……。
内容は日常的なのに、ファンタジーを盛り込んでるところが、どこか鬼子さんのイメージを感じさせますね。

水色髪ツインテUTAU鬼子さん、一度見てみたいなあw
ところでゴシック体が混ざってる(ように見受けられる)台詞は仕様なの……か?
ちょこちょこ見えるのがどうしても気になってしまう。

さておき、もう一点聞き捨てならぬ……もとい見捨てならぬ「おにっクラブ」という棒人間ブック。
どういうわけか、本能がうずくぜ……!



しかた「UTAU日本鬼子」

「しかた」という名義がないですけども、この絵はどう見てもしかたさんです間違いありません。
そしてここの鬼子さんのデザインもまた違うものですね。
紅葉のマークがついたキャップに、腕には鍵盤模様の巻物がひらひらと巻きついている感じ。
鬼子さんがUTAUの世界へ行く途中に武器の検問があるってのは面白いw

リアリティ溢れる怪物たちの描き込みは相変わらず。
咀嚼するのみで評論を拒絶する一読目ののち、
二読三読してから気付くことは、無音であることですね。
あるべき音をあえて描かないことで独特の世界を形成してるのかもしれない。
学び取れるところは学び取っていきたいもんです。

あと、ヒワイドリでどうしても笑っちゃうんですよねw
コケェッ!!


華佗
「UTAU日本鬼子国民的アイドル化漫画
 第二話 今寝る子☆」


日本鬼子、亞北ネル、今井知奈(いまいちさん)のユニットですたい。
もうツッコミどころが多すぎて何から言えばいいのか……!w
たったの四ページでこのテンポと読み応え、ちゃんと計算というか、計画してコマ割り振ってるんだろうなあ。

今回はネルさん回でしたな。
とりあえずネルさんはずんだ餅を練り練りしててください。
うん、このタイトルセンスがたまらないですな。

いまいちさんの荒ぶる踊りが見られて、僕、満足!
(というか、こんなあらぶってるいまいちさん、他にないんじゃ……?)
常識の壁をぶっ壊す新ユニットの今後に期待ですね。



薄い本の感想は以上です。
うん、他にも挿絵がちらほらあって、
「あれ、このイラスト誰のだろう……?」ってのが二点くらいありましたが、
そこは便利な言葉割愛を使っておきましょう。


さてお次は

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UTAU_ONICO Special Oniko song 02
(クロスフェードデモ:徒 -WASTEFULNESS-

青い! ってのが、表紙を見た第一印象です。
なるほど薄い本とイメージカラー一緒にしてるのか。
鬼子さんて赤と青がよく似合うけど、他の色はどうなんだろう。
配色センスの乏しさは絵心以上にないため、考えの糸はここで断ち切っておきましょうかね。

あとタイトルクリックで飛べるクロスフェードデモ。
私はCD買って全部聴いたあとでじっくり鑑賞しましたが、
「この映像を無料で見られるとかワケわかんねえよ!」って感じですねw
とりあえずDVDで見たいです(迫真)


というわけで、中身を聴いてみましょうか。


作詞/作曲:市木テク次郎「鬼ごっこ」

これは、これはいい導入曲ですわな。
現実の世界から鬼子の世界へいざなう曲としてこれ以上に最適な曲を私は知りませんね。
雨の音の中から宣言される「日本鬼子ぷろじぇくと」の一声。吸い込まれましたよ。

「からすが鳴くから帰りましょ」というフレーズがさらっと出てきて、
これが「いざなう曲」の決定打ですね。
鬼子さんに関わる人であればなじみ深い「HAKUMEI」の本歌取り、であるかの真意は
作詞者の心の中でしか分からないですが、少なくとも自分はそうだと思うし、
だからこそHAKUMEIの情景が詰まった拳でこめかみをぶん殴られた気分になりました。

長い前奏・間奏からは迷い、生きる意味の迷走を感じます。
繰り返されるメロディとビート、雨の音……。
まるで、迷宮の中をぐるぐる回っているような、そんな情景が浮かびましたね。

「鬼ごっこ」というタイトル、そして歌詞からじわじわと「孤独」が浮かんできます。
孤独でありながら、外界と接していかなければならない。
……そういう悲しみを孕む孤独が、
仮面を被った孤独がありありと映し出されていることにハッとなりました。
最初に「現実の世界からUTAU鬼子の世界へいざなう曲」と言いましたが、
しかし決して「鬼子の世界」だけで完結しているわけではなく、
ちゃんと私たちの心に存在する世界にも直結しているんですよね。
「導入」としてなるほどこれは一押しできます。



作詞/作曲:しろーにP ギター:夜娘「Ambience cycle」

これは、おおすげえ、今初夏の草原の風を横に受けてる。
何も考えなくてもすっきり聴ける。頭空っぽにしても、風は気持ちいい。
冒頭の電子コールは、ちょっとしたパーティの幕開けを合図してるに違いない!

一番「裸足 晒し……」
二番「サラシ 晒し……」
この韻を踏んでるリズム。思わず踊りだしてしまいそうになりますね。
踊りたくなる声質の良さがまた病み付きになって、中毒にも成り得るのがこの曲。

「Ambience cycle」ってタイトル、面白いなあ。
頭に据えて聴いてみると、色々置き換えてみるのも楽しみ方の一つかなと思います。
流れよく三つのパートをぐるぐると回転している様や、
(作詞者のイメージとはまた違うものだと承知ですが)一組の男女がぐるぐる互いを追いかけてるような、
そんなイメージがぷつぷつと湧き上がります。
いやまあそんなことを考えずしても、一貫したギターの響きに酔いしれ、
最後の絶叫にとろけてしまえばこの曲は十二分に楽しめると思いますけど!

ロック調(と音楽素人の自分がジャンル指定してしまっていいのか疑問ではあるが)
UTAU鬼子は、とても新鮮だったりします。この新鮮さは直感的ですけど。
これは鬼子からUTAU鬼子が脱皮した、そんな気がします。
UTAU鬼子世界のビッグバンは――少なくとも私の中では――まさにこの曲でありましょう。

ただ気になるのは、薄い本30pに付属する歌詞で、
二番二聯四行目が「帰らない貴方の記憶」ですが、多分「もう帰らない貴方の記憶」だろうってことですかねえ。




作詞/作曲:はまち(オドロンP)「日輪」

この曲は決して激しい曲ではないですが、
植物的な力強さ、雑草的なたくましさを全体に含ませていますね。
それも種子から芽が飛び出すその瞬間を切り取ったイメージ。
これから幾度も踏みつけられるだろうが、それにも屈しない力をみなぎらせているように感じました。
新入生や新入社員に聴かせたいものです。彼らに聴かせても暗い印象は抱かせないでしょう。

曲調は和風で、日本的弦楽器の音色がリードしてるんですが、
私が惚れてしまったのはベースです。
前奏でのベースとの出会ったとき、一方的な恋心を抱いてしまいました。
持ち上げ持ち下げ、まるで指揮をしているようでした。
指揮棒を振るう姿が今鮮明に目の前に浮かび上がってます。汗の滴まで。

それから脚韻ですね。歌詞を見ずとも容易に存在を認識できる韻が耳を撫でるんですよ。
押韻に反復法、基本的修辞が散りばめられているんですが、
不思議と鬱陶しさは感じられません。うまく踊ってるんですよね。
技を自分のものにしているからこそ、音楽と調和できるんだと思います。



作詞/作曲:higeoex「風吹く夜と雨の朝」

UTAU鬼子には珍しく、この曲で真夜中の都会の賑やかさを感じました。
高層マンションの一室、窓際のチェアに座って洋酒を傾ける女性を想像させます。
たぶん80年代かなあ。そんな感じがする。
遥か眼下の先に排気ガスを吐き出す自動車の群れが滞っているような。
この歌から溢れ出る都会的な騒音には思わず感心してしまいました。

だからこそ、「おにぎり美味しかった」のフレーズがやけに浮いて耳に入ってしまうんですよね。
(何度か聴いてみると「浮きだたせている」という表現のほうが正しそうですけど)
「おにぎり」で「日本鬼子」を想起する性からなのかもしれませんが、
「彼女」にはサンドウィッチやトーストが似合うような気がします。

しかし、この力のあるパーカッションは心臓の鼓動とシンクロして、安定してますね。
一聴不安をあおらせる調子なんですが、
聴けば聴くほど、血流を支配されていくような気がしてならないんですよ。
そのままこの作品に身を委ねてしまってもいいとさえ思ってしまいます。
問えば問うだけ答えが返ってくる。
この魔力はどこからくるんでしょうか……?

五聯一行目、「雨は屋根をぬらし」→「雨は屋根をぬらして」ですよね?


作詞/作曲:ギーチ(ハトポッポ師匠P)「泡沫の月」

この曲だけ、動画のものを聞いてしまったので、今回が初ではないのですが、
母親が子守唄をうたってくれているような、そんな感覚で聴いています。
視界はぼやけていて、でも鮮やかで、でもおぼろげで、曖昧なんですよ。
赤子に逆戻りしたような錯覚です。

単に曲調がゆったりしてるからこんなことを言ってるわけじゃなくて、
まるで自分のことを守ってくれるような、
そんなことを彼女は耳元で囁いてくれているような、そんな気がするんです。

一聴目、軽く聴き流したときは、「あーはいはい、男女の切ない恋歌ね」と解したわけですが、
今聴いてみると、これは母と子の物語なんだなと思っております。
ラストフレーズで、母とその腕に抱かれて語りに耳をすます子が、
まるでパステル画のように浮かぶんですよね。

最初と最後の「コツ、コツ、コツ、コツ……」は、
時間を遡り、また元に戻る際に奏でられる音なんだと思います。
これもある意味「玉響の奇跡」と言えるでしょう。夢のようなひと時です。

ただ31p歌詞の七聯三行目「暖かな漏れ日に抱かれて」って「暖かな漏れ日に抱かれて」の間違いかしら……。



作曲:市木テク次郎 作詞:無楽「月之宵蛮鬼共之宴」

これが、トランス……と呼ばれるもの、なのか!? 
そう、深く考えるのではない。
踊れ、踊れ! 踊るんだ!
何も考えずにさ!
首を上下に、首を上下に、上下に上下に上下に上下に!!

そして自分は江戸中期の見知らぬ村のお祭りの中にいたりする。
お神輿担いで、横笛かき鳴らして、歌って叫ぶ群衆の中に!
旅の終わりがここだってことも、それはそれでいいんじゃないかな、なんて思ったりする。

そして、最後の最後、はっと現実に戻されるわけですが、
その言葉がまた印象深い。まさかこの言葉ですとんと落ちるとは思わなんだですね。



と、まあ、こんな感じの感想となりました。
果たしてこれを感想と称していいのかは怪しいところですがw

薄い本の方は評論チックに、
CDの方は感性に委ねて感想を書きました。いや書いたつもりです。

薄い本の方も、五感を余すことなく使用して感想を書きたいものですね。
というか、ガンガンJOKERの方でもですな。
感性から出てきた違和感の指摘ほど安定的なものはないと思うんですよ。
……え、矛盾してます?

というわけで、各々じっくり読んだり聴いたりしましたが、
やはり一番印象に残ったのは「風吹く夜と雨の朝」ですね。
ここで音楽と自分とで語り合えたような気がします。

正直、ここまで深く音楽に酔いしれたことはありませんでした。
音楽を聴いて涙を流すことはありましたが、
そいつは音楽から自分への一方通行であるのに対し、
語らうのは互いを行き来ですからね。そういう不思議なこともあるんですね。


というわけで、自由奔放に、やんちゃに感想を書き散らしてしまいましたが、
ぜひぜひ「UTAU_ONICO Vol.02」「劇団鬼子」「日本鬼子」をよろしくお願いします。
 この日、アタシは悩んでいた。周囲からすればたいしたことのない話なんだろうけど、自分にとっては迷惑この上ない場面に遭遇してしまっていた。
「アンタに憑いた鬼、祓わしてくれへんか?」
 秋も宿題締切も間近に迫る八月末のどんよりとした日だった。近所の境内にある祖霊社、日本さんと出会った場所で、私は新たな出会いをしたのだった。とはいえ、今回のは街を歩いてたら道端アンケートの人につかまっちゃったくらいひどい出会いだけど。
 まずそのアンバランスな仮面が目に入る。四つ目の人面が彫られている。たぶん歩くとき頭がふらついて大変なんじゃないかって思うけど、さておいて次に着目してしまうのはその手に持つ三叉の矛と胴長のホームベースみたいな盾だ。ああ、確か隼人盾とかいうやつなんだろうけど、そいつに荒っぽい白ペンキで「ONI IS OUT!!!」と塗りたくられている。そんな装飾しちゃって大丈夫なのか?
 うん、なんかアフリカの先住民さんのコスプレイヤーに出くわしてしまったようだ。とはいえ、その肌は何十年も日の光を浴びていないんじゃないかって思うくらい白くて、指で弾いたら折れちゃいそうなくらい細い手足だった。髪も暗室で発芽した植物の葉っぱみたいに色素を失って白くなってしまっている。活動的なコスプレをした病弱少女。しかも、その背中には大きな黒い巻物……いや、本物かレプリカかは判別できないけど、ありゃどう見ても恵方巻きだね。いや別に今は節分でもなんでもないけど。
 そして尻尾に毛を生やした丸っこい赤小鬼と青小鬼を引き連れてるってオチ付きときた。
 何が「鬼を祓わしてくれへんか」だよ! 憑いてるのはそっちのほうじゃないか!
「あーすみません、アタシ間に合ってるんで」
「まーまー、石鹸付けたる。ウチ太っ腹やから、ティッシュも付けて月二千九百八十円でどや……って、新聞の勧誘ちゃうわ!」
 なんか、激しいデジャヴをを感じる。
「あのなあ、三文芝居しとるんやないで? 東西折衷とか求めへんから!」
 アタシも東西折衷なんて求めてない。今まで関西に行ったことなんてないけど、あっちはこんな人たちがたくさんいて、毎日がボケとツッコミなのだろうか。まったく、精神参っちゃうよ。いや、この子だけが特別なんだ。そう信じることにしよう。
「ウチは本気さかいに、アンタにゃ鬼がひそんどるで」
 うん、別に鬼の存在は否定しないさ。それだけでもアタシは他の人と比べて随分寛容だと思ってほしいくらいだ。でもこの人を信用しないのには二つ理由がある。
 一つ、日本さんのケガがよくなってからはほとんど毎日一緒に遊んでるけど、アタシの心にあるらしい鬼を感知して教えてくれたことはないし、アタシも鬼が憑いてるような、あの変な気持ちはちっとも感じない。
 二つ、人に鬼は祓えない。祓えるのは鬼子さんと神さまだけだ。よって、この真っ白くてげそげそした女の子はあやしい人物なのである可能性が高い。うん、そう、例えば中二病の患者さんだとかね。独断とハッタリでアタシに鬼があると判断を下しちゃって、勝手に勧告しちゃってるんだ。
 以上の考察により、導かれる選択肢は以下の通りだ。
 一、逃げる。
 二、逃げる。
 三、逃げる。
 四、逃げる。
 アタシは即断して、二の「逃げる」のカードを奪うようにして取った。
「じゃ、忙しいんで!」
「あ、ちょ、待てえ! 待てえゆーとるんやで!」
 待たない。こういう人が現れたら迷わず退けって兄貴が言ってた。幸運なことにここは祖霊社だ。二十メートルハードル走。ハードルはお賽銭箱で、ゴールは本殿の祠にある紅葉の小石だ。疾走し、跳躍する。今なら地区大会で優勝できる自信がある。紅葉石まであと少し。あそこに行けば――。
「た、田中さん、ごめんなさい、遅刻してしまいました!」
 目測二・五メートルメートルのところで新たな障害が出現した。
 危ない! なんて言えるヒマがあったら避けている。そのまま日本さんの懐に着地する姿勢をとった。とぼけた顔がアタシを捉えるとともに、二人重なって祠の前に倒れこんだ。紅葉色の着物から、深くて甘い香りが舞った。
「もう逃がさんで」
 草履を引きずり、じゃりじゃりと距離を詰められる。大股で歩いているのを見れば、せっかちな性格だってことがが窺える。彼女の前と後ろにそれぞれ赤と青の小鬼が短い足を動かしていて――なんてのんきに考えられる時間はないんだけど。
 立ち上がって日本さんの腕を引き、紅葉柄の背中をはたいてあげる。不思議と汚れはきれいに落ちて元通りになった。
「って、ちょい待ち」
 大きな四つ目の仮面をかぶった女の子の声が、突如として震えた。小刻みに揺れる人差し指がアタシを通り越して日本さんに定まっていく。
「ア、アンタ……鬼子やないか」
 まるで向こうの世界の人を見ているようだった。日本さんを見て、恐れを抱いている。心の底から、まさに日本さんこそが恐怖の根本であるかのような、そんな顔をしていた。
 次の瞬間、銀髪の女の子の目の色が変わった。リモコンでチャンネルを変えたみたいに、本当に一瞬で切り替わり、矛を突き出して駆け出した。
「ここで会ったが百年目ェ! 鬼子ぉ、この手でアンタを――」
「日本さん、あの子と知り合いなの?」
「さあ?」
 女の子が転んだ。いや、関西流ひな壇ズッコケを炸裂させたと称したほうが正しいだろう。こちらが言葉を失うほどの美しいフォルム、ストリームの転び方であった。砂煙まで見惚れてしまう。連れの鬼も絶妙なタイミングで転がる。まさに経験によってすべてを計算しつしているのであると言っても過言ではない。
「まてまてまてまて! なんかもー何からツッコんでええのかわからんわ! あのな、ウチの名前くらい、このお面見たらわかるやろ!」
 額に取り付けられた、頭一つ分はあるだろう仮面を指さす。
 そんな印象にしか残らないものを付けてるのに、記憶をいくら漁っても思い当たる節はなかった。日本さんも首を傾げている。
「どー見ても方相氏のナリやろが!」
「ほーそーし? プレゼントか何かを包むつもりなの?」
「そーそー、ウチ、キャラメル包みが得意なんやで。ラッピングなら任せとき……って、包装紙ちゃうねん! 方相氏! 紙ッ切れと一緒にせえへんといて!」
 ちょっとボケたところでこれだ。この子の思考回路はどうなってるんだろう。相当回転速いんだろうなあ。
「ウチは如月ついな! またの名を役小角の末裔、役追儺(えんのついな)や!」
「ちょ、またの名ってなんだよ!」
 そういう設定の芸名なら至極納得がいく。ファンにはならないけど。ごちゃごちゃと名前が飛び交ったけれど、脳内検索で検出される名前はなかった。
「役小角……」
 でも日本さんは何か心当たりがあるみたいだった。
「エンノオヅヌ?」
「ええ、古の時代、鬼や神さまを操ることができるほどの法力を備えていた呪術者の名前です」
「ふふん、さすがやな。天敵のこと、よー知っとるわあ」
 自称役追儺は得意気に三叉の矛の石突で地面を二、三度叩いた。
「でも、その血はずっと昔に途絶えてしまったと」
 その瞬間には自称役追儺は地面に突っ伏していた。スピーディでアクロバティックなコケである。
「絶えとらんわ! びんびんしとるさかい!」
 幾度となく転びまくってるせいで、戦う前から服は砂ぼこりにまみれてしまっていた。体を張っていることが見て取れる。
「アホも大概にしとき。ウチはホンキなんやで。鬼子くらいあっちゅー間にケチョンケチョンにしたるわ」
 なんというか、この必死さを見ると、初めて会ったときの日本さんを思い出す。あの時はまだ日本さんを鬼として見てなくて、単なるコスプレ少女だと思っていたんだっけた。
「あのさ」
 懐かしい。胸の奥で、小さく言葉を漏らす。
「君、本当に鬼を祓えるの?」
「トーゼンや! 役小角の末裔を甘く見んといて! 今から倒したるから目ェかっぽじってよう見とき!」
 自信の塊みたいな台詞を吐き、役追儺は矛を日本さんに向けて身構えた。
「あー、違う違う。そういうことじゃなくてさ、君、言ってたよね、アタシに鬼が憑いてるって」
「えっ! 田中さん、また憑いちゃったんですかっ?」
 自称方相氏の供述によれば、だけど。やっぱ日本さんの鬼的な感覚では心の鬼を感知してはくれないようだった。
「この通り、日本さんはアタシに鬼が憑いてることに気付いてないんだ。ここでアタシの鬼を祓うことができたら、いい牽制になると思わない?」
「アンタの思惑はわかっとるで。ウチが除霊の呪術を唱えとる間に鬼子が奇襲仕掛けるっちゅー成算やろ!」
 びしぃという擬態語が音になって飛び出るように、相方氏追儺は勢いよく指をさした。
「いえ、私はそんな卑怯な真似はしませんし、あなたがその気でないならば戦いたくありません」
 と言って日本さんは薙刀を祖霊社の脇に寝かした。追儺氏は歯ぎしりしながら日本さんを睨みつけるけど、返答は無言のみだった。
「アホらし、疑うばっかじゃアカンな。アンタの鬼、ウチの編み出した究極エクソシスムで倒したるわ!」
 三叉の矛を天高く掲げ、盾を地球の内核を貫いた。何やらぼそぼそと呟きながら円を描くように矛を振り、上段から突き落とすように刃を向ける。一点の動揺もない黄金色をした六つの眼差しがアタシの目と目の間に集中する。アタシを見ているんじゃない。アタシの中にある「何か」を見ているんだ。そう思う。
「覇ッ!」
 矛が眉間の寸前で停止する。アタシは反射すらできなかった。彼女の突きはただ空を貫通しただけで、アタシはどこも傷ついてはいない。でも、目に見えない「何か」がアタシの身体を通り抜けたような、そんな気がする。
 ……というのは、単なる気のせいだったのかもしれない。具体的にいえば、方相氏の役追儺と名乗る如月ついなの「究極エクソシスム」が、まるで中学生が意気込んじゃってカッコいい踊りを追求した結果、五年後に思い出してみると恥ずかしすぎてのた打ち回っちゃうような代物へと成り下がっちゃった系の「アレ」なのではないかと。
 時は止まっている。頭上のケヤキですら、葉の擦れる音をやめて、じっと役追儺を見下していた。
 目に見える変化は何一つとしてなかった。アタシの体にも寸分の異変は感じられない。
 役追儺の顔が引きつりだした。
「あ、あれ……? おっかしいなぁ」
 わけもなく三叉の刃を上下に振る。しかしそれもただの空振りに終わり、彼女は今、二死満塁で三球三振したばかりの八番ライトのポジションに立っていた。
「な、なんや! その『うわーこの子痛いわーマジ痛いわー』っちゅー視線はっ! きょ、今日は調子が悪いだけや! 決して鬼を倒せへんっちゅーことちゃうで! ええな、勘違いしーひんといてな! ここんとこ重要やから! 今日んトコはここまでにしたる! 命拾いしたな、鬼子! 次こそアンタを倒したるから、足洗おて待っとき!」
 日本さんに人差し指を突きさして、長々しい台詞を滑舌よく十秒というガトリングな早口で吐き捨てた。正直、鬼が祓えるかどうかより、こっちのほうが尊敬に値する。
 再び沈黙が訪れる。頭上のケヤキはもう呆れてしまったのか、無関心に葉っぱを揺らしている。
「って、そこ足やなくて首やろがっ! って、どっちかツッコまんかい! ウチぁピン芸人ちゃうねん! 方相氏やねん!」
 と、どう見てもヨシモトのピン芸人にしか見えない少女は今度こそ祖霊社を後にした。
「なんだったんだ、あの子……」
 二匹の鬼も見えなくなったところで、正直に現状の心持ちを漏らした。
「とりあえず、害はないみたいですけど」
 うーん、あの様子だと、性懲りもなく日本さんにちょっかい出してくるような気がしてならないような気がする。まあ、面白い子だし、どうせ日本さん相手じゃ敵わないんだろうから、むしろ個人的には歓迎なんだけどね。
「それじゃあ日本さん、邪魔が入ったけど、改めて心の鬼祓いに行こうか」
「そうですね。今日は五、六体祓いたいですね!」
 はは、相変わらず無邪気なクセに好戦的だよなあ。

   φ

「それじゃあ、日本さん、またね!」
「はい、今日もありがとうございました!」
 田中匠と日本鬼子の会話が終了した。
 日が暮れてもじめじめと肌にまとわりつく空気が離れない。もう九月も近いが、残暑は始まったばかりだ。この暑さはあと一ヶ月続くのだろうと田中匠は思考し、もう勘弁してほしいとうんざりした気持ちを生じさせた。それに加え、残った宿題の山を思い起こすと、私まで鈍々しい瀝青の湖に呑まれていく感情に侵される。
 日本鬼子が向こうの世界へ飛んでいく。ようやく私は呼吸を許されたような気がした。
 全く、願望を吸収せずに人間の心に宿ることがいかに至難であることか。私はまさに半殺しの目に遭ったまま生かされている。あの青狸大将の願望鬼が私を消滅させないよう力を送ってよこすのだ。まるで生きた心地がしない。
 今朝は祓われることを覚悟した。如月ついなだか役追儺だか判然としないままであるが、奴は私の存在に気付いていた。あのときは存在維持できる最低限の力しか放出していなかったにも拘らず、少女は確信をもって――少なくとも田中匠の五感と意思を介してでは――私の存在を見抜いていた。幸いその強大な霊力を活かしきれていないようであったから、私は今もなお田中匠に束縛されて密偵を続けられているのであるが。
 しかし現在の本務は田中匠の心に居座って日本鬼子の監視を行うことではない。こちらで天魔党の駒となる鬼を模索し、吟味し、取り憑いて操って人間共を混乱させることを主としている。日本鬼子の生態観測なんかより断然私を活かせる指令だ。私はただ願望を貪るように食い漁っていればいいのだ。これ以上楽な仕事はない。本能の赴くまま、存分に成長できるというものだ。
 宿主は祖霊社を出て八幡宮の中を歩いている。頭の中はいかにして効率よく宿題の山を崩していくかでいっぱいで、私の居場所はごくごく限られた空間であった。早く劣悪な環境から脱したい。願望を吸う私が願望を抱くとはなんと滑稽なことであろうか。
 しかしなりふり構ってはいられない。日本鬼子と別れた今から、田中匠の自宅の門を開けるまでが残された唯一の機会なのだ。日本鬼子がいる間は、他の鬼に憑いたとしても諸共斬られるのが関の山であるし、田中匠の家では鬼に憑くことができない。家というのはそれだけで結界の役割を果たしているのだ。だからこそこの道のり、神社から田中匠宅までの七分間、私は全ての感覚を五感に移行させ、外界に張り巡らす。
 この世界には神というものが少ない。神社の木々ですら、神が宿っていない。御神木に、絶命寸前の神が息んでいるのみである。これでは町の無格社の神はとうに堕ちたか死んだかしているのだろう。こんな世で人間がこうも平然と生きているのが不思議でならない。つまるところ、自然に宿る鬼もいない。鬼は人間の心に宿れる者のみが生き残って、あとは皆絶えてしまったのだと言っても過言ではない。
 人と会わなければ鬼にも会えない。しかし、日が暮れた細道に人間の姿はどこにもなかった。いっそ田中匠の願望を増幅させて一思いに暴れてやろうかとも思ったが、そんなことをしてどうなるわけでもない。かの日本鬼子に斬られてしまったら仕舞いであるし、伊達や酔狂で田中匠の感覚を介して日本鬼子を観察しているわけではない。生き残るためには、人間に憑いて暴れるより、鬼に憑いて身を守るしかないのだ。私と私の分身はそうして千歳を乗り越えてきた。
 切れかかった街灯に羽虫がたかっている。もう田中匠の家は間近であった。あの光を越えた先を右に折れてすぐ左の門をくぐってしまったら、私は田中匠が宿題を終えるまで鬼に憑く機会を失ってしまうのだ。これ以上の長居は私を発狂させる。田中匠の身体が街灯を抜けた。どうか、曲がった先に人間がいてほしい。この際鬼が憑いていなくても構わない。外出する人間であればそれで結構。社会の歯車にされて機械的に仕事をこなす人間が望ましい。頼む。私は願望を籠めた。
 だが道の先には誰もいなかった。鬼も神もいない闇だけが続いていた。
 田中匠が門に手をかける。こうなれば宿主の兄である田中巧に憑いてしまおうか。奴はこの宿主より動く。買い物にもよく出かける。そうすれば――
「田中さん」
 宿主の鼓膜が震え、外界からの信号を認知した。突然だった。つい先ほどまで人間の気配はどこにもなかったというのに。奴はどこから現れたというのか。
 田中匠はこの声に聴き覚えがあるようだったが、咄嗟に名前と顔を浮かべることができなかった。
 次に視覚が対象物を認識する。好き勝手に伸ばされたぼさぼさの髪の毛、彼岸花の髪留め、暗くてよく見えないが、たいそう疲れ果てた様子を醸し出す目のふち、しかし暗闇でも映える白く弱々しい肌。薄汚れたつぎはぎだらけの服は、どこか手術跡のように思われた。
 宿主の思考は夜明けの清流のように輝きを放ちだした。田中匠は一度この少女と会ったことがあるのだ。
「ああ、君は――」
 田中匠の喉が震える。が、途端に思考は固まる前の混凝土(こんくりいと)のような液体に変化した。私は為す術なく底なしの沼にはまっていく。
 田中匠は奴の名前を知らない。ただ熊のぬいぐるみを渡され、友達になっただけなのだ。よって私も奴の名を知らない。
 だが驚くべき事項はそれではない。
 奴は『人ならざる者』なのだ。
 なぜそうなのか、私にもわからない。宿主は奴を人間と見なして接しているから、具体的な情報は入手できない。しかし奴から発する気はどう見ても人が放てるようなものではなかった。ともかく神の去った世界に奴のような存在がいるのは、甚だ珍しい事態なのではないだろうか。しかし、これ以上驚喜すると宿主が私を関知しかねない。無心を装って奴の様子を舐めるように視てやろうではないか。
「田中さん、何してるの?」
「え、ああ、今まさに家の門を開けようとしてるんだよ」
「ここ、田中さんのおうちなの?」
「まあね。狭っ苦しいところだけど」
「そうなの……。あの、田中さん」
「なんだい?」
「あの、あした、田中さんとあそびたいな」
 その瞬間、田中匠の思考回路に「宿題」という二文字が八重束になって迫ってきた。もう一分一秒を争う事態になりつつあるのだ。
「あーごめん。しばらく遊べないかもしれない」
「そんな……」
「ご、ごめんね。アタシが今までサボってたせいなんだよ。締切……いや、うん、宿題早く片付けるからさ、そしたら一緒に遊ぼうよ」
「しゅくだい、いつ終わるの?」
「んー、く、九月明けには……」
「おそいよ、田中さん」
「ごめんっ! ホンットーに、いやマジで全力を尽くして必死にもがいてあがいて片付けるから! そうしたら、そうしたら遊ぼう! うん! 全力で遊ぼう!」
「ほんとう?」
「もちろん。この田中匠、心の底から誓ってあげましょう」
 心の底から黄金に輝く脂肪のようなものが膨れ上がった。誓いだ。その言葉が嘘ではないことが手に取るようにわかる。
「それじゃあ、これから缶詰になるけど、次日差しを浴びるときが来たら、よろしくお願いね」
 そう声を発して、田中は門を開けた。
 ごめんね、と後方に罪悪の感情を抱いて、門をくぐる。
 ようやく見つけた。奴は鴨だ。人ならざるもので、田中匠に近しく、温もりに飢えている。これ以上ないほどの立地条件ではないか。
 さらばだ田中匠。貴様の心は実に居心地の悪い場所であった。
 これから私は奴の心に乗り移る。願望の鉱山だ。苦行を強制されていたのだから、次は傍若無人に驕り昂ってやる。


 田中さんがあそんでくれないの……。
 奴の心は、タクラマカンのように、何もない荒んだ大地が広がっていた。砂の一粒一粒が孤独を象徴し、澄み渡った蒼天の先にある無数の星は皆田中匠を示していた。この宿主は願望の塊であった。鉱山のように屑が見当たらないのだ。
「貴様は田中匠を欲しているのだな」
 私は砂漠の中心で声を張り上げた。空間が動揺する。
「あなたはだあれ」
 貴様は心の中でそう返答した。
「私は願望鬼。貴様の願望を叶えてやろう。貴様の願望はなんだ?」
 田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい田中さんとあそびたい。
 貴様の望みが狂ったように迫り来る。私は御馳走を残さぬよう一口で喰った。混じりけのない、深い味わいが身の全体に沁み渡る。
 これはいい。青狸大将の脂身のように濃厚な馳走も良かったが、この宿主の濁らぬ情は何にも勝る。余計な着色がない分、純水のように通りがいいのだ。
 さあ、洗脳を始めよう。
「ふむ、ならば見方を変えてみようではないか。そもそも田中匠と遊ぶということは、田中匠の合意が必須であることにお気付きか。そう、田中匠が貴様の提案を拒み続ければ、永遠にその願望は果たされぬのだ。苦しいだろう? 辛いだろう? すさむだろう? だからこそ見方を変えるのだ。貴様はかつて田中匠にぬいぐるみを贈ったそうではないか。そうだ、あの綿の飛び出た熊のぬいぐるみだ。貴様は田中と出会うまで孤独であった。間違いないな? その時貴様の心を紛らわしたのはそのぬいぐるみであった、間違いないな? その頃は幸せだった。遊ぶ相手がいたのだからな。ぬいぐるみはいつまでも受身だ。感情を持たぬ。貴様が伸ばした指先を拒むことは決してない。ぬいぐるみは貴様に忠実だからな。何があっても背くことはしない。殺せと命ずれば殺し、死ねと命ずれば死ぬ。完全な下僕となる。貴様は心ゆくまで戯れるがよい。ぬいぐるみで遊ぶことに合意は無用だ。しかし、今そのぬいぐるみは田中匠が所有している。だが気にすることは何一つない。田中匠もぬいぐるみなのだ。田中と遊ぶのではない。田中で遊ぶのだ」
 宿主の砂漠から音を立てて気味悪い地衣類が生え出て、同時に幻覚的の茸がかしこから湧き出てきた。
 田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ田中であそぶ。
 貴様の願望は爆発した。私はその爆風を残さず貪ろうと試みた。
 その欲望が仇となった。奴の願望が、私の想像以上に――いや、想像以上であるという想像はしていた。しかし私の想像はあまりにも卑小で夢のないものだったのだ――極大で、大宇宙を形成するまでになっていた。一日や二日で形成されるものではない。一個人に向けられる凄まじい飢渇を持ち合わさねば、これほど欲深い心の闇を生み出すことは不可能である。
 だが私は願望の吸収をやめなかった。いや、やめてはならなかった。ここで停止すれば、たちまち私は呑まれ掻き消されてしまう。生き延びるため、生きながらえるため、生存本能が絶叫しながら、私は死ぬために食っていた。
 呆れるほどの計算違いだ。私は観念した。私以上に欲深い存在はいないと思っていたが、上には上がいることを思い知った。
「綿抜鬼」
 私は貴様に名を付けた。ぬいぐるみで遊ぶ鬼と化した貴様にふさわしい名だ。
「はは、信じらんねえぜ!」
 綿抜鬼は急激に成長し、田中匠とほとんど変わらない背を獲得していた。つい先程まで幼年の姿をしていたくせに。
 もう私も限界だ。
 まあ、日本鬼子に斬られるよりかはまだましだろう。膨張しきった私は破裂した。
 しかし、私の破片もまた綿抜鬼の願望に呑まれ、宇宙の藻屑となり、ゼロとなった。

   φ

 たぁなかさぁん、あそびましょ。
 貴女の中身はなにいろかしら……?


「貴女が鬼子ね」
 油蝉の不協和音の中で、白い猫耳に眼鏡が印象的な背の高い女性に声を掛けられる。ちょうどやまめをしとめ損ねたところだったので、恥ずかしいところを見せてしまった。
 白狐の村を発って一年と三ヶ月が経った。その経験から察するに、どうも鬼や神さまからは偏見を抱かれていないようだった。もちろん性格的に気に入らない、女のくせに、みたいな見られ方をされることはあったけど。
 あれからもときどき中ラ連のお世話になるけど、私もこにも仲良く語らうことができていた。
「頼むから俺は祓わないでくれよな」と冗談めかして言う鬼さえいた。中ラ連に縋る鬼は、私が祓うような獰猛で凶暴な鬼から日々怯えて生活する鬼がほとんどなので、私たちはむしろ憧れの対象でもあった。有名になるのは恥ずかしかったけど、でも貧しい鬼や神さまからの激励が鬼を祓う力の源になったのは確かだった。
 そんなこんなで、猫耳の女性を見た。今まで見たことがないほど耽美な白い衣をまとっている。焼き付けるような日差しの中、女性は分厚い衣装で直立している。こには川岸で水遊びを楽しんでいた。
「あの、あなたは――」
「ソレ、何に使ってるのかしら?」
 私の質問を完全に無視して、女性は鬼斬を指さした。
「一応、銛の代わりですけど」
 女性が顔を覆い、盛大な溜息をついた。
「驕れる神器も久しからず、ね」
 でも私たちにとって鬼斬は命の源だった。獣を狩り、肉を裂き、枝を削る。柄が長くて料理には不便だけど、慣れればどんな包丁よりも扱いやすかった。
「まあいいわ。アマテラスサマから伝言預かってるから」
 面倒くさそうに白雪の髪を掻き、豊満な胸元から巻物を取り出した。
「ちょ、ちょっと待ってください! あ……いえ、お待ちいただけませんか?」
 天照大御神さま。神々しく輝くお天道様で、とてもじゃないけどこんな私がお会いしていいようなお方ではない。なんと申せばいいのか、なんと反応し奉ればいいか、この泥だらけの着物で無礼はないものなのか、そもそも振る舞いに非礼があるんじゃないのかとか、一気に頭の中があらゆるもので埋め尽くされた。大洪水だ。ちゃんと敬語を使わないといけない。
「えーっと」
 かの御神さまのお使い様は待って下さらなかった。
「『吾者聞八百万神鬼祓之噂。汝鬼子見、勅言』……はあ? ダメダメ、こんなの千年前でも理解できないわ」
 私は理解できない部類に分けられるけど、高天原の由々しい大神さまの方々なら、容易にご理解あそばせなさいますのでしょう。
「こにと一緒に犬神さんの里へ行って、心の鬼を祓いなさい。それが使命よ」
 大御神さまのお使さまはそう威勢よく仰せになられた。
「あ、ああ、あの、このような不束者のわたくしめでございますが……」
「世間知らずな貴方に、二つ世渡りの術を教えとくわ。一つ、下手な敬語を使わない。二つ、私に敬語を使わない」
 でも……と戸惑った。ここまで縛られていない神さまを、しかも大御神さまをさん付けで親しげに呼び表してしまう神さまなんて見たことがない。お怒りを買われないのだろうか。いやそれよりも、そんなお方とこんな世間の最下層の鬼の子が対等に話してしまったら罰が当たるに決まってる。
「いいからそう話しなさい。本来神さまってのは誰とでもフレンドリーなのよ」
「は、はあ」
 ふれんどりいってなんなんだろう。
「ねねさまー、この人だあれ?」
 遊び飽きたこにがやってきた。麻の着物は腰から下が水に浸ってしまっており、その手にはつるつるの小石が握り締められていた。
 誰と言われて、ようやくふりだしに戻ることができた。
「それでその、あなたの名前は?」
「あら、言ってなかったかしら?」
 もう何も言うまい。この人は気まぐれを煮詰めたような性格なのだ。周りの人たちを振り回しに振り回しても、当の本人は何の自覚もないのだ。
「みんなからは般にゃー、と呼ばれてるわ。貴女達もそう呼んで頂戴」
 般にゃー。その名前の由来はどこから来たのだろうか。般若と関係があるのは確かみたいだけど、猫又の女性と何の因果関係も見出せなかった。
「ああ、そうそう、これ忘れてたわ」
 彼女は懐から般若面を取り出した。
「般にゃーの般若、と仮称しておきましょうか。究極的真理を悟った瞳孔を観れば、心の鬼はたちまち人間から引き出されてしまうわ。またその口はよろずの神々と通じていて、貴女の戦いをサポートしてくれるはずよ」
 その深く濃い檜から掘り出された芸術に、私までもが魅入られていく。触れると胸が高く脈打った。般若が目撃してきた多くの事象が逆流して私の延髄を刺激する。神の息吹を感じた。
「それから、そっちのおチビちゃんにはこれね」
 般にゃーは谷間から鈴を取り出した。りりん、と癒される響きが蝉の豪雨をすり抜けて鳴り渡る。こぶし一つ分ほどの大きな鈴だった。
「なにこれー!」
 こには鈴を帯に結んでいる般にゃーに尋ねた。実に嬉しそうな問いかけだった。
「ふふ、これは恋の素。その音色には穢れを清める力に加えて、神と鬼を、鬼と人を、人と人を、あらゆるものを縁で結んで……そうね、みんなが仲良しになれる魔法の力がつまってるの」
「みんな、みーんな、なかよしだもんね!」
 こにはぱしゃぱしゃと飛び跳ねる。般にゃーはちょっと不快そうな顔をしていたけど、割かし気にしていないようだった。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
 行く。犬神さまの里へだ。この川を上ってしばらくしたところにそんな里山があると中ラ連の常連さんが噂していたのを思い出す。あの村から人の気配が感じられなくなってしまったどころか、犬神さまの一族の知らせも途絶えてしまったという話も耳にした。噂なんて当てにならないものがほとんどだけど(鬼子が人を襲う、なんてその最たるものだ)、生まれたからにはそれなりの理由があるのだろう。
「あ、ちょっと待ちなさい」
 薙刀についた水を振り払い、こにと一緒に里へ向かおうとしたところで呼び止められる。
「その薙刀、わたしが預かっておくわ」


 どこにでもあるような、何度も見たことのあるような、そんな里だった。山に囲まれていて、田植えをして間もない青々とした稲が見渡す限りに広がっている。その中から素朴な藁葺き屋根の民家が点々と生え伸びている。あぜ道は真ん中だけ申し訳ばかりに裸の地面が見えるけど、あとは大葉子や狗尾草が悠々と陽射しを浴びて背伸びをしていた。
 でも、どこか陰気くさい。人の姿もなければ、鳥や蝉の鳴き声すらしない。植物の天下だった。
 この場所に来た理由なんて、少し考えればわかることだった。
 畏れ多くも大御神さまがご命令なさったんだから、それ相応のゆえんがあって当然なのだ。
 試練なのだ。
 鬼斬なしで、心の鬼を祓う。不可能な話ではない。しかし、相手がおとなしい性格でという前提の話になる。閉ざされた胸の内を心を砕いて開いてやらなければならない。しかも穏便に。無理やりこじ開けようものなら心の鬼は暴れだし、おそらく私はそれに呑みこまれてしまうだろう。危ない綱渡りなのだ。
 現在、神さまと鬼の勢力は徐々に鬼のほうが優勢になっているらしい。堕ちてしまわれる神さま、荒ぶる国ツ神の邪鬼化、そういうものが増えてきているのだ。
「わたしはあまり隠し事したくないし、別に隠せといわれてないから言うけど」
 薙刀を託したあとで、般にゃーが二本の尻尾を振って囁いた。
「アマテラスサマは貴女を利用するつもりなのよ。鬼の力を弱める道具として、貴女を駒として選んだってこと」
 鬼で、神さまと敵対しているわけでもなく、強くて、鬼を祓う道理がある。般若面は私を後援してくださる半面、私が神さまに刃向かおうと思えばいつでも潰すことができる、いわば悟空の緊箍児(きんこじ)なのだ。散歩紐をつけられた私ほど適材な駒はどこを探したっていないだろう。
「それが嫌ならちゃんと言いなさい。わざわざわたし達のメンドーな問題に顔出さなくたっていいんだから」
 上にはわたしから言っておくわ。貴女は今まで通りの生活を送ればいいから。と般にゃーは付け足した。本来なら大御神さまの勅に逆らうことなんてできないのだろうけど、この女性がそういうのであれば、そんなあり得ないことも叶ってしまうような気がした。
 でも、私には断る理由なんてなかった。鬼を祓う鬼、それが私なんだから。
 承諾した私は連れ添いのこにと一緒に犬神さまの里へと赴き、今に至るのだった。
「おなかへったー」
 こにがお腹をぐうぐう鳴らして、そんなことを言った。口から言葉を発しているのか、お腹から言葉を発しているのか微妙なところだ。
「そうね、早く犬神さまのところでご飯にしましょう」
 民家から食材を分けてもらいたかったけど、塩をまかれるのが関の山だし、そもそも人がいない。そのくせ廃村のように荒れてるわけでもないし、鬼に襲われた形跡もなかった。
 おかしい。何かが変だ。今までの鬼とはわけが違う。
「ねねさま! あれ!」
 こにの指の先には、あぜ道で倒れている若者がいた。慌てて駆け寄り、口に手をかざして息を確かめる。
「う、あ……」
 意識もちゃんとあるようだった。
「大丈夫ですか? 怪我、ありませんか?」
 身体を起こしてあげたいけど、また嫌がられるからそれはできない。ただ見守ることしか術はないのだ。
「め、めん……めんどくさ」
 若者は、掠れた声でそう呟いた。
「めん? な、なんですか? もう一度言ってくださいませんか?」
「いやあ、二度言うとかほんと面倒なんで」
 だらだらと断られた。
 変だ、確実に変だ!
「犬神さまの元へ急ぎましょう」
「でも、このひと……」
 のっぺりと気持ちよさそうに日向ぼっこしている若者を一目見る。
「この方は好きでやってるの。大丈夫、行きましょう」
 こにの手を取り、走った。
 犬神神社は山にへばりつくように建てられた神社だった。社はお爺ちゃんの神社の蔵と同じ程度の大きさで、やっぱりどこにでもあるような村社だった。
 しかし、どこか異変を感じる。じわりじわりと体の一部分が吸い取られていくような、そんな気分がした。
 その気配のほうへ、一歩、また一歩と前進する。こにがぎゅっと私の衣を握りしめた。私だって何か確実的なものにすがりつきたかった。


 本殿の裏側に綿のような老犬と、茶色い髪に紅の道着を着る少年が寝そべっていた。おそらくは般にゃーの言っていた犬神さまなのだろうが、見る影もないだらけようだった。
「わんこの神サマ、だいじょうぶ?」
 こにが齢のいった犬神さまの元に駆け出した。しゃらんりんと鈴が鳴る。すると大の字に寝そべっていた老犬さまが身を震わせ、起き上がった。
「た、助かったわい」
 ついさっきまでの怠惰な姿は微塵も感じられない。神さまの威厳がひしひしと伝わってくる。この寸刻の間に何が起こったのだろうか。
「お嬢ちゃんのおかげじゃ。その鈴が『さぼテン。』の物臭な邪念を追っ払ってくれたんだよ」
「こにのおかげっ?」
 こにの目がきらきらと音を立てて輝きだした。この一年と三ヶ月の間、こには人がケガをしていても、鬼が暴れていても、私の裾をつかむことしかできなかった。どれだけもどかしい思いをしていたんだろう。
「うちの大馬鹿者が心の鬼を宿してしまっての、その邪気が村全体を覆ってしまったんじゃ。気付いたころにはワシ一人でどうこうできる事態でなくなってしもうた」
 そう言って、竹林の前でだらだらと尻尾を垂らし、肘を枕にして眠りこけている少年を指さす。歳はシロと同じくらいだろうか。シロのぱたぱたと慌てて駆ける廊下の音を思い出した。
「……私が代わりに祓います」
 頭に提げた般若面を手にし、犬耳の生えた少年の前に立つ。
「気をつけい。輩から出るさぼりの念に呑まれると、たちまちやる気を削がれるぞ」
 犬神さまの忠告を聞いて、心の中で頷く。確かに武器がない今、鬼に攻められたら一巻の終わりだ。でも鬼を祓う要領は武器のあるなしにかかわらず、さして変わらない。薙刀を振るうか、言葉を操るか、その違いだけだ。
 般若を顔にかざし、お面を通して少年わんこの瞼を射抜いた。禍々しい気配に気づいたのか、わんこが片目を開ける。その途端少年は眼を見開いた。こうすることで心の鬼と宿る身を分離させることができる……はずなんだけど、いくらたっても心の鬼は姿を見せなかった。おかしい、般にゃーから聞いた条件は全部揃ってるはずなのに。
「……めんどくせ」
 そう少年は呟いた。
「こいつから離れんのもかったりーわ」
 いや、違う。正確には少年に憑いた鬼が呟いているんだ。よく見ると、とげのないさぼてんが少年の背中から見え隠れしている。その姿を見るだけで気だるくなり、激しい無力感に苛まれた。
 私がここにいる必要性が見いだせなかった。そもそも私ってなに? みんなに嫌われてる。そりゃ神さまや鬼の一部からは好かれてるさ。でもそれが何になるの? どんなに頑張っても人から認められることはない。鬼という分類から脱することはできない。人の友達がほしい。でもそんなの不可能だ。じゃあ私は何のために鬼を祓ってるの? いいや、面倒くさい。考えるのが面倒だ。
立ってることも面倒で、つまらない世界を見るのも億劫で、外界と接するのもかったるい……。
「ねねさま!」
 りんりん。
 恋の素の音色で我に返った。冷や汗が全身から噴き出した。危なかった。もう少しで心を奪われてしまうところだった。
「ねえわんわん、こにといっしょにあそぼうよ!」
 こにが鈴を鳴らしながら近づいてくる。いつもなら鬼に近づかせないけど、恋の素がある今、こにが近くにいてくれたほうが安心だった。
「遊ぶ? めんどくせ」
 少年に憑いたさぼてんの鬼が答えた。鈴の音を聞いても反応はちっとも変わっていない。
「えー、あそぶのたのしいよ?」
 こにが残念そうにうなだれた。犬の少年はそっぽを向くのも面倒みたいで、焦点の合ってない目で神社の先を眺めていた。
「そりゃ楽しいさ、でも意味はない。体力の無駄遣いなんかしてられっか」
「ムダなんかじゃないよー!」
 こには無理やり少年を引っ張って走り出した。
「おい、何すんだよ」
「かけっこ!」
 こにが嬉しそうに走る。少年は引きずられるままに走った。恋の素がやさしい音を響き渡らせていた。
 おいかけっこをして、だるまさんがころんだをして、かくれんぼをして、鬼ごっこをした。少年から「さぼテン。」が離れることはなかったが、少しずつ目に生気が宿りだしていた。恋の素の影響だろうか。いや、きっとこれはこにの素質なんだと思う。こにの周りは、いつだって明るく照らされているんだ。
 西の空が色つきはじめた。一通り遊んだあとで、私たちは鳥居の前の階段に座って休憩した。犬神さまは鳥居の上で見守っていて、こには遊び疲れたのか、私の膝の上で寝息を立てている。
「俺、やっぱり何やってもうまくいかない駄目な奴なんだよ」
 そう耳の生えた少年は語った。
「いくら勉強したって風太郎に勝てないんだ。村ん中じゃかけっこで右に出る奴はいないけど、誰にも褒められやしない。地蔵師匠はもう相手にすらしてくれねえ。だったらかけっこだって疲れるだけだ、めんどくせえ」
 風太郎というのが誰なのかはわからないけど、地蔵師匠というのはおそらくあの犬神さまのことだろう。心の鬼は突発的に宿ってしまうこともあれば、あらゆる状況が重なって形成してしまうこともある。地蔵さまは少年を良くない目で見ているみたいだけど、全部が全部少年のせいではないような気がした。
「そのかけっこだって、お前に負けちまった。俺なんかどうせ……」
「いいえ、あなたは足も速いですし、体力だってありますよ」
「嫌味かよ」
 そう言って少年はふてくされた。長い長いため息をもらす。
「嫌味なんかじゃないです。私があなたくらいの頃は足も遅かったですし、体力もみんなよりありませんでした。だからあなたが私と同じ歳になったときは、きっと私なんかよりずっと足が速くて、体力もあるはずですよ」
「そういうもんなのか?」
「でも、努力はしないとだめですよ?」
「努力、か」
 少年は仰向けに倒れこみ、鳥居を真下から見上げていた。
 しばらくして、少年の体から心の鬼が抜け出てきた。
「さぼテン。」が静かに消えていく。
「俺、もう少し頑張るよ。かけっこも、勉強も」
「応援してますよ」
 くりくりとした、情熱に満ち溢れている少年の瞳を見て、私は安堵のため息をもらした。
 祓えたんだ。
 武器がなくても、祓うことができる。心の鬼と真剣になって向かい合うことができれば、鬼はちゃんと心を開いてくれるのだ。
「ふむ。やはり主が鬼子だったか。鬼を祓う鬼という評判は聞いておったわい」
 地蔵さまが鳥居から飛び降り、少年の脇に着地して私を見上げた。
「ワシが唐突にもこんなことを頼むのはまことにおこがましいことではあるが」
 そう先に述べて、寝転ぶ少年の頭に前足を乗せた。幼いながらも立派な男の子らしい額が露わになる。
「この世間知らずな馬鹿者わんこを、旅の供にしてやってはくれんかの」
「はあっ?」
 犬耳の生えた少年ががばりと上半身を起こした。
 騒ぎを耳にして、こにが寝ぼけた眼をこすりはじめる。
「なんだよいきなり! わけわかんねえ!」
 私としては仲間が増えることにさほど抵抗は感じなかった。少年は活発だし、ある意味野生的でもあったから、自給自足の生活を苦とはしないだろう。いや、それ以上に、村へ降りて人々から食材を分け与えてもらうこともできるようになる。大歓迎だった。
「わんわん、よろしくね!」
 こにも同感のようだ。
「わんわん言うな! 俺には歴とした名前があってな――」
「鬼子さん、ワシは思うんじゃよ」
「言わせろよ!」
 あえて言わせなかったんだろう。真名を知らせるというのは自身を拘束させることに等しい。地蔵さまは少年を縛らせたくなかったんだ。それは私のことを恐れているからなのだろうか。
「この村は狭すぎるからの。わんこにはもっと広い世界が似合うじゃろう。しかし辺境の地で育ったもんじゃから、あまりにも物事をわかっとらんのじゃ。どうか、世の中が井戸ではなく、こやつが蛙ではなく一匹の孤高な犬であることを教えてやってほしい」
「師匠……」
 少年の真名を語らせなかったのは、ここが少年の故郷であることをはっきりさせるためなのかもしれない。どれほど荒れ狂った旅路であっても、絶対的な安定のある場所があるとないとでは大違いであることは、私が一番知っている。私が真名を知ってしまったら、ある意味で故郷を失ってしまうことになる。
 油蝉の合唱が響き渡っている。その隙間から奏でられているひぐらしが、どこかもの悲しさを膨らませているように感じられた。
 それからしばらく犬の少年は鳥居の先にある神社を見つめていた。長いことそうしていて、それからおもむろに立ち上がった。
「風太郎に伝えておいてくれ。お前なんか比にならないくらいたくさんのこと学んで帰るってな。邪主眠(ジャスミン)の姉ちゃんにも、他の犬神にも、村のがきどもにも、それから……」
 言い終える前に少年は言葉をつぐみ、空を眺めた。この村はきっと、大切な思い出がたくさんある場所なんだ。
 ちょっぴり、羨ましい。
「鬼子さん、こにさん、わんこをよろしく頼むぞ」
 そう犬地蔵さまに任された。
 わんこをよろしく頼む。
 私は、少年のことをわんこと呼ぶことにした。


「ふーん、そーゆーこと」
 般にゃーの感想はあまりにもあっさりとしていた。私たちの紀行もわんこの同伴にもまったく興味を示さない。
 まだ青い紅葉の山の奥に般にゃーの住処はあった。でもほとんど使われてる形跡はなく、雑草だらけの庭と荒んでしまって久しいぼろ小屋があるばかりだった。
「命令を達成したらこの家を譲れってアマテラスサマが仰ってたわ」
 どうせ使ってないし、そろそろ掃除しないとって思ってたからちょうどいいわ、なんてのんきなことを般にゃーは言っていた。貰う側としてはひしひしと感じる面倒事にため息が出てしまうけど、でも屋根の下で眠れるんだからそれくらいどうにでもなる。
「当分わたしの指示に従ってもらうわ。……上に立つのってキライなのよね。ま、テキトーにやらせてもらうから、そこんとこよろしく」
 確かに般にゃーは上司という役柄は似合わない。何にも縛られずに彼処をぶらついてるほうが割に合ってるような気がする。
 それから鬼斬を返してもらった。般若面でいつでも鬼斬を預けたり引き出したりすることができることを教えてもらった。地味だけど、今まで薙刀のせいで人々に恐怖を上乗せしてしまったことが多々あったので、この機能は重宝しそうだった。
「最後に、アマテラスサマから贈物があるわ」
「お、贈物……って、え、ええっ? そ、そんな畏れ多い」
 高天原を治める超が付くほどの大御所さまが、底辺の鬼に何を渡すというのだろうか。こんな広い敷地を頂いてしまって、おまけに贈物ときた。
 般にゃーが巻物を取り出し、広げた。
「まず鬼子のほうね。『日本の姓を賜えん。鬼の子よ、鬼うち祓え。我が日本よ』だって」
 韻律の付いた歌が贈られた。形のないものだったから、はじめは何をもらったのかよくわからなかった。
「貴女に『日本』の姓をあげるって言ってんのよ。アマテラスサマも大胆ね」
 ひのもと……ひのもと、おにこ。頭の中で繰り返す。日本鬼子。天照大御神さまの下で鬼を祓う鬼の子。それが私の名前だった。あらゆる感情が入り混じって、なんと申し上げればいいのかわからなかった。
「こには? こにのもあるの?」
「もちろんよ。『小日本の姓を賜えん。小鬼の子、鬼子を支えよ。我が小日本』だって」
 同じように韻と律のついた歌が贈られる。
 こひのもと。それがこにの姓になった。
「般にゃー、こひのもとって、どーゆーカンジつかうの?」
「小さいニッポンって書くのよ。せっかくもらったんだから、大切にしなさい」
「うん! えーっと……こに、こにぽん、だね!」
 こにぽん。その愛くるしい響きとこにの笑顔が絶妙に合っていた。小日本、こにぽん、こにぽん。忘れないよう頭に刻み込む。
「そうそう、もちろんそこのわんちゃんにはないわよ? アンタは予定外の存在なんだから」
「わかってるよ、おばさん」
 あ。と私の口から言葉が漏れてしまった。慌てて口を押さえる。
「おばさん……?」
 般にゃーがぽそりと呟いた。ぴくりと小じわが増えたような気がして、そして……。
 その後、わんこは三週間ほど、般にゃーの話題に触れると禁断症状を起こすようになった。なぜそうなったのか、それは推して知るべきことだろう。

   φ

 日は暮れて、窓の先から星がちろちろと輝いていた。白狐爺の霊力を養うお祈りはまだ続いている。
「これが私の過去で、同時に鬼に勝ち続けなければいけない理由でもあります」
 長い、長い語りだった。途中で鬼子さんが物語る理由を忘れてしまうくらい、壮大で、心魅かれるお話だった。
「私は鬼を祓わなくちゃいけないんです。それが存在意義なんです中途半端に独りでなくなってしまった私は、もう邪鬼のように自分を棄てて暴れることもできないんです。鬼になれない鬼なんですよ。日本の姓を授かってから四年が経ちました。ひたすら鬼を祓い続けて、人々からは恐れられて……もう、何のために戦うのか、何を守って、何を消し去ろうとしているのか、わからなくなっちゃいました」
 日本さんはそう言ってほほえんだ。身震いするほどおそろしく悲しい笑みだった。
「私ってなんだろうって問いがあったら、鬼を祓う鬼だって、そう答える他ないんです。元々私なんて存在しないほうがいいんですから。鬼に負けてしまっては……鬼を祓えなかった私はただの鬼です。ただの厄病です。それ以外、何もありません。明日、大御神さまに奏上します。私を否定してくださいと。私をこの世から――」
「そんなの、ないよ!」
 感情に任せて立ち上がっていた。
「なんなのさ、自分勝手すぎるでしょ!」
「それなら!」
 日本さんも負けじと声を張り上げる。
「……それなら、田中さんには説明できるんですか。どんな鬼でも祓うことができて、それを大御神さまにも認めてもらえて、母から人の嬉しいことや楽しいことを芽生えさせられるような人になれと言われたのに、祓えなかった鬼がいる自分に気付いて、こにぽんを守ることができない可能性を叩きつけられて、人々の喜びを奪い去ってしまいそうだった私が今もなお生きてしまっている理由を、息をしている理由を、田中さんは説明できるんですか?」
 卑怯だ。そう思った。
 アタシは人間だ。ついこの間までこっちの世界のことなんて何一つ知らなかった人間だ。平凡で並々の生活を営んできた高校生にすぎない。
 それでも、言わなくちゃいけない。
「そりゃもちろん……」
 言葉に詰まる。
 ダメだ、止まっちゃいけない。考えろ。
 日本さんの存在意義。難しいようだけど、どこかに答えはあるように感じる。そしてそれをアタシは持っている。心の隅っこのほうで丸まってるような気がする。でも、それを拾うことはできない。拾える距離まで潜りきれていないんだ。
 外のお経がうるさい。
 あの連中を黙らせろよ、わんこのいらだった声が反響する。同感だよ、はは。誰か爆弾でも投げ込んでくれないか?
 考えがあともう少しでまとまりそうだったのに、思考はほどけた書類のようにばらばらと混沌の中へと散らばっていく。もう元のまとまりには戻れない。
「もちろん……」
 嘘だ。自分には日本さんを納得させられるだけの経験と論理展開能力と語彙が備わってないんだ。
 アタシの存在意義すら今まで考えたことすらなかった。そんな人間が他人の存在意義について述べようと空っぽの頭をひねろうったって、おからを絞って何も出ないのと同じように、妙案の一粒すら滴り落ちてくることはなかった。
「やっぱり無理なんですね。田中さんにも答えられない」
「そんなことない!」
 ただのハッタリでしかないことはアタシも日本さんもわかってる。でもここで屈することはできなかった。屈してしまったら、もう二度と日本さんと会えなくなるんじゃないかって、そう思った。
「日本さんは……」
 でも、限界だった。針金みたいな強度しかないアタシには、日本さんの巨大な道のりの一部ですら代われるものじゃなかった。
「日本さんは……」
 諦めよう。
 アタシじゃダメだったんだ。
 ――アタシなんかじゃ。

「ねねさまは、ねねさまだよ!」

 襖がぴしゃりと音を立てて開かれた。
 こにぽんが、そこに立ち尽くしていた。
「こに、むずかしいこと、わかんないよ。でも、ねねさまがいるから、ねねさまはねねさまなの! いなくなっちゃったら、こに、さびしいもん!」
 こにぽんが日本さんのところまで歩み寄って、その白くて小さな両腕で日本さんを包み込んだ。
「タナカだって、わんわんだって、シロちゃんだって、じじさまだって、ヒワちゃんだってヤイカちゃんだって! みーんなみーんな、ねねさまのこと大好きなの! ねねさまはみんなの心の中にもいるんだから! いなくなっちゃったら、こに、ヤだよ……。いなくなっちゃったら、いなくなっちゃったら……!」
「こにぽん」
 日本さんが涙ぐむ女の子をそっと抱きしめた。やさしくやさしく、母親のようなぬくもりがそこから感じとれた。
「こめんね、こにぽん。そうだよね、独りじゃないって、こういうことなんだよね。戦い続けなくても、変わらないものはあるんだよね。こんな私でも、好きでいてくれてる人はいるんだよね。今だって、これからだって……」
 簡単な話だったんだ。経験だとか、論理展開能力だとか思考だとか、そんなワケのわからないことで悩む必要なんてどこにもなかった。誰にだって言えること、当たり前のことだった。
「ねねさま、いたいよぅ」
「あっ、ごめんね」
 抱擁を解放し、やや間を置いてからこにぽんの髪を撫でた。
 こにぽんは雫を拭うと、腰につるしてあった巾着を開けた。
「これ、ぷりん。食べたらケガもなおるから」
「うん、ありがとう」
 アタシは主役ってガラじゃない。アタシはただの語り部で、舞台の真ん中に立つのは紛れもなく日本さんとこにぽん、
この二人なのだ。

   φ

「――という次第でございます、蟲武者卿」
 青狸大将の長々しく荒々しい報を聞き終えた。奴からは天魔党の四天王を前にしても揺るがぬ強い意志を感じる。激しい野望だ。今は我々に付き従いているものの、そう長くない頃に謀反を起こすであろう。しかし奴に憑く願望鬼は実に巧みな隠密として利用できる。利用し尽して、状況を見て斬り捨てるのが適切である。
「ご苦労であったな」
 偶然ではあるが、『鬼を祓う鬼』の素性が明らかになった。噂からして興味深いものがあるが、奴について知れば知るほど魅かれるものがあった。探究心は膨れるばかりだが、我は学者ではない。一人の武人である。無駄な情報は混乱を招く。なれば願望鬼は別の任務に活用させたほうが有益であろう。
「人間田中がこことは別の世の者であると申したが、それは真か」
「真でございます、蟲武者卿」
 得意顔で奴は述べた。
「ならばその者の身を用いて異なりの世を渡り、彼方で我が天魔党の助けとなる鬼を探せ。無論相応の報酬は約束しよう」
「くくく、わかっておるではございませぬか」
 裏のある笑みを見せ、青狸は退出した。
 奴の場合、裏があることが容易に解せるからまだ扱いに苦労することはない。
「お憎(おぞう)、我等も出陣するぞ」
「戦ですか。何処へ」
 我の率いる『侍』の第二位である彼女は常に我の傍らに控えている。彼女は片膝を立て、大きな櫛を挿した頭を我に見せ、微塵も動じない。忠誠を誓ったお憎は我が命令には全て過不足なく任務をこなす。己を知り、相手を計りて戦に臨むため、損じても被害は最小限に留めることが出来る。我が『侍』の参謀として言うべきことはない右腕である。
 彼女は実に頼もしい。だが完全に心を開き切って寝首を掻かれて終劇という事態にもなりかねん。
どうも奴は我に対して激しい感情を抱いていることは確かなのである。
「城下だ。城下へ親征する」
「城下ですか。……じょ、城下ですか? 黒金蟲様」
 彼女には予想外の目的地なのだろうが、我は長らく秘密裏にこの作戦を練り続けていた。
「そうだ、『甘味処ねむしや』に二十の兵を連れて向かおうと思う」
「しょ……将軍おはぎを討つのですね」
「如何にも」
 物分かりの良い副官だ。
『ねむしや』は一月前に開店したばかりで、なんでもおはぎがこの世のものとは思えぬ程の美味であると評判なのだ。
 立ち上がり歩き出すと、お憎もまた立ち上がり、後を歩く。
 『甘味処ねむしや』のおはぎを我等が領主様にも献上したく存ずるが、今は果たせぬ所望である。
 ああ、我が領主様よ、其方は何処へ行かれたのか。我等の勢力は増しに増してあるが、統べる者がおらぬ今、どうして国を治めることができようか。
 長き目で見れば、我等のみで治めることなど不可能なのだ。『侍』『忍』『陰』『局』の四党がいかに優秀であれども、大壺の底から徐々に腐敗が生じが如く、分裂は止む無きことなのである。
 統治には天性が必要なのだ。総指揮を執る大老様にも無く、当然のことながら我等にも無い。存在そのもののみで人を惹きつけ、心酔させるだけの才能、少々の荒事でも、其の者の言葉であるだけで従えてしまうほどの力は、行方知らずの領主様のみが有す。我等は領主様への絶対的な忠誠心によりて成り立つのだ。
 城を出、丘の下に広がる街を見渡した。所狭しと立ち並ぶ瓦屋根。そこには往き交う鬼等で賑わいているのだ。時の流れがを実感する。荒地だったあのころにここまでの活気を想像出来ただろうか。
 我が故郷なのだ、この天魔党の国が。領主様よ、其方さえおられれば、必ずやこの国を理想郷へと変えてみせましょう。
先代の領主様からの悲願を、いざ叶えて見せようぞ。


 どうにか状況理解に努めようとしたけど、私には到底難しい話だった。ありえないことが起こりすぎている。
何もかも私とは隔離された世界にあるみたいで、気付かない間に夢の中を彷徨っているんじゃないかって思ってしまう。
「旅人さんも、せりと菜の花のおひたし、どうぞ」
 呆けている間に茶の間にあげられていた。円い食卓に狐耳の巫女が作ったらしい品々が並んでいく。湯気立つ五穀米のご飯、おひたし、明日葉と大根とサクラマスのあら汁、白うどのきんぴら……。実に質素な、でも私にとっては実に豪華なものだった。
「さあ召し上がれ。お百姓さんや漁師さんの思いがぎっしり詰まってますよ」
「こに、きんぴらだいすきなの!」
「こには好き嫌いがなくてよろしい。それに比べてシロは……」
「うう、ひじきはぱさぱさしてて気持ち悪いんです。だって海草ですよ? なんで水気がないんですか!」
 どうしていいのかわからなかった。私という異物が混入しているのに、まるで何年も前からこの座布団が私の定位置であるような穏やかな時間が過ぎる。
「旅人さんも食べなさい。長く苦しい旅じゃったろう、遠慮なんてせずに腹を満たすがよい」
「あ、はい」
 お茶碗を持ち、五穀を箸にのせ、口にする。ほのかな生命の薫りが口いっぱいに膨れ、甘味が舌を強く刺激した。噛みしめるほどに大量の唾液が舌の裏側から分泌される。呑み込む前に次を求めた。箸を茶碗の中に突き入れ、すくい出す間もなく口の中に放りいれる。奥歯でふっくらと炊き上げた穀物をすりつぶす。粘りと共に、秋の穂の香が鼻を通り過ぎた。
 菜の花のおひたしを箸で挟むと、口の中がじゅわりと溶けだして、もう何も考えられなくなった。あっさりとした苦味に塩味が加わり、五穀米の歯ごたえと合わさって絶妙な協和を連ねた。
 喉を鳴らし、あら汁にかぶりつく。重ね塗られる度に深みを増してゆく漆器のお椀のように、あらゆる味が交わっては響き、さらなる高みへと昇華していく……。
 気が付けば、涙が出ていた。きんぴらを口にいれると、ちょっとだけしょっぱかった。それでも私は食べ続けていた。無心になりながらも、どこか遠くのほうで自分の半生を疾駆していた。
「……つらかったです」
 まぜこぜになったものを呑み込んで、私はそうつぶやいた。
「ねねさま、よしよし」
 小鬼の子が、私の頭をやさしく撫でてくれた。幼い、やわらかい手だった。


 気持ちの整頓がついてから再び箸を動かす。少しずつ色々な話をした。私自身の話もした。語れば語るほど胸がずきずきと痛む。みんな、嫌な顔せずに聞いてくれた。
 狐の耳を持つ少女はシロと名乗った。かの有名な稲荷一族の末裔らしい。まだ駆け出しの巫女で、祭祀はおろか呪術すらできないみたいだけど、親身に話を聞いてくれる。歳も近そうだ。ただ、不器用なのか、言うこと言うことが一言多かったり二言少なかったりする。でもだからこそウソのつけない純朴な女の子だってことが容易にわかる。
 それからこ白髪で身のこなしが落ち着いている老人は彼女の祖父にあたる(のか師匠なのか両方なのかは曖昧で謎に満ちていたけど)白狐爺だ。それが本名でないことはすぐにわかった。でも真名は簡単に明かしてはいけないものなんだ。本当の名前は自分自身の命に匹敵するものなんじゃないかと思う。
「それで、この子は――」
「こには、こにだよ!」
 紹介が待ちきれなかったのか、こにと自称する小鬼の子がぴょこりと短いお下げを揺らした。自分の名前を自慢げに、誇らしげにしている。そう感じた。
「はい、とりあえずそう呼んでますけど……」
 シロがお茶を一口飲んだので、私はご飯のおかわりをいただいた。こにが進んでしゃもじを握る。
「もしかして、こにちゃんと会ったの初めてなんですか?」
「ええ、そうですけど、どうしてですか?」
「いや、ほら、こにちゃん、あなたのこと『ねねさま』って呼んでたじゃないですか。わたし、てっきり生き別れた姉妹が感動の再会を果たしたんだとばかり……」
 さすがにシロは誇張しすぎているけれども、でも不思議なことに、再会を果たした、というのはどこか共感するものがあった。鬼の人なんて今まで見たことすらないし、私に妹は存在しないけど。
「あ、『こに』っていうのは『小鬼』を短くしただけのもので、本当の名前はわからないんです。こにちゃん、記憶をなくしちゃってるみたいで」
 記憶を? そう私は繰り返して、こにの背中を見た。何もかもが小さかった。肩も、腕も、腿も、足の裏も。触れたらすぐに壊れてしまう。そんな使い飽きた表現が的確だった。
「こにはな、村の民に拾われたんじゃよ。たらい舟に布を被せたものの中に入って泣いておったそうじゃ」
 シロの代わりに白狐爺が口を開いた。口を湿らせるためにお茶を一口飲んだので、私はあら汁を二口で飲み干した。
「わしが直々向かったら、皆鬼の子だと喚いておってたがな、言ってやったよ、この子はわしが引き取ろう、とな。昨年の秋のことじゃ」
 汁を吸った大根を呑み込む。
 秋。私と同じだ。
「どうして引き取るようなことをしたんですか?」
 はっとなってこにを見た。こには首を傾げて不思議そうに私を見ていた。胸をなでおろし、せりに箸をつける。
「目が澄んでおったからじゃ。これほど澄んだ者が悪さなどするはずもなかろうとな。わしらがちゃんと育ててゆけば、必ずや善き心を持った鬼となろう。そう確信した。それから――」
 白狐爺がお茶目な笑みを漏らした。
「わしのかわいい孫娘が増える。理由としては、それだけで充分じゃよ」
 老人が子どもに戻ったような、そんな無邪気な笑顔だった。こにもまた笑っていた。同じ宿命を背負っているはずなのに、どうしてこの子はここまで無防備な笑顔を振舞えるのだろう。
「お主も、ここでしばらく暮らしてみるのはどうかね」
 唐突にそんな提案を出されて、思わず声を上げてしまった。白狐爺は真剣な眼差しをしている。逆らえない眼差し。
 でも、そう安々と頷けるほど私は気楽な精神を持ってはいない。
 私の瞳はもう濁ってしまっている。人には語れないような惨たらしい現場に何度も居合わせた。人々の苦しいこと、辛いこと、悲しいことを全て背負い込んで、あるいは受け止めて、今の私は存在している。受け止めること、それが私の生きる意味なのだ。
 だから人々は私を見ると逃げてしまう。私が穢れているから、近寄ったら穢れが移ると恐れて。
「お主は、人々を苦しめる鬼を祓いたいそうじゃな。しかし、そのためには並々ならぬ努力と精神と体力が必要じゃ。それだけではない。鬼を打ち祓う武器があらねばお主の身は守れぬし、武器を扱う術を習わねば刹那に喰われてしまう」
 箸とお茶碗をちゃぶ台に置く。ことり、と小さな音がした。
「ここにはお主の必要としているものを満たせる場であると思っておる。それでも何か言いたげな顔をしておるが」
 言いたいことは山ほどある。
「どうして……こんな親切にしてくれるんですか。私を引き取ってもいいことなんてないのに」
 それが本音だった。別にひねくれているわけではない。白狐爺とシロに対する疑いがちゃんと晴れてなかったのも一つの理由だが、それ以上に二人とこにを心配する気持ちのほうが強かった。私といたら、きっと三人を不幸にしてしまう。私は疫病神と同じようなものなんだから。この村の人々に恐れられて、白狐爺たちの信仰が失われてしまったら元も子もないと思うのは私だけなのだろうか。
「いいことがない? 逆じゃよ。よいことだらけじゃ」
 白狐爺はあのお茶目な笑顔をもう一度私に見せた。
「まず第一にわしにかわいい孫娘が――」
「それ、こにときにも言ってました」
「よいではないか、孫は幾人おっても足らんよ。それに、シロにお姉さんができる。喜ばしいことじゃ。まだシロは至らぬことが多すぎるからの」
「あー、おじいちゃんわたしのこと全然信用してませんね!」
 シロがふくれっ面になった。
「そういう口は夜一人で用を足せるようになってからにしなさい」
「な、なんてこというんですか!」
「こにはできるよー!」
「ひええっ? う、うそ言ったらいけないんですよ!」
 それはまるで自然な流れの中にいるようで、私が答えを出すより前に、答えは決まってるみたいだった。
「あ、あの、びゃ、白狐……」
「お爺ちゃん、でいいよ」
 不思議なことに、それはどこか初めて耳にした言葉みたいな、そんな感触だった。
「お爺ちゃん、私、ここで暮らしてもいいですか?」
 私もこの輪の中に入ることができたらいいな、なんてことを思った。
「ほ、本当ですかっ?」
「やったぁ!」
 シロとこにが喜んでくれている。私は、二人を喜ばせることができたのだ。
「それでは、これからもよろしくお願いしますね、えっと……」
 嬉しそうに尻尾を振るシロが言葉を詰まらせる。
「名前、ど忘れしてたんですよね、思い出しました?」
 ど忘れなどではない。本当に忘れてしまったんだ。もう人間だったころの記憶なんてほとんど覚えていない。私が人間だった証なんて……。
 鬼として生きるのだ。受け止めろ。そう誰かが耳元でささやいている。鬼として、蔑まれて。
「――鬼子」
 私は呟いた。声が小さすぎて、うまく伝わらなかった。
「鬼子です。私の名前は、鬼子なんです」
「でも、それ……」
「いいんです」
 シロの言葉を断つというよりかは、私の過去を断つように、あるいは受け入れるように即答した。
 鬼子として生きよう。私が鬼子なら、こにはこにだ。こにが鬼子になることはない。『鬼子』に貶す意味は消え失せた。鬼子は、私を指す言葉なのだ。
「鬼子、ふむ、悪くない名前じゃ。鬼子、鬼子」
 白狐爺……お爺ちゃんは宝の地図のばってんを記憶するように、何度も何度も私の名前を口ずさんだ。


「ねねさまー!」
 こにの挨拶はあらかた決まっている。鞠があればそれを庭に放り投げ、私の懐に突撃するのだ。
 やわらかな感触に思わず抱きしめる。シロのお下がりを身にまとい、あんず色の頬をこすりつけていた。本能的にこの子の髪を撫でてあげる。気持ちよさそうに目を細め、口元を緩めていた。
 薄い皮をかぶった角が生えていた。この子は私と一緒なのだ。一緒なのに、こうも違っている。この子には疑うという術を持ち合わせていない。
「鬼子さん、ごご、ごめんなさい!」
 こにと遊んでいたシロが慌てて駆け寄ってきた。
「もう、鬼子さん見つけても突撃しちゃダメだって言ってるでしょ? まず気を付けをして、両手をお腹の前で重ねて、相手の足元を見るくらい丁寧に腰を折るんです。朝だったらおはようございます、お昼だったらこんにちは――」
「シロちゃんつまんなーい」
「あの、別にそこまで仰々しくしなくても……」
「ふええっ? そ、そうでしたか? でもおじいちゃんからそうしなさいって……」
 たぶんそれは参拝者へのお辞儀の仕方だろう。こになら突撃挨拶のほうがまだ似合っている。
「そろそろ休憩しましょうか。鬼子さん、冷やし飴にしますか? 飴湯にしますか?」
「こにはひやしあめー!」
 ちょっとだけ戸惑った。そんな食べもの、食べたことがない。でもきっと二人はたくさん食べたことがあるんだろう。
 まるで私だけが阻害されているような、そんな気がする。
「もしかして、飲んだことありませんでした?」
「飲む? 飴を?」
「水飴を溶かした水に生姜のしぼり汁を入れた飲みものなんです。ひんやりしてておいしいんですよ。お湯で溶いたのが飴湯で、こっちは体の芯からあったまります」
 シロはうっとりと目を細めた。そんな幸せそうな顔をしてしまうほどおいしいものなのだろうか。
 シロだけじゃなかった。こにもまた頬を染め、日向ぼっこしてる猫みたいに口を開けている。尻尾があったらのらりくらりと振られているに違いない。
「シロとこにったら、本当の姉妹みたい」
 ちょっとだけ冗談めかして、くすりと笑った。
 シロは私が笑ったことに驚いた反面、安堵した表情をした。
「私も冷やし飴にしようかな」
「了解しました、お姉ちゃん」
 シロもまたそう冗談っぽく言って、縁側に上がった。
「シロちゃんとこにはね、ほんとうのしまいじゃないんだよ」
 こにはなお幸せそうな顔をしたまま、まるで紋白蝶が舞い踊ってる様を嬉々として語るように、自分を語った。
「こにね、川のうえのほうでうまれて、ここまできたの! こにね、ずーっとずぅーっとひとりぼっちだったんだよ?」
 こには記憶を失っていると聞いたし、お爺ちゃんが引き取ったってことも知っている。でもこには完全な「孫」として引き取られたわけではなかった。ちゃんと自分の境遇を教えてもらっているんだ。
「でもね、でもね、今はちがうの。シロちゃんもじじさまも、カゾク、なんだよ! こにの、たーいせつなカゾクなの! ねねさまも、だいすきなカゾク! こにね、みーんなのことがだいすき!」
 家族。心の中で呟いた。家族。大好きな家族。家族のように接してくれるシロやお爺ちゃん。わらぶきの下でなごやぐ家族のぬくもり。どこにもいない、お母さん、お父さん。家族。
「お待たせしました! 冷え冷えですよ!」
 シロが作ってくれた冷やし飴は、冷たくて、喉がくるると言って、甘くて、ちょっぴりしょっぱかった。


 武器をもらった。
 薙刀『鬼斬』。鬼を斬ることに特化した薙刀で、欠けることもなく錆びることもない神器だ。神器といってもほとんど人の目につかなかった代物のため、神話や民話として語られることなくこの場に収まっている。いつかの時代にもこの薙刀を使って鬼を祓っていた存在がいたのかもしれない。
 柄を握りしめるとずしりと重かった。
 薪割り用の斧を振るったことはあったけど、薙刀はそれ以上に姿勢を落とさないとすぐ体勢が崩れてしまう。最初は素振りですら鬼斬に振り回される有様だった。
 でも薙刀の扱いに慣れていくと、自分の肩から指先までの神経が切っ先まで伸びて結ばれているような感覚を持てるようになった。
「天下無敵、という言葉がある」
 打ち合い稽古の最中にお爺ちゃんは平然と言ってのけた。私の繰り出す突きも払いも巻き落としも全て防がれる。
「間違ってはならぬぞ。天下無敵は天下に敵がおらぬことではない。天下に敵を作らぬことじゃ」
 おじいちゃんの小太刀さばきは清流のようだった。長さの不利を微塵も感じさせない。
「お主が一人を敵と判断すれば、その判断の領域は徐々に拡くなる。好まざる者に霧粒ほどの小さな恨みを持てば、いつしか親しき者を敵と見なしてしまう日が訪れよう。さすれば、残された道はただ一つ、自己をも敵と見なすのみ。それはすなわち――」
 袈裟斬りをかわされるや否や、小太刀が薙刀を絡ませ私の胴に入った。
「戦場では死を意味する。他殺ではない、自殺じゃ」
 お爺ちゃんは息をついて木刀を帯に挟んだ。確かに私は殺されていた。長物はそれだけで優位に立てるけど、橋かかられるともう逃げられない。お爺ちゃんは少しの隙すら本気で喰って掛かるのだ。
「敵を特定する者の世界は、敵で満たされておる。やがてはすれ違う人も、触れるものも、食べるものも、空気ですら潜在的な敵となる。わかるかね」
 なんとなくわかるような気もするし、わからないような気もする。今、お爺ちゃんにお腹を打たれたから痛いけど、この「痛み」やそれを与えた「相手」を敵視しちゃいけない、恨んじゃいけないってこと……なのだろうか?
「敵を作らない方法なんて、あるんですか?」
「もちろんとも」
 おじいちゃんは振り返り、しわがたくさんの笑顔を見せた。
「相手と自分を一体化させればよいのじゃ」
 言ってることがよくわからなかった。その反応が面白いのか、お爺ちゃんは楽しげに頷いていた。
「相手がいて初めて自分が生成される。相手の嬉しいこと、喜ばしいこと、悲しいこと、苛立たしいこと……そういったものを受け入れて初めて自分を成り立たせるようなものの観方じゃよ。言葉で述べるのは実に難しい話になるんじゃがな」
 しかし……とお爺ちゃんは続けた。
「お主の生き様は、それに通ずる何かがあるのではないかな」
 少しだけ昔の自分を振り返った。
 お爺ちゃんの言葉は哲学的で難しかったけど、きっとお腹が痛くてもその「痛み」を受け入れなさいってこと……いや、私の「痛み」だけじゃない。それはきっと相手の「痛み」まで呑み込んでやっと成立するんだと思う。
「ねねさま、じじさま、ごはんだよ!」
 階段の上からこにの声がする。思想なんて遠い彼方のぶつであることが容易にわかるような、そんな無邪気な声だった。
「鬼子や」
 薙刀を立てかけ、階段へ向かう途中でお爺ちゃんに呼び止められる。
「こにがあれほど笑顔でいられる理由を知りたいと思ったことはないかの」
 思わず私は振り向いた。そこには老けこんだしわの多い白髪の人が立ち尽くしていた。
 背筋に冷たい汗が垂れる。同族として、ずっとずっと知りたかったことだった。でもお爺ちゃんのほうから不意に投げかけられると急に腰が引けてしまうのだ。私が臆病だから……いや、違う。臆病なのは、お爺ちゃんのほうだった。
「申し訳が立たぬの、わしもまだ成長せねばならぬのじゃよ」
「いえ、お爺ちゃんは充分立派です」
 嫌味でも皮肉でもなんでもない。私は心の底からお爺ちゃんのことを慕っていた。
「いや」
 首を横に振った。
「弟子から学ぶことも多くあるんじゃよ、鬼子」
 それは独り言だった。私に向けられたものじゃなかった。
「こにはな、外の世界を知らない」
 語りだした深い彫の瞳は天井を見つめていた。
「わしが引き取ってから、こには一度も外に出ておらん。わしは恐れたんじゃよ、鬼というものをな。実に愚かなことじゃった。民の恐れに晒されれば、こには傷つき、邪気で満たされ、人々に害なす鬼に成ると考えた。しかし、お主を一目見て、わしの考えは外れていたのだと気付いたんじゃ」
 人々に忌み嫌われたとしても、人を食らうような鬼になるとは限らない。私のように理性を保持し続ける鬼はいる。お爺ちゃんですら、そのことに気付かなかった。
 それじゃあ、私みたいな鬼はずっと存在しなかったの? 私は歴史から見ても、特異な存在であるということなの?
 立てかけられた鬼斬を見る。ねえ、と心の中で問いかける。あなたの古い主人様は、どんな方だったんですか?
「これがわしの限界なんじゃよ。こにを匿うことでしか守れぬのじゃ。あわよくば――」
 お爺ちゃんの視線が、天井から移って私に向けられる。
「孫には広い世界を見せてやりたいのう」
 ――こにね、川のうえのほうでうまれて、ここまできたの!
 もしかして、おじいちゃんは……。


 桜の春は散り、木蓮の春へと移り変わった。紫陽花と共に梅雨が訪れ、そして夏が音を立ててやってきた。やがてひぐらしの物悲しい声に思いを馳せているうちに残暑は過ぎ去っていて、気が付くと群生する彼岸花が一斉に鮮やかな血の色をした花を咲かせる。人々が絶叫と共に天へと伸ばす手のひらみたいで、私は直視することができなかった。
 金木犀の香りが漂いだしたけど、すぐに嵐が来て流れてしまった。でもしばらくもしないうちに木々は色を改め、あっという間に紅葉の季節になった。私の季節がやってきた。
 お爺ちゃんは一つの季節に一度、多いときは月に一度くらいの間隔で鬼退治に出陣していた。シロは祭壇へ赴き、折鶴を折ってそれに祈りを籠めていた。
「わたしはまだ何もできないひよっこですから」
 そう言って力なく笑う。シロにはまだ制御できないという理由で大幣(おおぬさ)も振れないし、力がないので弓も引けない。でも、お爺ちゃんの無事を祈る気持ちは誰よりも強かった。
 もどかしかった。まだ未熟な私は鬼と対等な戦いすらできないだろうし、お爺ちゃんの戦う姿をこの目に焼き付けて学びたかったけど、村人が混乱してしまうのでそれすらできなかった。
「次はねねさまのばんだよ?」
 裏庭でこにと遊ぶことが、私の役目だった。
 それから紅葉も散って、冬がやってきた。今年もたくさん雪が降った。枝と木の葉の布団で眠ったこと、お腹が減って凍え死にそうだったこと、熾火が私の魂なのだと錯視したこと、吹雪で倒壊した家屋につぶされて息絶えた人々のこと……。
 私は、ぬくぬくと冬を越してしまっていいのだろうか。こうしている間にも、寒さや飢えに苦しみながらも生きながらえている人たちがいるのだ。
 戸惑っている間に春が来た。あのとき憧れを抱きながら眺めたぬくもり中に、今の私はいた。毎日がありきたりで、どこまでも幸せだった。でも本当にここは私の居場所なのだろうか?
 もちろんこの場所を嫌ってるわけでもないし、お爺ちゃんやシロやこにを避けたいと思っているわけでもない。
 どうしても疑問を抱いてしまうのは誰かのせいではない。宿命のせいなのだ。きっとここに留まってはいけないのだ。帰る場所は、ここじゃない。
 なら、帰るところはどこなの?
 わからない。
 ……いや、本当はわかっているのだ。答えは一言で済むくらい簡単なものなのだ。それはそう――
 法螺貝が鳴った。
「おにっ!」
 こにが小さな悲鳴を上げる。
 考えの糸が切れた。
 何よりもまずこにの安全を優先しないといけない。稽古場の二階、こにの個室に向かう。一階は避難しに来る人々でいっぱいになるのだ。
 部屋から外を見た。鬼が来る凶兆なのか、西の空が黒い。お日様は十分高いところにあるし、空も青く晴れ渡ってるはずなのに、西の地では地面まで光が届かないらしい。光を吸い取ってしまう鬼だろうか。いやそれにしては様子がおかしい。鬼である私にはわかる。今まで経験したことのないほどの邪気が、村と社を囲う二重の結界をすり抜けてぴにぴりと背骨を振るわせる。
「こわいよ、ねねさま」
 その異変をこにも感じ取っているのだろう。私の裾を掴んで離さない。
 私だって怖かった。何が怖いとか、そういうことじゃない。本能的な死の恐怖だ。ああ、私もこの村も、死んじゃうんだなっていう、諦観の境地に至ってしまっている自分に対する恐怖だ。
 その鬼は、まるで山だった。山が音を立てて村を呑み込もうとしているようにも見える。
 自暴自鬼(じぼうじき)。暴走を続けた心の鬼の末路に成る鬼だ。私がぬくぬくと暮らしている間に、鬼は行き着くところまで成長してしまったのだ。おそらく奴は自身を保てなくなり、時を待たずして崩れ、消え去ってしまうだろう。でも村に着く前に自壊する保証はどこにもない。
 これをお爺ちゃん一人で倒せというの……? そんなの無理だ。無理に決まっている。
 ならどうする。このまま指をくわえて身を委ねなくてはいけないのだろうか。
「ねねさま……」
 こにが私を見つめていた。
 決心する。
 この子のために、私は抗おう。諦観の僻地から抜け出すために。
「私、鬼を祓ってくるね」
 裾を握り締めるこにの手をやさしくといてあげる。
「やだっ!」
 でも、こには頑なにこれを拒んだ。ぶんぶんと首を左右に振り、私の腕を幼い胸の中に収め、離さなかった。
「ひとりはやだよ……」
 このとき、私はようやく二の舞を演じていることに気がついた。お母さんと同じことをしようとしている。
 そんなことをしたら、こにが第二の『鬼子』になってしまうのではないだろうか。それだけは阻止したい。
「なら、一緒に行く?」
 こにを守って、村も守る。
 それが私の生きる道なのだ。
「うん、行くー!」
 満面の笑みが咲いた。


 神社から西の門に向かうまで、かなりの時間がかかってしまった。屋根の上を駆け抜ける術はまだ習ってなかったし、鬼斬を持ってこにと一緒に走るのは容易なものではなかった。空気のかげりが徐々に染まっていく。生ぬるい風は、流れの止まった川の水に浸かっているような気分にさせる。雄叫びが想像以上に大きい。すぐ近くにいる。この門のすぐ先に。
「開けてください、お願いします」
 門の前で臨戦態勢に入っている防人に声をかける。振り返った防人はいらついた顔をしていたけど、私を見るなりすっと顔の色が青白くなった。
「鬼、鬼子ッ!」
 槍を突きつけられる。そのへっぴり腰の姿を見て、勇壮でないとか女々しいだとか、そんなことはちっとも思わない。ただ私の自己同一性が洗練された、それだけ思った。
 私ばかりを見ていて、足元にいるこにの存在にすら気づいていないみたいだった。
「おじい……白狐爺の手助けがしたいんです。あの方一人で太刀打ちできるような鬼じゃないんです!」
「き、貴様、白狐様が負けるとほざくか! この村を幾百とお救いになられたことすら知らぬ卑しい奴め。あの巨大な鬼と共謀していることくらい俺にも分かるわ!」
 この人は私のことを理解しようとする気はちっともないみたいだった。私がどんなに心を開こうとしても、人々は心を開いてはくれない。それとも、自分がまだ開き足りてないのだろうか。
「村から去れ。いや、世から去るのだ! そうだ、俺の手でやってやろう。そうすれば俺が英雄だ」
 一歩、二歩と防人がにじり寄ってくる。口元は歪んだようにほくそえんでいて、瞳孔は見開いていた。門の裏側から咆哮が聞こえる。気が動転してしまっているのだろう。幾度となく見てきた人の姿だけど、だからといって慣れるようなものじゃない。褄下でこにを隠すように立ち、千鳥足の防人を凝視する。
 再び門外から低いうなり声がした。休む間もなく火薬の爆裂するような音がするなり、門が叩き壊された。
「じ、じじさま!」
 がれきと共に、お爺ちゃんが石ころみたいに跳んできて、私たちの前で止まった。
「お主ら、伏せい!」
 お爺ちゃんの断末魔の矢先、雷神様が怒り狂うように門柱が軋みを上げた。途端に柱は霧がしぶきを上げるみたいに粉砕した。左右に建てられた物見櫓も倒壊する。私はこにを抱きしめて、縮こまっていた。
 横目で様子を窺う。今さっきまで門であった場所に巨大な垢だらけの贅肉がじわりとにじり寄ってきている。体長は私の三倍はあるだろう。横幅はそれ以上にある。お爺ちゃんはいつもいつも、こんなのを相手に戦っていたのだ。私はこんなのと戦う術を一年間学んできたのだ。でも稽古場と戦場とではわけが違う。
 鬼は息を吸うだけで隙間風のような不気味な音を奏でる。吐き出す息は粘り気のある疾風だった。胸の奥でどろりと濁った渦が巻きだした。防人が苦しそうに呻き声をあげる。
 鬼になって初めて会った人間の顔を思い出した。
「鬼の子だ! 鬼子だ!」
 あの耳をつんざく悲鳴が頭蓋骨を内側から蹴りつける。あれから私はちっとも変わってないのではないか。どんなに努力しても、もう人間だったころの平穏には戻れない。私は鬼なんだ。鬼の子鬼子。笑顔なんてとっくに忘れてしまった……。
 もう、自分なんて。
 お爺ちゃんが立ち上がった。羽織は彼処を切り裂かれ、袴は赤く染まっている。鬼は棍棒のようなイボだらけの腕を振り上げる。お爺ちゃんは傷だらけの腕を持ち上げ、呪を詠唱すると、指先に光が集中し、一直線に自暴自鬼の額を貫いた。鬼の首はのけぞり、その勢いに任せて巨体は音を立てて倒れた。続けてお爺ちゃんの指から球状の結界が生み出され、私たちを包み込んだ。
 私の心を蝕んだ自暴自棄の心が、一瞬にして浄化された。
「鬼子や」
 切り傷だらけのお爺ちゃんが私に笑顔を見せた。びっこを引いて近づき、私の頬に触れた。お爺ちゃんの手は硬くてあたたかかった。
 心の鬼に支配されかけていたんだ。
「修練の続きじゃ。そこの自暴自鬼を祓いなさい」
 でも、悪夢から覚めても、現実はあまりにも重くて、押しつぶされそうだった。
「あんな大きな鬼、勝てっこありません」
 私はまだ一度も鬼を祓ったことがないのだ。相手はお爺ちゃんが苦戦するほどの強敵で、初陣にしてはあまりにも大きすぎる関門だとしか思えない。
「強さは見た目の大きさではない。心の大きさじゃ。お主の心は誰にも負けぬ。一番大切にしてきたものじゃろう?」
 このことについて否定はしない。私は誰よりも多くの人々の思いを授かってきた。
 でも、それでも私は踏み出すことができなかった。飛び立つ寸前の雛が、巣のふちで立ち尽くしてしまうように。
「大丈夫じゃ。わしがついておる。奴の毒はまじないで封じたから、遠慮せんで宜しい」
 そう言ってお爺ちゃんは茶目っ気たっぷりに指で円を描いてみせた。戦うお爺ちゃんは若々しく見えた。そのすぐ隣で、こにが心配そうに私を見ている。
 ずず、と地滑りのような音と共に、なれの果ての鬼が身を起こした。お爺ちゃんの光弾一発で失せるほどやわではないようだ。
 鬼斬を一振りし、成れの果ての鬼と相対する。次の標的と認識した鬼は棍棒の腕を振り下ろした。思った以上に速度がある。遮二無二なってよけて間一髪だった。雪駄一足分先に、地面に半分めり込ませた巨大な蕪のような拳があった。少しでも回避が遅れたらと思うとぞっとした。
 もう一方の棍棒が横払いに跳んでくる。とっさに薙刀で受け止めようとするけど、そんなもので威力を殺せるはずもなく、矢のように自身が地面すれすれを滑空した。後ろ受身の態勢をとり、三回転してようやく停止した。頭がくらくらする。全身が爆風を受けたように痛いけど、折れたところも脱臼したところも見当たらない。
 走った。早く応戦しないと、次はお爺ちゃんたちに拳が落とされてしまう。鬼の前で構えると、まは棍棒を振り上げた。瞬間を見計らって右に避ける。雪駄二足分先に盆地が生まれた。ほとんど間をいれずに薙ぎ払いを繰り出してきたので、巨大な腕の射程外へと脱した。
 技の種類はあまり多くはないようだ。でも懐に入って斬りつけようにも刃が届かない。有効範囲内まで踏み入れることが困難を極めた。このまま持久戦に移ったら、体力のない私が不利になるのは確実だった。
「鬼子、自己を見失うでないぞ! 戦いとは自分と向き合いことなのじゃ」
 お爺ちゃんの声がする。そんなことを言われても自分と向き合う前に相手と向き合わないと生命の存亡にかかわる。
 鬼は口から蒸気を吐き出し、威嚇した。漆塗りの栂を掻ききむしるような悲鳴に聞こえた。
 まるで、何かを嘆いているようだった。
 再び鳴き声を上げる。

 ク・ル・シ・イ。

 自暴自鬼ははっきりとそう痛みを叫んでいた。
「あなたは……」
 雄叫びが大地を揺るがせ、木片が小刻みに震える。

 クルシイ、ツライ。

 私の生き写しを見ているようだった。私の、醜い部分だけが蒸留されて塊になったものがそこにあった。
「苦しかったですよね、辛かったですよね」
 いぼつき棍棒が振り下ろされる。攻撃は外れた。私一人分先にめり込んだ拳はあった。

 ダマレ、オマエニナニガワカル。

 もう一方の拳も振り下ろされた。それも見切った。両手でじゃんけんするように、動きがよくわかった。
 自己というのは、自暴自鬼のことなんだ。私は自暴自鬼で、自暴自鬼は私。敵なんてどこを探したって存在しない。お爺ちゃんはこのことを言いたかったんだ。
 鬼の成れの果てが下ろしたいぼ棍棒に乗り、そのまま頭部に馬乗りした。振り落とそうと躍起になるが、私だって必死だ。
 一体化する。
「何もかも、わかります。私もあなたと同じ鬼ですから。でも、もう疲れたでしょう? ゆっくり休みたいでしょう?」
 そう語ると、自暴自鬼は抗うのをやめた。二人の鬼の息遣いだけが聞こえる。

 ……アア、ツカレタヨ。

 鬼はすべてを堪忍したような、そんなやさしい口ぶりだった。
「あなたの苦しいこと、辛いことは、全部私が背負います。だから、あなたを――」
 お母さんのことを思い出した。正確にはお母さんが言っていた言葉だったけど。
 私は紅葉なんだ。誰かの苦痛を背負って散っていく紅の一葉なんだ。
 喜び萌えよ、悲しみよ散れ。
 鬼斬を振り上げた。
「――萌え散れ」
 自暴自鬼が一刀両断されていく。鬼は抗うこともなく、自らの定めを受け入れていた。

 アリガトウ。

 消え失せる間近、穏やかな春風のどこかから、そんな声が聞こえた。
「ねねさま!」
 こにが駆け寄ってきた。私は黙ってその小さくて大切な存在を抱きしめた。
 祓ったんだ。今になってようやく実感が追いついた。私は生きている。
「おじいちゃあん! おじいちゃんおじいちゃん!」
 慌ただしい声が村からやってきた。シロだ。右手に大幣を持ち、左手に梓弓を持っている。鬼が門を越えた知らせを聞いて飛んできたのだろう。鬼から村を守る神さまとして、誇るべき志をちゃんと持っているのだ。
 お爺ちゃんはふっとやわらかな笑みを浮かべ、愛おしい孫を抱きしめた。シロはえぐえぐとしゃくりを上げて泣いていた。怖くて怖くて仕方なかったのだろう。
「きょ、狂言だ! これは狂言だ!」
 防人は腰を抜かしたまま叫んだ。
「お、鬼め、化けの皮を剥がしやがれ! まだ俺たちを騙す気か!」
 怨みに満ちた罵り言をぶつけられる。でも結局私の立場は何も変わっていなかった。鬼は人間から忌み嫌われる。単にこの人が恩知らずなだけとも言えるけど、私はそうだとは思えなかった。その眼には、二匹の鬼が殺し合いを繰り広げていたようにしか映らなかったのかもしれない。同族殺し、そして勝ち残った鬼が人間を殺戮する権利を得るのだと。
「あのデカブツはこの鬼が呼び寄せたんだ! 綿密な策略を立てていて、またすぐしたら狂言で、新手の鬼がきっと来るぞ!」
 防人の言っていることは支離滅裂で、感情に言動が支配されてしまっていた。
「わかりました。この村を離れます」
 だから私はそう断言した。シロが唇を噛み締めていて、お爺ちゃんは思慮深く頷いていた。
「ねねさま……」
 袂を掴んだこにが哀願の眼差しを向ける。でも私の心は決まっていた。これ以上ここにいたら、村の人たちに迷惑をかけてしまうだろうし、匿ってくれているお爺ちゃんやシロも困らせてしまう。
「その鬼、さては猊下(げいか)がお引取りになられた鬼子だな!」
 きっともう、このままじゃいけないんだと思う。これでは何も変わらない。いや、今私が行動しようとしていることをしてもなお、世の中は変わらず動き続けるのかもしれないけど。
「白孤様のもとに置かれても、穢らわしさは抜けていないようだな」
「この子に穢れはありません」
 私ははっきりと口にした。
「それも全て私が受け持っています。私が、私の名前が鬼子ですから。この子の名前は鬼子ではありません」
 鬼と罵倒するのであれば、それは全て私への罵倒だ。この子に一切の蔑みも認めない。私がその全てを負って生きる。
 私にはその覚悟があった。
「紛らわしい名前しやがって……」
 泥だらけの頬骨に汗を滴らせる。歯軋りの音がここまで届いた。
「ねねさま、いっちゃうの?」
 こにの不安が見て取れる。お爺ちゃんを見た。何もかも、お主の意に委ねる。無言で物語っていた。
「こに」
 膝をたたんで、こにと同じ視線で澄んだ眼を見つめた。世界が大きく、広く見えた。
「私と一緒に、行く?」
 そう、問いかけた。
「うん、いくー!」
 笑顔。
 まるで、これから起こることなんて何一つわかっちゃいないような、そんな笑顔だった。でも、それがこにらしかった。私みたいなほほえみしかできなくなってしまったら、それはきっとこにではなく、鬼子なんだろう。
 手をつなぐ。その手はとても小さかった。これからも守っていかなくちゃいけない。たくさんのことから、この身を尽くしてでも。
「鬼子さん! こにちゃん!」
 シロの震えた声が凛と響いた。
「どんなことがあっても、ここが二人のおうちです! いつでも待ってますから、ずっとずっと、待ってますから! わたしも一人前になれるように頑張ってますから! ですから、ですから――」
「シロちゃん!」
 こにがぴょこりと飛び跳ねた。
「またまりつきしてあそぼ!」
 その喜々とした声にシロの瞳が潤みだした。お爺ちゃんは春の青い空を見上げ、防人は抜け殻のように私たちの別れを眺めていた。
 一歩、二歩と歩き出して、戦場の痕を越えた。
「絶対ですよ、約束ですよ!」
 シロは声が掠れるまで大声を上げ続けていた。私たちも手を振りしきって、やがて前を向いた。
 道の先には、茜色の空が続いていた。


 いわゆる日常的な平穏ってものは案外あっさりと奪われてしまうらしい。戦いがすぐ近くで繰り広げられていたのに平穏っていうのはおかしいかもしれないけど、じゃあシロちゃんやこにぽんと雑談に興じていたのを、平穏と言わずになんと言えばいい? でも、そういうものは、この世界において実にもろくて、崩れやすいものなんだとやっと実感することができたのだった。
 鬼にやられた。わんこは帰ってくるなりそう声を張り上げた。あわてて出てみると、日本さんを背負い、白狐の爺ちゃんの肩を担いだわんこがそこにいた。ひたいから血を流す犬ころの姿を見て、自分の体が青ざめていくのがわかる。シロちゃんが小さな悲鳴を上げ、こにぽんがあたしの裾をぎゅっと握りしめる。傷ついたわんこの代わりに日本さんを背負おうと思って手を伸ばしても、吠えて拒むのだった。それからうわ言みたいなことを言って、わんこは倒れてしまった。
 今はそれぞれ別の床で休ませている。シロちゃんは白狐爺を、こにぽんは日本さんを介抱している。
「お茶淹れたよ」
 そしてアタシは元気のない元気坊主の相手をしているワケだ。
「人間の淹れた茶なんて飲めるかよ」
 弱ってるクセに、意地だけは変わらない。包帯を巻いた頭を外に向けたままふてくされている。
 外では何やら人々が集まってお経じみた合唱が行われている。怪しい儀式で枯渇した白狐爺の力を満たそうとしているらしい。
「あの連中を黙らせろよ。昨日から休みなしで眠れねえし、気が狂っちまう」
「はは、そりゃ同感」
 湯呑の載ったお盆を置く。立ち上る湯気が渦を巻いた。
「このお茶さ、アタシだけが淹れたんなら別に飲んでくれなくて構わないけどさ、こにぽんとシロちゃんと一緒に淹れたんだよ」
 お茶を渡すと、わんこはしぶしぶ受け取り、息を吹きかけた。しばし小波に揺れる水面を眺め、一口飲む。それからまた湯呑の中のものを見つめていた。
「……チクショウ」
 考えていることが口から洩れているような、そんな訴えだった。若々しい悔しみに懐かしさのようなものを感じる一方で、自分を追い込む痛ましい姿に心が苦しくなる。
「アンタはよくやったよ」
 わんこの「チクショウ」みたいに、アタシも口から言葉が滲み出ていた。
「よくねえよ」
「シロちゃんから聞いたよ、後ろから叩こうとしたヒキョーな奴らをボコボコにしてやったんでしょ? しかも二人相手とか、お見事としか言いようがないね」
「見事なもんじゃねえよ。鬼子も守れねえし、自分も守れやしねえ。あまつさえ白狐爺もだ。……こんなのってねえよ」
 わんこって、こんな弱音をはくような人だっけ? なんか、こういうのを見ると、ケガしたりカゼひいたりしたくないなあ、なんて思う。わんこの弱音はケガやカゼみたいなものなのだ。
「やれやれ、まったく、男なら堂々としてな! 見てよ、アタシの堂々っぷり!」
 無い胸を張って言ってやった。当然冷ややかな目で見られる。
「お前は馬鹿なだけだ」
 湯呑を投げるように置き、布団をかぶってしまった。
 たぶん、わんこの言う通りなんだろう。日本さんのことを差別する人がいる。その人を見たときのわんこの表情から察するに、差別は日常茶飯事なのだろう。日本さんはそのことをひたすらに隠そうとしていた。もしかして、アタシが知っちゃったから、日本さん鬼に負けちゃったんじゃ……。
 そういう妄想全部、知らないフリして、とぼけちゃって、鈍感な仮面をかぶっている。
 でも、それはそれでいいんじゃないかと思ってる。
 だってさ、こーゆー空気、好きじゃないもん。
 ふすまが開いた。見るとこにぽんがしゃくりを上げながら立ちすくんでいた。
「なあおい、どうしたんだよ」
 がばりと上半身を起こしたわんこを見るなり、こにぽんはとてとてと駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。
「わんわんは、変わったりなんかしないよね? わんわんは、こにのこと、ずっと好きだよね?」
 アタシは何も語らず、じっと二人を見つめていた。
「な、何言ってんだよ。俺はその……俺のままだよ」
 アタシのことをちらりと見て、少しあわてた様子でつぶやいた。
「ねねさまはね。やっぱりかわっちゃったの。ねねさま、なんにもこたえてくれないんだよ? ぷりんのことも、たべてくれないんだよ? わんわん、ねねさまのおはなし、きいてあげて。ねねさまつらそうなの。だから……」
 きっと、今のわんこじゃイエスと言えないだろう。いつもならハッタリだとしても自信を持って頷くだろうが、先の戦闘で色々とキズを負ってしまっている。わんこのことだし、ほっとけばそのうち元に戻るだろうけど、今日本さんのトコに行ったらキズが膿んでしまうかもしれない。日本さんの心をえぐることになるかもしれない。
 アタシは、立ちあがった。
「代わりに行ってくるよ。わんこは安静にしてなくちゃダメだからね」
「ほんとにっ? タナカ、行ってくれるの?」
 こにぽんは真っ赤にさせた目を潤ませながら訊いてきた。
「当然よ。こにぽんはわんこと一緒にお留守番ね」
 日本さんトコへ行くのは、一つはわんことこにぽんのためだ。悲しそうな顔をしてるのをほっとけるわけないじゃないか。
 でも本命の理由は二つ目にある。
 どうして、黙り続けるんだ。こにぽんがせっかくプリンをあげるって言ってくれたのに、ありがとうのあの字もないってどういうことなのさ。
「……田中」
 わんこがアタシの名を呼ぶ。
「鬼子はな、今まで一度も鬼に負けたことはなかったんだ。だから俺みてえな立場の気持ちなんざ、ちっともわかっちゃいねえんだ」
 ほとんどグチのようなものだった。羨ましいのと恨めしいのがごっちゃになってまとまらないんだろう。
「だから、鬼子をこれ以上引きこもらせるようなことがあったら、俺は本気でお前を噛み殺す」
「おーこわいこわい」
「な……、俺は本気だからな!」
 本気だってことくらいわかってるさ。だからこそ、アタシは茶化してやってるんだ。


 しっけてるなあ、というのが第一印象だった。キノコでも生えるんじゃないの? そんな冗談みたいなことを考えてしまうほど日本さんの部屋はジメジメしていた。日本さんは布団にもぐってピクリともしなかった。角だけ飛び出ているのがちょっとほほえましい。
「ひっのもっとさーん、あっさでっすよー。正確にはひっるすっぎでっすよー」
 無反応。となるとここは興味を持ってもらえるような話題を立て続けにぶっ飛ばしながら、日本さんの睡眠(または狸寝入り)を邪魔するのが最適のようだ。
「起きたら朝日を浴びる! 一日の始まりと言ったらこれっしょ!」
 テンションを一人あげつつ、雨戸を引き開けた。まぶしい南の光が差し込み、布団がちょっとだけ動く。
「はい、布団ボッシュート!」
 それから掛布団をはがす。不意をつけたようで、あっけなく布団を奪うことができた。寝巻の浴衣姿の日本さんは縮こまった様子で、必死にまぶたをつむっていた。反抗期の寝ぼすけ坊主みたいで、なんか和んじゃうね。
 ああ、そっか、今まで反抗しようにもできなかったんだもんなあ。
「日本さん、起きてるのはわかってるんだぜ? おとなしく目を開けるんだ!」
 立てこもった犯人を相手する刑事風の口調で説得するが、止まれと言って止まらないドロボウのように、日本さんも目を開けるのを拒んでいた。
「さもなければ――」
 両手の指関節を動かし、ウォーミングアップを始める。
「くすぐりの刑に処する!」
 アタシは無防備な日本さんに飛びついた。木綿の浴衣の上から腋や横腹を揉みくだした。
「ひゃ、あっ!」
 日本さんの躰は、さっきまで布団にくるまっていたからか、とてもあたたかかった。頬や腕、胸、お腹、腿、どこを撫でてもつまんでもやわらかい。こんな華奢な肢体で薙刀片手に舞い踊るんだから不思議だ。
「た、たなかさ、ぁ、んっ、や、やめ……ん」
「だがやめぬ!」
 暴れないよう両手首を掴み、空いた手でその白桃を弄りまわす。脚と脚とが絡み合う。日本さんの息が近い。寝起きのまなこがとろりととろける。薄紅色の頬、ぬれる唇、艶めく黒髪の芳潤。
「鬼子ォ! 田中ァ! オレも混ぜろおぉ!」
 そして釣れるのは、白い淫らな鳥だった。
『お引き取り願います』
 鬼子さんと一緒に奴を外に放り投げた。儀式中の人々が悲鳴を上げた。その瞬間、アタシと日本さんは、初めて心から交わり合うことができたのだった。
 いや、ただくすぐっただけですけど。
「田中さん、な、なにするんですか……!」
 息を荒げる――アタシも似たようなもんだけど――日本さんの機嫌はある程度治ったみたいだった。
「心配でさ、お見舞いのお品物がなかったから、代わりに」
「代わりに、じゃないですよ、もう……」
 呆れられつつも、満更ってわけでもないみたいだった。でもその深い瞳に陰りがあるのは変わらない。
「なんかさ、悩んでることあったらさ、今すぐにでも相談に乗るよ。今すぐに」
 あえて唐突に本題へ移る。そうしないと、面と向かって話せないような気がした。
 日本さんは何も答えなかった。こんなすぐに自分の心の内を語るような人じゃないのは重々承知している。
「今回の鬼は、強かったみたいだね。っていうか、卑怯者ども、みたいな?」
 敗北の記憶を引っ張り出すことに躊躇はあった。日本さんの反応は無言だった。
「今回は負けちゃったけどさ、みんなが無事でなによりだよ。また次にさ、リベンジ果たそうよ」
「田中さんは――」
 ここで日本さんの口が開いた。
「田中さんはまだ、私のこと、友達だって思ってくれてますか?」
 その問いかけに、アタシはちょっとだけ懐かしい気分に浸ることができた。
 「お友達に、なって下さいませんか?」と緊張をあらわにお願いされたあの日がずいぶん昔のことに思えた。まだ一ヶ月も経ってないっていうのに。
「アタシは、いつもと変わらないよ」
「戦いに負けてしまってもですか?」
「生きてさえいてくれれば、それでもいいよ」
「負けたら、駄目なんです!」
 私の言葉を遮るように、日本さんは声を張り上げた。
 圧倒されてしまったアタシはしばし日本さんを見てまばたきするほかなかった。
 努めて落ち着いた口調で続く。
「私は、強い鬼でいなくちゃいけないんです。絶対に負けない鬼でなくちゃいけなかったのに……」
 鬼子さんの言葉から、まるで大木の根っこみたいにしっかりとした信念が見て取れた。
 でも、鬼子さんは再び黙りこくってしまった。
 日本さんはまだアタシに話したいことがあるはずなんだ。
 聞いてみたいけども、でも本当に聞いてしまっていいものなのだろうか?
 聞いたらその瞬間、二人の関係は壊れてしまうんじゃないだろうか?
 そんなセリフを、いつか日本さんのほうから聞いたことがあった。
 そう。
 日本さんはアタシを、試している。
 アタシを友達だと思ってくれているから、アタシがどこまで近付けるのか試しているんだ。
 自分をさらけ出すことに、どれだけ勇気がいるんだろう。たぶん、友達を作ることなんかよりずっとずっと、桁違いの勇気を使うことだと思う。
 アタシにできるのは――、
「日本さんが話したいのなら、ちゃんと聞くよ」
 その小さな背中を支えてやることだ。
「……ありがとうございます」
 このあとで、何が起こるのかはわからない。アタシたちは、そういう綱の上を渡っているんだから。平穏なんてすぐに崩れ去ってしまうような世界で生きてるんだから。
「田中さんと出会えたのは、きっと何かの縁なんだと思うんです」 
 全てを受け入れよう。
「私が常に勝ち続けなければいけない理由を、鬼を祓う理由を、私の過去を、話しておきます」
 日本さんのお話を聞き終えたあとで、アタシは驚くかもしれない。
 あるいは、なんだそんなことか、と拍子抜けするかもしれない。
 でも、それを乗り越えて受け入れることが、支えるってことなんだ。
 そっと、息を吸う。
 やさしく息をはいた。
 日本さんの物語が、始まった。
「六年前のあの日が来るまで、私は人間だったんです」

   φ

「お母さん、もみじはなんで散っちゃうの?」
「そうね、あんなにきれいなんだもの、散っちゃうのはもったいないって思うわよね」
「うん」
「でもね、紅葉が散るのは、紅葉の神様がわたしたちのくるしいこと、かなしいことを散らしてくれるからなの。春になったらね、散らしきったもみじの木から、うれしいこと、たのしいこといっぱいの若葉が芽を出すのよ」


 六年前の秋のことだった。
 父は私が生まれて間もなく亡くなってしまったけれど、国境の山の恩恵と父の遺した畑のおかげで、母と共に貧しいながらも幸せな生活をしていくことができた。当時遊ぶことが大好きで、国境の山はお庭だった。友達と木登りしたり、虫取りをしたり、山頂まで駆け上がったりしていて、今では考えられないくらい、お転婆な小女時代だった。
 あの日は長く続いた秋晴れが終わり、冷たい風の吹く曇りの日だったのを覚えている。私は日課の薪拾いに出かけていて、冒険がてら山の頂まで登って一休みしているときだった。
 隣の国の山裾から恐ろしい姿をした鬼が向かってくるのが見えた。疾風みたいな速さで馳せるので、私は慌てて山から下り、母に知らせた。すると母は大きな釜を持って外井戸まで私を連れていった。
 お母さんがいい、と言うまで釜の中に入ってるのよ。
 もう母の声は思い出せない。でも、そんなことを言っていたのは記憶に残っている。
 私は怖かった。自分がお釜の中に入れるかどうかじゃなくて、この中に入ってしまったら、もう一生母と会えなくなるんじゃないかと感じたのだ。だから反抗した。あれが最初で最後の反抗だった。
 私は親不孝だ。最後の最後に哀しい顔をさせてしまったんだから。
 お母さんね、――には、たくさんの人を幸せにできる芽を持ってると思うの。みんなね。つらい、くるしい、かなしいって泣きたいこと、たくさん持ってるでしょう? でもちょっとしたきっかけで、私たちはみんなしあわせな気持ちになれて、笑顔になれるの。立派じゃなくていい。でも、――の芽が、みんなを笑顔にしてくれたら嬉しいな。
 もう、母の輪郭もおぼろげだし、母がつけてくれた大切な名前も忘れてしまった。
 でも、紅葉を見るたびに、この言葉だけははっきりと思い出すことができる。紅葉は母と私を繋げるものなのだ。
 私は母の言葉に胸をときめかした。あの時、鬼に食べられてしまっておしまいだと思っていた私にも未来があることを、未来に向かって歩いてもいいってことを、許してくれたみたいで、すごく嬉しかった。
 体を折りたたんでお釜に入ると、母は縄で縛って井戸に下ろしてくれた。身動きが取れなくて、痛くて、怖くて、一人きりで、探険するときの興奮はすぐに失せてしまって、だんだんと心細くなってきた。でも不思議と鬼への恐怖はなかった。母が守ってくれるから、と根拠のない自信で心は埋め尽くされていた。
 明日友達となにして遊ぼうか、そんなのんきなことを考えだした、その時だった。
 井戸の外から、稲妻のような地震のような大きな音がして、すぐに女性の叫び声が聞こえてきた。音は井戸の中で反響に反響を重ねる。
 それきり、だった。
 もう何の音も聞こえない。
 急に孤独を感じる。これ以上膝を抱えて待っていても、母は迎えに来ないのではないか。頼れる人はいなくなってしまったのではないだろうか。これからぬくもりに触れることはないのではないか。あのすまし汁は二度と食べられないのではないか……。
 お腹が減ると、余計に寂しさがこみ上げてくる。
 それからどれだけ「お母さん」と呼び続けただろう。我に戻ったのは、お釜がごとりと動き出したときだった。お母さんは鬼に殺されてなんかいない、生きてるんだ。何事もなく鬼が通り過ぎていって、引き上げてくれてるんだ。そう思った。でも、母の「もういいわよ」の声はどこからも聞こえてこない。それどころか人の気配が一向に感じられなかった。それなのに、お釜は上下に揺れ続けている。
 鬼に見つかったんだ。息を殺してさらっておいて、鬼のすみかで戦利品とばかりに私を食べようとしてるんだ。
 ただただお母さんお母さんと連呼して、助けて助けてと祈り続け、こわいこわいと頭を抱えたその瞬間、違和感を覚えた。
 頭に、何か固いものが二本生えていたのだ。しばらくいじると、それが角だってことがわかった。
 鬼と成っていた。
 どうしてそうなってしまったのか、今でもわからない。母への思いが鬼にさせたのか、お釜の中に入っていたから鬼になったのか……。
 今度は自分が怖くなり、外に出たくなった。これ以上釜の中にいたら、私は心まで鬼になってしまいそうな気がした。母の言いつけなんてどこかへ飛んでしまうくらい怖かったのだ。
 ふたを押し開け、生まれたばかりの仔馬のようにふらついて倒れこむ。そこはもう夜で、井戸の中ではなかった。河原の草原で、山と山に挟まれた渓谷だった。上流の空が煌々と赤く燃えていた。故郷は鬼に滅ぼされ、私はきっとその最期を見届けていたのだ。
 でも、周りに鬼の姿はなかった。私は鬼に連れられてここまで来たわけではないようなのだ。だとしたら、どうして見知らぬここまで来てしまったのだろう。そんなことを思ってお釜をみると、どういうわけかお釜に手と足が生えていて、ひょこひょこと飛び跳ねている。
 私の強い祈りを受けて神さまになったのか、例の鬼の邪気を受けて鬼になったのか、それとも神さまでも鬼でも人間でもない存在に変貌したのか……。とにかく鬼になってしまった私に心があるのは、お釜が私のことを守ってくれたからなのだろう。でも私は混乱していて、鬼や神さまの知識もなかったので、ただただ不思議だなあ、と思うばかりだった。
 きょとんとしている私を見て、お釜は意気込んで渓流に飛び込んだ。何をするつもりなのかわからなかったけど、川から上がったそれを見て、納得すると同時に仰天もした。お釜の中にはお腹の膨れた鮎がたくさん泳いでいたのだ。お釜に顔があったらしたり顔をしているようで、きっとほめられたかったんだと思う。
 山菜と朽ち木を取ってきて、ご飯を作った。ずいぶん久しぶりだった。塩気がなくておいいくなかったけど、お腹はいっぱいになれた。
 でも母の味を思い出して悲しくなって、その日は泣きながら草を枕に眠りについたのだ。
 こうして、私は鬼として日々を過ごすようになった。鬼を自覚したのは初めて村を訪れた時の人々の対応を見てからだ。
 鬼の子だ、鬼子だ。
 自分は忌み嫌われる存在なのだそうだ。冬が来て、食べるものが少なくなって、雪が降ってきて、寒くて、里へ降りざるを得なかったときは、そんな罵倒を受けながら、お祓い程度のお米と、塩と、大量の孤独感を持ち帰ったのだった。
 鬼子だ、鬼子が来たぞ。
 いつしか私は鬼子と呼ばれるようになった。一度も来たことのない村でもみんなが口を揃えて私の名前をさらしあげる。悪い噂ほど、早く世間に広まりやすい。噂の対象になって初めてその本意を理解できるなんて、なんだかとても皮肉なものだった。
 何度か訪れた村に再び足を踏み入れなければならないときがあった。吹雪いていて、空腹で最寄りの村もなかったから、無理を承知で食べ物を少し分けてくれるよう頼むためだ。
 でもその村は荒れ果ててしまっていて、見るも無残な光景が広がっていた。小屋は一様になぎ倒されており、がれきに押しつぶされた大人の周りに集って、涙を涸らしてもなお泣き続けている子どもの姿があった。
 堕ちた風の神さまの仕業だった。ある意味で、初めて鬼の被害をこうむった村を目撃したのだ。思わず踵を返し、走って逃げる。
 あの子たちはこの世の中で生き抜くことができるだろうか。そんなの、答えは決まっていた。だから余計に辛かった。
 鬼を倒せる力があったら。自分の無力感、同族嫌悪、そんな自己への嫌悪。
 私って、なんなんだろう。
 笑顔の葉っぱを芽吹かせてほしい。そう母は言ってたけど、私を見る人々はみんな、顔はこわばり、瞳孔は見開いている。
 私なんて、私なんて……!
 でも、それでも人を襲うことはしなかった。それをしたら、きっと最後に残された大切なものまで失ってしまうと思ったから。別にそんなもの、全てを私の中の鬼に委ねてしまえばすぐに楽になれるのに。自分勝手とか、わがままとか、そういうのじゃない。
 ――春になったらね、散らしきったもみじの木から、うれしいこと、たのしいこといっぱいの若葉が芽を出すのよ。
 世の中の色々から歯向かおうとしている自分がいると同時に、母が遺してくれた最後の希望を追いかけてみようとも思っていた。
 その一環だったのかもしれない。里山から村を覗いたときに、家々からもれるあたたかい明かりを見て、私はそれらの家族の幸せを祈り続けた。
   わらぶきの 下でなごやぐ 親と子の 喜び萌えよ 悲しみよ散れ
 私の力はとても及ばないけれども、どうか鬼に襲われることなく、私みたいに鬼になることもなく、幸せでいてください。
 感謝なんてされなくていい。日常を、日常のまま暮らしていってもらいたい。第二、第三の『鬼子』が現れないように。
 寒さが一層厳しくなってきても、お釜を連れて川を下り続けた。体力も精神も尽きようとしていた夕暮れに、神さまの集団にお会いした。私みたいにみすぼらしいお姿をしていたから、きっと信仰や感謝をほとんど受けなさらない神さま方なんだと思う。でも飢えてる様子はなく、ずいぶんと穏やかなお顔をしていた。
 おや、見慣れない顔だ。
 もしや、人間の噂に聞く鬼子と、なんだ、釜か。
 鬼のクセに邪気が感じられんな。
 感じられるのは、さしずめ空腹感ってとこだな。
 彼らは私をおちょくりはしたものの、貶すことはなさらなかった。いや、敬語なんて取り払ったもいいような気がする。この方々にはどこか親近感を感じさせる。
 腹ペコ鬼子さんに、オレたちのバイブル、中ラ連を紹介するぜ。
 「ばいぶる」も「ちゅうられん」も意味がさっぱりだったけど、この神さまたちみたいに陽気な気分にさせるものだったら、喜んで行きたいものだった。人間だったころみたいに、楽しみで満ち溢れていたとしたら。
 中ラ連ってのはな、中央ライス連合の略だ。ライスってのは西の最果ての国の言葉で……米だったか、飯だったか、とにかく腹いっぱい飯が食えるんだ。俺たちビンボーな神や鬼を憐れんだ大神サマの恩恵よ。ありがてえ。
 ご飯というものは、人間の思いが詰まっているから、鬼や神さまにとっても栄養満点らしい。ご奉納のお米やお酒も、そういう点では間違いではない。
 神さまや鬼たちが一列に並んで配給を待っている。
 なんでえこの長さは、異常じゃねえか、と神さまの一人がつぶやいた。それに、元々の気質だかどうだかは定かじゃないけど、行列をなす神鬼からぴりぴりとした空気が伝わる。神さまたちに連れられて中ラ連の厨房へ向かった。
 連合と聞いて大きな施設を想像したけど、実際は人力車に食材と調理器具を積んでいるだけの質素なものだった。
 いいから米を出せっつってんだ、さあ!
 アンタも鬼の自覚があるんなら、いい加減聞き分けな。道中釜が壊されちまったんだ。生米は食えないものが多いからそのまま出すのは不公平になっちまう。釜新調したらすぐ出直してやるから、今日のところは菜っ葉で辛抱してくれることを願う。
 短気な鬼と、中ラ連の料理人が口論をしていた。十数名の外野もああだこうだ声を張り上げていて、騒然としていた。
 あの、もしよろしければ、なんて言うまでもなかった。手と足のあるお釜が意気揚揚に(声こそ発さないものの)名乗りを上げたのだ。料理人と短気な鬼の間に立ち、自らふたを開け、銀色の中を指さす。
 アンタで米を炊け、と?
 お釜はこくこくと頷き、飛び跳ねた。料理人は確認するように私を見る。どうぞ使ってあげてください、と頭を下げた。あの日以来、お米らしいお米を炊いてあげてなかったから、お釜は早くしろと言わんばかりに、煤けたかまどの穴に飛び込んだ。
 久しぶりのご飯は甘くて、いい香りで、全身が溶けてなくなってしまいそうな感覚をもたらした。玄米に味噌と少しの菜っ葉という貧しい食事だったけど、本当に、涙が出てしまうくらいおいしかった。おいしかったなんて言葉にできないほどおいしかった。
 神さまや鬼たちが解散した後も、私はここに留まっていた。特に理由はない。あるとすれば、久しぶりに誰かの笑顔を見ることができた気持ちを噛みしめていたんだと思う。
 アンタ、色々大変なんだってな。
 料理人の彼は川で調理器具を洗いながらつぶやいた。
 辛いときは、俺の米を食え。飯がありゃ幸せさ。うまそうに食ってくれりゃあ俺も幸せになる。
 お釜は自分で自分の手入れをする。意外と綺麗好きみたいで、丁寧に汚れを洗い落としていた。
 熱心に包丁を磨く背中を見て、私は決心した。
 もしよかったら、あのお釜あげます、
 料理人の手が止まる。
 私からお釜をなくしたら、たぶん生きていくことはできないだろう。
 でも、それでいい。自分じゃ何もできないけれど、私の何かを誰かに託すことはできる。私じゃ力足らずだから、力のある誰かに私の思いを渡せばそれでいいんだと、そう思った。
 アンタ、こんな噂を知ってるか?
 手は止まったまま、でも振り向かずに尋ねられる。
 この川を下りきった河口の村の噂さ。その村を治める白狐が、まるで人間みてえな小鬼をかくまってるって話だ。
 今度は私が停止する番だった。
 私と同じ境遇の人間がいるの? にわかに信じられない事態だった。会ってみたかった。会って、共有できるものは共有したかった。私の心から生きることへの諦めの念は消えてなくなっていた。
 諦めてしまうことをとどめさせてくれたんだ。私の思惑を見破っていたんだ。そんな予感が頭をよぎると、たちまち目の前の背中がたくましく思えてきた。
 礼を言われる義理はねえ。俺たちに何の違いもねえんだよ。アンタは兄弟なんだからな。
 彼はそう言ったきり沈黙を続けた。
 別れ際、お釜に名前を付けた。中ラ連の彼の助言もあって、かまどで炊かれるのが大好きな鬼という意味を込めて、かまど炊鬼(かまどたき)と名付けた。ちょっとおかしな名前だけど、手足の生えたお釜はとても気に入ってくれたみたいだった。
 旅が始まる。一人で見知らぬ土地を歩いたことなんてなかった。海までの道のりは長かった。いくつもの村と町と国を越えた。何度石を投げられたかわからないし、いくつひどい言葉を塗りつけられたかわからない。目が合っただけで幾人に逃げられたのか。どれくらい挫けかけたことだろう。でも料理人が配給してくれた煎り米をつまむたび、前へ前へ進もうという気になるのだった。
 川は少しずつ広くなっていく。雪は徐々に解けていく。風に流されてきた潮を香りに気付くときには、もう桜が満開になっていた。春だ。
 河口の村は、今まで見てきたどの町や国よりも立派な塀が築かれていた。鬼の侵入を防ぐもので、隙間はどこにもない。道の先に大きな門が待ち構えていて、その前に白い髪の老人が立っていた。
 お主が来るのを待っておった。
 遥か昔から到来を予測していたかのような口ぶりだった。お主にしか出来ぬお守を頼みたいのじゃ。
そう言って重々しい門の中へ私を引き連れた。されるがままに動くしかなかった。こんなごくごく普通に接せられるのは鬼になって初めてだった。
 だからこの老人を疑った。狡猾な企みは私は騙されるんだと。でも抵抗はしない。すべてを受け入れる。
 人一人いない整備の行き届いた街道を歩き、村はずれの神社に到着する。
 おじいちゃん、大丈夫でしたか?
 ぱたぱたと箒を持った巫女姿の女の子が――薄黄色の髪から獣の耳を生やした子が――駆け寄ってくる。
 大丈夫じゃ。それよりシロや、旅人さんをあの子のところまで案内してやりなさい。
 老人がそう言うと、シロと呼ばれた巫女はびくりと体を震わせ、私を見た。その眼に緊張の情は混じっていたけれど、恐怖の情はちっとも感じられなかった。
 シ、シロです。はにかみながら少女は会釈した。あなたの名前はなんですか?
 私は――言いかけて気付く。私の名前はなんなのだろう。
 もうそんなもの、忘れてしまったような気がする。とても、とても大切なものだったけど、幼いころ大切にしていた木彫り人形みたいに、知らず知らずのうちにどこか暗い所へしまいこんでしまっていた。
 不思議とむなしさはなかった。
 ああ、えと、そ、そういうことってありますよね。わたしもど忘れしちゃうことありますよ。ほら、昨日の夕ご飯何食べたっけとか、部屋片付けなさいっておじいちゃんに言われたこととか。よくありますよ、ね?
 だから、何としてでも私を肯定しようとする小女の言動が、なんだかおかしかった。肯定しているように見えて、的外れなことを言ってるのもなんだかくすりとくる。
 大きな社の脇にある小屋に入る。中は広い板張りの稽古場になっていて、指先が痛くなるくらい冷たかった。ひたひたと中を渡る。
 裏庭から元気な鞠つき遊びの声が聞こえる。あんたがたどこさ、肥後さ、肥後どこさ、熊本さ、熊本どこさ、せんばさ……。
 私とはもう縁のない世界からの歌声に聞こえた。そんな日々がつい半年前まであったことがまるで夢みたいに感じる。
 裏庭の童女は鞠をつくたびに頭の両側でゆわえた短い髪束が揺れた。背を向いていて、黄色い帯は身長の半分はあろう蝶結びで締められていた。
 あの子、あなたと同じ鬼に成った子なんですよ。
 えっ。
 思わず声が漏れ出ていた。
 だって、だってあの子は……。
 こにちゃん、おいで、紹介したい人がいるの。
 待ってください、私はまだ、心の準備が……そんなこと、言えるわけがない。緊張してたんだから。
 童女は振り返る。
 まるで相縁に魅かれあうように目と目が合う。

「ねねさま!」

 頬をさくら色に染め、屈託のない無邪気な笑顔を満開にさせた。
 私の記憶に、鮮やかな色が宿ったのは、このときだった。
 裏庭の桜は、華々しく咲き誇っている。


表紙落ちしてるだろこれwww

どうも、じょがぁです。こんにちは。
今日はガンガンJOKER12月号の発売日ですね。
というわけで、
11月号の感想やるよー!


はい、JOKER史上最高と名高い恥ずかしい表紙となっております。


来月昨日11/22(火)発売の新刊↓

「コープスパーティー Blood Covered 7」
「新装版dear 5」

新刊告知ページがコープスパーティーに侵略されてて、dearのスペースが悲しいことになってますな。


今月先月発売の新刊↓

「私のおウチはHON屋さん 4」
「戦國ストレイズ 9」
「新装版dear 4」



では本編へ。


横山知生「私のおウチはHON屋さん」

あれ、なんか知らないうちに探偵漫画になってる……だと? 
違和感あった部分があったけど、あれも伏線だったのか。三読目で気付いたです。
あとp28・3コマ目の横顔みゆがかわいいですな。


忍「ヤンデレ彼女」

うおお、こいつは歴史あるツンデレ本来の形に近い何かのような気がするぜ! 墨華様バンツァーイ!
しかしまあ彼女の語彙の多さ、羨ましい限りであるのう。
で、ナナミは今なお超強靭戦隊ムテキンジャーの最強レッドの意志を継いでいるわけか。うまいなあ。


タカヒロ 田代哲也「アカメが斬る!」

タツミ成長したなあ。アニキも満足してるだろうさ。
そしてアカメがかっこよくてかわいい。もうこりゃ鈍感なタツミを置いて読者はアカメの虜だな。
そして「HIYOKO」Tシャツのラバックの空気感。目立った回があったら多分そいつは死亡回なんだと思う。


祐時悠示 七介「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる」

どこから取り出したんだその竹刀w ってツッコんだら負けな気がしたから何も言わぬ!
というか、この作品は主人公の黒歴史とぱんつはいてないと版権ネタでできてるな……。
真涼の悪女ぶりが半端ねえですな……。うちなら軽く騙されるレベル。


藤原ここあ「妖狐× 僕SS」

ハロウィンで変態ネタや!
女性陣のハロウィン衣装が凝ってて驚いた。
ここあ先生、わかってらっしゃるよ……!


吉辺あくろ「絶対☆霊域」

ハロウィンで変態ネタやあ!!
「ヒャッハー! 愚弟は消毒だーっ!!」って叫ぶ聖羅さんなら簡単に想像できます。
それから鍋にお菓子を入れたくらいじゃ気絶しませんね。やるなら牛乳とコーラとry


遠藤ミドリ「繰繰れ! コックリさん」

市松ドルチェ論面白いな。いや、小ネタだけどさ、これいいわな。
ハロウィンで変態ネタやああ!!!
なんかもう被りすぎて……っていうか編集部さん、これわざとですよね?w いや普通に全部面白いですが。


高透レイコ「かしずき娘と若燕」

しかしまあここの子どもたちは大人っぽいですな。
小学生のふりした中学生みたいなのはツバメと結の境遇からそうなのか。
あああ! 妻手そうじゃないいいいいい!!! 離れもアーチェリイイイ!!!


P.A.WORKS 千田衛人「花咲くいろは」

アニメ終わってからこっち見ると、こっちの絵柄の良さがじわじわ沁みてくるなあ。
テキパキなこちーええですのう。まあほんわかなほうが好みですけどね!
まあみんちには負けますがねっ!


松本トモヒロ「プラナス・ガール」

お前誰だっけ? とか思ったら生徒会長だった。
かなり異色な人だけど、他の人物と比べると劣ってるよなw それがアイデンティティさ!
今回懐かしいキャラが再登場回だなあ。谷郷先輩とか初登場なんじゃねえのってレベルw


カザマアヤミ「ひとりみ葉月さんと。」

二ヶ月くらいぶりにカザマ先生の絵見たら故郷に帰ったような懐かしさを抱いてもうた。
市ヶ谷さん登場してからキリっと引き締まったなあ。
チクショウ反応の一部一部が読んでて恥ずかしいぜ!! チクショウ25歳め!!


竜騎士07 秋タカ「うみねこのく頃に散 Episode5:End of the golden witch」

メタ社会の論戦は白熱してていいなあ。この演出がまたいい。
「“本を読んでる”ってのはな 年にほんの百冊も読まないようなヤツが迂闊に口にしていいことじゃねえんだぜ……?」
戦人の一言は自分を含めた多くの若いもの書きに言ってるようにしか思えない。うん。


村田真哉 いふじシンセン「アラクニド」

ネタバレ:組織のボスは生徒会長……だと?
まあさておき、二人のストーカーが有栖談義に思わず笑っちまった。なんだこの二人w
それからお願いですカマドウマさん。かっこよくホモネタ使わないでくださいw


JOKER PROJECT STARDOM
谷川ニコ あいえ実「真っ白に輝く原稿」


※このマンガはフィクションです。
って扉に書いてあるけど、なんかすっごくリアリティあるよ! うん、ちょっと嘘だけど!
打ち切りになるまいって必死さが、コマとコマの間から叫びとして毛穴から血管に吸収されていく感覚。


野村美月 高坂りと「“文学少女”と飢え渇く幽霊」

推理パートは完全に置いてけぼりになっとります。
あまり推理小説読まないからなのか、間隔があきすぎたのか。
毎月琴吹さんの表情を楽しみにしておるです。


竜騎士07 鈴羅木かりん「ひぐらしのく頃に礼 賽殺し編」

梨花ちゃん中二病カミングアウトな前回だったけど、「中二病」って言葉を使わないところがさすが昭和ですな。
いや現代が舞台でも多分「中二病」ってワードは使わないんだろうなあ。
とにかく次回でラスト。些細なことで事件起こして異次元へ飛ばされる……ってオチじゃないことを祈ろう。


祁答院慎 篠宮トシミ「コープス・パーティー BloodCovered」

鬼碑忌先生の回想はなかなか興味深いものがあった。
どんどん売れなくなっていく小説家かあ。苦しいだろうさなあ。
活路は見出された! けどやっぱり無理ゲーだよな。うん。


鍵空とみやき「カミヨメ」

風神さんすげえな。いや、正直この気迫には驚いた。
万くんの笑顔が爽やかすぎていい。この爽やかさ、次回ではどうるんだか。
ベタな展開のまま次でグランドフィナーレ迎えるみたいだけどどうなるんだろう。


七海慎吾「戦國ストレイズ」

信行さん、いまだ突破口は見いだせず、かいな。
こいつは信長がずばばばっとやってくれる……と思いきや、最後の最後でやべえことになっとるやないか!
こりゃ信長の力を借りずに、自分で切り開けってことか。燃える展開! まあ清州城城下も燃えてますが!




めいびい「黄昏乙女×アムネジア」

ばっちゃん子霧江さんかわいいよかわいいよ。
この泣き出す霧江さん綿密に描写されてて歓喜だよ!
そして小此木さんの決して立ち上がらぬフラグに、安心しつつ、夕子さんがいなくて不安定な日々は続く。


河内和泉「EIGHTH」

ふおお、この展開、アツい!
というか、ルカさんがもうね、カッコよすぎてね、惚れる。
お決まりの死亡フラグだって、クールに言えるのが男ってもんだよな……。


ごぉ 檜山大輔「ひまわり 2nd episode」

明の中には頭の中にはどんな宇宙が形成されているのか、全くの未知数ですの。
というか、大吾さん亡くなっちまったん!? えええぇぇぇ!?
「お前個人にとっては大きな犠牲かもしれんが… 人類にとっては小さな犠牲にすぎん」か……。





JORKER PROJECT STARDOM ROOKIES
秋百合占守「恋愛症女」


こういうドロドロした展開、嫌いじゃない。
でももう少し遡る回数を入れて欲しかったなあと思っちゃうところがある。四十年も遡ってないもんなあ。
でもまあすっきりしたバッドエンドだな。ホラーチックな。先は読めたけど。


JORKER PROJECT STARDOM ROOKIES
汐月くらげ「デュラハンさん」


おおう、この何の説明もなくただ首が取れるという事実だけ述べられたストーリー。いいなあ。
彼女が人間なのか、人形なのか、機械なのか……。うーん、気になる! いい!
まあオチにつながるケンカはなくても楽しめ感ある。カラスにいじめられてる首がかわいい。


JORKER PROJECT STARDOM ROOKIES
黒「終わりゆく世界で、終わらない旅を」


ふおおお、黒さんや! 黒先生の再来じゃあ! この作品好きなんだよなあ。
このどくどくな世界観とストーリーをうまーく調和してるのが素敵ですわ。
一話完結形式の連載してほしいよ、切に願うです。



今回は「うみねこ」が強く印象に残りましたね。
あの言葉。百冊も読んでねえ私は本を読んでないです。来年は「本を読む」人になりたい。

そして来月号、すなわち昨日発売されたJOKERには、
山口ミコト先生の新作「最底辺の男」が連載されます!
予告ページを見るだけで、その最底辺ぶりが、
具体的に言えば、悪臭フェチをお持ちの男性が主人公なのか、そうなのか!?

気になるガンガンJOKER1月号、数時間前に購入しましたよ、当然!

じょがぁへのお便りは
  こちらからどうぞ。

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