ほえぶる!

ファンタジーやら現代もののエンタメ小説やら紀行文やら書いてます。自転車にも乗る。「文藝サークル~綴~」の中の人、「おにこくらぶ」の中の人、「ドジョウ街道宿場町」の中の人です。

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桜が咲いてたよ!

どうも、春です、じょがぁです。
結局今月もあまり更新できなかったこのブログ。
受験終わってから一気に書くことが無くなったような気がする。不思議!


でもって、今日はまた高校に立ち寄って弓道部の様子を見にいったりしました。
そろそろウザい先輩の称号を得られるんじゃないのかな!

久しぶりに射ったりもしましたが、ああ、やっぱり駄目だったよ。
妻手が引っ張りきれてないっぽい。


しかし、うん、本当に、自分には弓道が合っていたんだなあとしみじみ思えた。
大学行ってもどっかでやり続けても悪くはないなあ。



まあさておき、明日から四月というわけで、
ついにじょがぁも大学生になるみたいです。

行っても行かなくてもさほど変わりはしないような気がする。うん。
変わったら変わったでいいことなんでしょう。

とりあえず話せる仲間を作って、勉強したいですな。
人生の夏休みとか言うけど、
学問的知識を吸収できる最後の機会になるかもしれないんだし、
ダラダラな人間にならないように生きてまいりたいですね。
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どうも、カップ焼きそば食べようと思ったんですが、
マヨネーズの袋を取りださずにお湯を注いでしまいました。
ありがとうマヨネーズ。君の雄姿は忘れない……!
(存在は忘れたけど)


どうも、頭が痛いです、じょがぁです。


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家の桜が咲いておりました。

まあ、厳密に言うとサクランボの木ですが。

最近寒い日が続いていて、春なんてまだ遠き春だったわけですけども。
なんか和んだ。というかほっとしたわ。


いいねえ、春ですねえ……。

そのうちソメイヨシノも花が咲くんでしょうかねえ。
新入生のためにも、四月に入るまでには咲いてほしいもんだ。
「高いところのもの、取れないですよ?」
 その事実を初めて知った。でも、だからと言ってなんだというんだ。
「それなら、オレが取ってやるよ」
 オレがいない間のことは考えなかった。一生彼女といられるわけがないのに。
「本当ですかっ!」
 彼女は喜んだ。ただただ、何も知らずに喜びを表現する。
「図書館行くときは、オレも行ってやる。棚の高いところは任せておけ」
「でも、実はあまり本を読まないんです。いずみが羨ましいです」
 大室は大室で読む理由がある。そのことを知らないから、こんなことを言えるのだろう。あの少女……ミナトは今どうしているのだろうか。
「それなら、戸棚にあるクッキー缶が丁度いいかな」
「そんなに食いしん坊じゃありません!」
 彼女は顔を真赤にした。
「……統流君」
 ふと、落ちつき払った調子に戻る。
「肩の秘密を教えてあげました。次は、統流君の番です」
「オレ?」
「はい」
 パペットのように頷く。
「隠していること、知ってますからね」
「何も隠してない。どうしてそんなこと言えるんだよ」
「知ってますから。統流君は、私のことが好きじゃありません」
 彼女の影がゆらつく。足が蔓のようなもので絡まれていく。
「私じゃない他の誰かのこと、そう、例えば――」
「やめろよ、なんでそんな……!」
 奴の影の背中から何かが生え始めた。それは彼女の骨と皮を突き破り、腕よりも長く、伸びていく。
「お前は、誰なんだ、誰なんだよ! いつまでも憑きまといやがって!」
「統流君」
 猫撫で声で、オレの顎に触れる。
 やめろ、やめろ、やめろ。
 繰士がにたりとだだ笑みを漏らしている。
 統流君、と人の名を呼んだ。

 ――私のこと、好きですか?


 そんな夢を見た。


四月二七日(日)


 午前四時半。ありがたい夢のおかげで目覚ましが鳴る前に跳ね起きることができた。気分はここ最近で最悪のものだが、今日は何としてでも早くに出かけなくてはならない。
 六時に定食屋へ。親方が待っている。
 軽い朝食を済ませ、木製のドアを開ける。外はまだ薄暗く、肌寒かった。雲も厚い。でも冬のころに比べると随分と温かくなったものだ。身を縮こまらせなくとも外を歩けるようになった。
 バスに揺られる。休日の朝っぱらからバスに乗るモノ好きはほとんどおらず、オレの他には婆さんとリュックを背負った若い家族だけだった。どちらも駅へ行くのだろう。二、三人いくつかのバス停で乗り込んできたものの、終点前に降車したのはオレだけだった。
 こんな朝早くに何をやらされるのだろうか。開店は十一時からだ。まさか仕込みをやらされるのか? でもそれはもう親方が許さないだろう。バイトの分際に秘伝を教えられるか、と常に無言で語る親方なのだ。先週失敗したチキンカツのこともある。
 約束の時間の二十分前、定食屋に到着したのだが、店先に親方が立っていた。
「遅い」
 いつもの不機嫌な顔の隣に、もっと不機嫌そうな白い軽トラがエンジンを唸らせていた。
「乗れ」
 親指で軽トラを指差す。トラックは怒ったようにばふんと大きな息を吐いた。
「どこ行くんですか?」
「いいから乗れ」
 親方の機嫌は一昨日から全く変わっていなかった。無言でないだけまだマシだろう。こういうときは何も言わずに従うのが良策だ。
 助手席に座るとこびりついた埃臭さと土臭さが香った。これはもしかしたら年季ものの匂いなのかもしれない。
 運転席に親方が収まると車は左右に揺れた。品のないドアの閉まる音に続いてマニュアルのレバーをかたかた動かす。ガクンと動いたかと思うと急停車し、親方が舌打ちした後、ようやく車は前進を始めた。
 移動中、親方は無言だった。オレと極力話さないつもりでいるのか、運転に集中しないと前か後ろの車にぶつけてしまうからなのか――きっと両方の理由からだろう。親方の横で居眠りしてしまうのではないかと思ったが、気を抜いたら舌を噛んでしまうため、目を見開きっぱなしであった。
 山道に入り、道が悪くなっていく。揺れが激しくなっていくに連れて道幅が狭くなっていく。ついに揺れ幅で塀に擦られてしまうのではないかと心配し始めたとき、オンボロの軽トラックは停車した。
「降りろ」
 目と鼻の先にブロック塀があるところで降りろと言われてもドアが開かないと思うのだが、何とか脱出に成功する。この塀はずっと先まで続いており、その内側には古めかしい地主の邸宅と広大な畑があるようだ。
 来い、と親方の両眼が命令する。かの敷地内に入り、一軒家を通り過ぎて畑へと出る。
「おや、お早いですなあ」
 広大な段々畑の主と思しき老人が早足にやってきた。大家さんと同じくらいの歳でなおかつ腰は曲がっているのに、親方と同じくらいの若さに見えてしまう。
「たけちゃんから来るなんて珍しいねえ。息子さんも連れてなんて」
「いえ、こいつは愚の弟子です」
 弟子。その言葉に放心する。
「ほら、挨拶」
「あ、はい」
 親方に睨まれ、老人向かって気を付けをする。
「親方……久保沢さんの下で働いている穂枝統流です」
 よろしくお願いしますと頭を下げる。
「おやおや、君があの……。顔をよく見せておくれ」
 皺枯れた声が近付いてくる。顔を上げると、ヒビだらけマメだらけの手が頬に触れた。
「似てるのう……」
「それで、この馬鹿弟子の教育のために来たんです」
 声を遮るように親方は話を続けた。大蔵さんの台詞も気になったが、親方の台詞の方がもっと気になった。弟子? オレのことを弟子と呼んでくれた、だと?
「先日頼んだものはありますか?」
「おお、そうだったそうだった。ほれ、そっちの段ボールに入っとるだろう」
 トラクター倉庫の脇に山積まれた茶色い箱が見える。
「いつもいつもありがとうございます。ほら、お前も下げろ」
 ぐいと親方に頭を掴まされ、うなじを見せた。ガラスを割った子とその親が謝罪をしているような図を思わせる。
「いいよいいよ。僕だって君たちがいなかったら畑なんてやってられないからね。ありがたいことだよ」
 ただ謝罪の相手は近所の頑固親父ではなく、温和なやさしいお爺さんであった。
 箱を全部荷台に積めと親方に指図される。段ボールは泥まみれで、湿ってふやけていた。甘い香りがする。野菜の香りだ。
 トラックに運んでいる間、親方と大蔵さんは真剣な面持ちで語り合っていたが、小声で良く聞こえなかったし、運び終えたときにはもうその会話も終わってしまっていた。
「またおいで」
 帰り際、軽トラに乗り込む前に一礼したオレに対して、大蔵さんは笑顔で手を振ってくれた。
 助手席に乗り込み、エンジンが震えだす。ガタガタと座席が揺れた辺りで、親方が呟く。
「どうだったか?」
 どうだったか、と言われてもどう返事をすればいいんだ。段ボールが重かったと言えばいいのか? 重くて腰が痛くなったと言えばいいのか? 大蔵さんはとても元気そうでしたねと言えばいいのか? それとも畑が広かったですねと、家が大きかったですねと、塀が立派でしたねと、そう褒めておけばいいのだろうか。
「大蔵さんはな、三年前に妻を亡くしているんだ」
「え?」
 あのやさしい笑顔が脳裏に浮かんだ。
「一人暮らしでいてもなお、畑の手入れを怠りはしない」
 広い広い階段状の畑に、ぽつんと一人老人が草をむしっている。
「お前が店に来る前から、大蔵さんの野菜は店のまな板で切られ続けているんだ。お婆さんが生きていた頃から、息子さんが一人立ちする前から、俺が料理を始めるずっと前からだ。想像できるか?」
「いえ……」
 それは過去の話であるのに、なぜか遠い遠い未来の話に思えてならなかった。どちらも経験することができず、また描くことも相当困難なものであった。豚汁の中に入るニンジンも、カツに添えるキャベツも、本性はタイムカプセルと相違ないのだ。
「まだ料理を語るなと言ったのを覚えているか?」
「はい」
「……野菜だけじゃない。豚肉だって、小麦粉だってそうだ。お前は食材が単にそこに存在するものとでしか考えていなかっただろ?」
 答えることはできなかった。当然、野菜は農家から、肉は畜産家から、小麦粉はアメリカからやってくることくらいは知っている。だがそれは知識であり、経験ではなかった。本当に人が育てたものなのか、そんなことは分からないなどという問題ではなく、問題にすらしていなかった。
「料理人はな、そういった人たち、ものたちがねえと何も出来やしねえんだ。有難味を知らねえ奴はただの木偶の棒で、そいつの作った料理は何の味もしねえ。そいつを絶対に忘れるな」
 やはり、オレは何も答えられなかった。
 厚雲の狭間から陽光が洩れる。春の日が湖面に漂う朝霞を仄かに浮き出させていた。


 相変わらず仕込みの作業はさせてもらえず、食器洗いと店内掃除と食材整理に従事させられた。仕込みは盗み見て覚えろということなのかもしれない。
 狭い調理場の奥で薄刃包丁とまな板のリズムが刻まれる。昨日聞いた伊東家の音とはまた違い、素早く力強く野菜が切断されていく。
 その無言の背中がどうしようもなく大きくて、畏れ多き対象であった。
 まだまだ学び取るべきことはたくさんあるのだろう。
 冬の夜でも熱気で汗の出る店内だが、開店前の今では少し肌寒く感じられる。まあでもこういう空気を吸うのも悪くはない。
 そうこうしているうちに開店の時間になり、暖簾を出す。とは言っても日曜日は比較的客が少なく、吊棚に乗っかるブラウン管から流れる『笑えばいいとも!増刊号』が終わってもなお客は二人しか来なかった。親方は特に一憂することなく豚汁の具を足したり餃子の具を練ったりしていた。
 引き戸がからからと音を鳴らす。
『らっしゃい』
 オレと親方の低い声が重なる。
「おっ、統流っち、頑張ってるね」
 声の主はこの店の常連、白渚慶二だった。その隣にはいずみがいる。オレの顔を見るなりそのふっくらした頬をほっこりとさせる、まったく可愛い奴だ。
 二人ともなんの指示もないままカウンター席に座る。きっと毎週客がいないもんだから席もほとんど指定席と化しているのだろう。
「また今日も一人?」
「いや、そこに親方が……」
 冗談を言ったのかと思ったが、親方の姿はどこにもなかった。二階へ通じる居間の下に靴が置いてある。
 逃げた……いや、お前がやれ、ということなのだろう。
「いつものでいいのか?」
 ため息を漏らし、二人にお絞りと冷を渡す。
「うん。いずみんにも同じのをお願いね」
 チキンカツ定食二つ。
「かしこまりました」
 早速先週の仇打ちができるんだ。
 ……もしかしたら、親方はこのために隠れたのかもしれない。オレにチキンカツを作らせるために。
 不器用な心遣いに感謝して……いや、食材たちにも感謝をして、下ごしらえのされた肉に衣を付けた。
 結論から言えば、定食自体は中々の出来だと思う。いやむしろ自信作と言える。ただ料理に集中しすぎて、白渚たちの会話をほとんど聞けなかったのは今後の課題と言えるだろう。話を振られても気の利いたことを返してやれず、二人に気兼ねされてしまった。品は良質だがサービスが劣悪では経営なんてできない。まだまだ未熟だということは、こういうことなのだろう。
 さておき出来上がった品を二人に渡す。
 大室の前に出すと、うっとりとその香りを吸い込み、涎を垂らしながら揚げたてのカツを見つめていた。まるで餌を「待て」する仔犬のようだった。透明な尻尾が目に見える。
 白渚の前に出すと、さわやかに「どうも」と言われた。この笑顔を見せられたら憎むものも憎めなくなる。いや、憎む理由なんてどこにもないけど。
「昨日、きさみーと初デートだったんでしょ?」
 割箸を小気味よい音を鳴らして割った白渚はまず豚汁を口にする。
「まあな」
 大室の割箸は上手に裂けず、片方だけ短くなってしまった。それに動揺して、平静を装ってキャベツを挟んではいるものの、力が入りすぎてばらばらと千切りをまき散らす結果となった。
「いずみんは割箸苦手なんだよね」
 いつも通りなのだろう。白渚は頬に付いた落ちたキャベツを拾い、口にする。大室はオレの方をちらちら見ては顔を赤らめるのだが、白渚の手際を見る限り、その光景は日常茶飯事のようだった。
「統流っち、この中で自信作はなんだい?」
「当然、チキンカツだ」
 今朝親方から学んだ全てを思い返して作ったカツだ。肉をまな板に載せたときから丁寧に、本当の意味で丁寧に作り上げたんだ。胸を張って答えられる。
 その過剰な自信に頷いた白渚がカツにソースをかけ、口にする。さくりと心地よい衣の音が鳴った。
「僕はソムリエじゃないから単刀直入にしか言えないけど」
 しばしの租借後、白渚は白飯を掻きこむ。
「ご飯に合うね、おいしいよ」
 爽やかな笑みに、思わず長い息をついた。力が抜ける。ああ、緊張していたのか。
 一方大室はもしゅもしゅと口を動かしている。カツを詰め込み過ぎたようで、頬が袋のように膨らんでいる。こっちまで嬉しくなるほどの食べっぷりだ。カツを呑みこんだ大室は次いでキャベツを口に含んだ。しゃくしゃくと今朝採れたばかりの味を噛みしめ夢見心地に、まるで最高級のケーキを賞味しているかのように目を細め、その甘い汁を満喫していた。
 そんな姿に目を向けて白渚がふと愛着のこもったまなざしを彼女に与えていた。
「実に味わって食べるでしょ、うちの嫁は」
 にこりと笑い、冗談めかした白渚は嫁(候補)の髪をふわふわ撫でた。びくりと紅潮させた顔に、オレは思わず頷いてしまった。
「作って、良かったよ」
 料理でこんなに幸せな気持ちになれるんだからな。この二人に、もっといろんなものを食べさせてやりたい。そうして、喜ばせてやりたい。大室の富んだ表情を観察することもさることながら、白渚のにわかに見せた瞳ももっと見ていたかった。
 なんとなく、二人の長い年月がそこに表れているように思われてならなかったんだ。
「統流っちの料理はおいしいなあ」
 何かを閃いたのか、豚汁を啜り一息ついた白渚が身を乗り出す。
「もうさ、統流っちは定職に就いた方がいいんじゃないの?」
「定食屋だけにな」
「なっ……!」
 白渚は不意を突かれたように眼を大きく見開き、大室はぷすりと顔を綻ばす。
「どうして……言おうとしてたのに」
 いや、逆に気付かない方がおかしいくらいベッタベタな親父ギャグじゃねえか。そしてベッタベタな寒いダジャレに堪えきれてない大室の笑いのツボが解明されることはあるのだろうか。
「僕のギャグがバレるとは、なんてーショックだ。定食だけにねっ!」
 思わず大室がむせこんだ。二次災害を起こした白渚にしたり顔で見られるが、オレはもう成す術なく食器を洗うフリをした。もう一度、なんてーショックだと白渚が抜かす。大室が笑う。洗う食器はもうない。
 もうダメかもしれない。
 誰か……誰か助けてくれ。
 その時、暖簾が揺れた。――助かった、お客さんが来たんだ。
『らっしゃい』
 むさい男たちの声が折り重なる。
「お、親方……」
 隣には卵を溶いている親方が無言で立っていた。いつ現れたんですか……。
 結局それから昼の間は雑用に徹することになった。相変わらず客が少ないため、ほとんどの時間を白渚と大室との雑談に費やした。談笑する二人の姿に、日頃の疲れが融解していくようだった。
 一時を回り、お客の波も途絶えた。暖簾を一旦中にしまう。親方は家族用の昼飯を作って早々に上がってしまい、残ったのはオレと一組のカップルのみとなった。
「昨日、きさみーとどこ行ったの?」
「ああ。代樹山と……吉佐美の家と、あとあいつの母校にな」
「家? きさみーの家行ったの? 初デートで?」
 何やら興味津々な様子の白渚と、お冷を飲んで一人和んでいる大室。
「吉佐美のお袋の飯を食っただけだ」
「ああ、なるほど。まあそうだよね」
 彼は妙に納得していた。
 それから、代樹山ねえ、と白渚が訳有り気に考え込む。
「ほら、あまり行かないからさ」
 弱った笑顔を見せた故にしばらく気付かなかったが、むっと頬をふくらました大室が白渚を上目遣いで目を凝らしているのを見てハッとした。そうか、大室は喘息持ちだったか。
「久々に行く?」
 視線を察知したのは白渚もだった。大室はぱあっとくりりとした目目をきらめかして頷いた。何度も何度も頷いた。
「善は急げ、午後は代樹山までハイキングだ!」
 おー、と大室は無邪気に右手を挙げた。
 お前ら、ここから代樹山まで徒歩何分だか知ってるのか……? それでもこの二人は歩く気満々のようだった。
「それじゃあ、ごちそうさま」
「おう」
「おいしかった……かも」
「ありがとな」
 二人はサイフを取りだそうとするから、丁重に断っておいた。代金ならもう充分に貰ったからな。
 二人の背中を見送り、一度伸びをする。一仕事終えたあとの伸びはどうしてこう気持ちいいんだろう。
 ちらりとガスコンロを見遣る。黒ずんだ中華鍋が置かれていた。
 どうせだ、店が閉まっている合間に餃子の練習でもしよう。
 外はカリカリで、内側から肉汁が溢れ出てくる、特性の餃子をな。


 餃子は、あとから焼き色を付けると美味くなるらしい。つまり、餃子を投入したらすぐ水に浸し、そいつが蒸発したら強火で一気に焦げ目を付ける。普通の家では(少なくともオレの実家では)焦げ目を付けてから水を入れると思うのだが、それではあのパリパリ感を生み出すのはなかなか難しい。
 ただ、オレ流のやり方は焼き加減が難しく、少し時間を間違えるとすぐ黒焦げになってしまう。餡や鍋に入れる水加減を誤るとふやけた餃子になってしまう。まるで掌中の珠だ。強く握れば壊れてしまうし、手を緩めればころころ転がり落ちて、やはり壊れてしまう。
 とにかくオレは何度も何度も珠を壊しまくって、満腹になってもなお壊しまくって、ようやく納得のいくものが出来上がったのは四時を過ぎた頃であった。
 無意識に作りすぎたかもしれない。親方に叱られる覚悟で餡を練っていると、からからと入口の戸が開いた。
「すみません、まだ営業じかん――」
 言葉を失った。
 なぜなら、そこに奏がいたからだ。
 親方にも負けず劣らない不機嫌な顔で荒々しく押し入ってくる。
「いてて! おい、どうしたんだよ! 神子元!」
 なぜか大瀬崎も奏に引きずられるように入店する。奴はオレを見るなり苦笑いを浮かべた。
「こここここれはだな穂枝別にほら神子元と付き合ってるわけじゃなくてだないやまあ付き合わされてるのは確かなんだがいわゆる一つの強制連行と呼ばれるというか多分きっと何を言ってるのは分からないと思うが俺も何が起こっているのかさっぱりなん――グハァッ?」
 奏の肘打ちが溝に決まり、大瀬崎は沈黙した。奏は気絶状態の奴をカウンターの入口寄りの席に座らせ、自分は大瀬崎から席を二つ空けたところに着席した。
 大瀬崎ではないが、えっと、今何が起こっているんだ? どうして奏が目の前で、頬杖をしてそっぽを向いているんだ? しかも無言で。おいおい、なんだよこれ。訳が分からない。
 とりあえず、お冷でも渡そうか、そう思った矢先、奏の口が開いた。
「早く作りなさいよ」
 まるで客は神様だと言いたげな物言いだった。一昨日の言い争いをまだ引っ張っているのだろうか。強制力を含んだ命令だった。
「何が食いたいんだよ」
 溜息を交え、頭を掻きむしった。そいつが分からなきゃ作ろうにも何も作れない。
 だが奏は押し黙ったまま、ジトリと油まみれの窓を見つめたまま微動だにしなかった。「勝手に作りなさい」とでも言えばそうするのだが、何も言ってくれなきゃ始まらない。このままチャーハンでも作ってしまったらまたいちゃもんを付けられかねない。
 奏は呼吸と共に肩を上下させている。努めて平静を装っているものの憤りを隠しきれていない。全く最近の奏は様子がおかしい。
 そう、様子がおかしいんだ。
「……ニラレバ炒め」
 だからだ、「勝手」ではなく奏自ら注文を寄こしたのは。
「悪いな、この店は『レバニラ』炒めなんだ」
「ニラレバ炒め」
「だからだな――」
「ニラレバ炒めを作りなさいって言ってるでしょ。細かいわね」
 確かに細かい話だった。
 でもどうも「レバニラ」と「ニラレバ」の区別はしっかりして貰いたいところだ。いや、モノは同じだろうし、料理名をどちらかに統一したい気持ちの方が強い。実に細かいことなのだが。
 ちなみに大瀬崎は「み、水……」と声を絞り上げていた。あの肘打ちは手加減無しだった模様だ。
 当然親方はいない。とは言ってもそろそろ夜の開店時間なので現れてくるはずなのだが、白渚と大室のときと同様、厨房に降りるのを控えているようだった。またオレが作るのか。
 レバニラ炒めはバイトを始める前から作っていた記憶がある。作り方はこの店のものとほとんど変わっておらず、チャーハンに次いで得意な料理と言えるかもしれない。
 油を敷き、レバーを焼く。じゅうじゅうと気の安らぐ音をしばらく堪能し、一度鍋から上げる。それからニラとモヤシを炒め、頃合いを見てレバーを再度投入する。特性のタレを注ぐと、腹は既に満たされているにもかかわらず食欲が広がっていく。最後に溶いた片栗粉を加えてとろみを付けて完成となる。我ながら手慣れてものだった。
「レバ――ほら、ニラレバ炒めだ」
 皿に盛ったそれをことりと置く。奏はそれに喰らいついて咀嚼する。やけどするぞ、と忠告しようとしたのだが手遅れだった。はふはふと苦しそうに口を開けて上を向く。
「ふうふうしろっての」
 大瀬崎にやるはずだった水を奏にやる。コップを奪取し、口を水で満たす。まるで昨日のオレみたいじゃないか。オレの場合は肉じゃがだったが。
 喉を鳴らし、安堵の息をついた奏は、途端にオレを睨みつけた。睨まれる意味が分からない。むしろ感謝されるべきだろ? ……まあ、奏からそんな言葉が出たらそれこそ気味が悪いが。
 み、水……という唸り声を無視し、奏はただひたすらに皿上の料理を食べ続けた。それは狂気とも思えて、何も言うことができなかった。ただその食べっぷりを見守ることしかできなかった。何か一つでも冗談を言えれば、何か一つでも動ければ、何かが変わったのかもしれないし、何も変わらないのかもしれない。ただ身動きできない自分自身に、必要のないやるせなさだけが溜まっていく。
「ねえ、統流」
 思いがけず奏から声を掛けられたとき、既に皿は半分以上底が見える状態となっていた。
「ニラとレバーなんだけど――」
 言いかけたまま奴は沈黙を続けた。今のこのもどかしさは、電話の保留中に鳴る「エリーゼのために」に似ている。
「なんだよ」
 思わず急かす言葉を放ってしまう。失態だと思ったときにはもう遅かった。
「そこ突っ立ってると気が散るの。視界に入らないで」
 まるで見当違いなことを言う奏は皿を見つめ続けていた。オレのことは目もくれない。
 今までこんな反応をされたことはなかった。いや、視線を逸らして話すことは多々あるし、トゲのある口調で返されることだって日常茶飯事だ。
 でも、今の言葉は何かが違った。
 何が違うって、そりゃ若干顔を隠すような仕草をしているようだったり、気付かないくらい微かに語尾が上ずっていたり、箸が一瞬だけ止まったりしただけだ。だから何だと言いたくなるくらい少しの違和感だけで、そしてそれらは全く的を射抜いていない。となると奏は普段の奏として見なして可なのかもしれない。
 ……そうか。
 この違和感はこれだった。
 奏の考えていることが分からないんだ。
 どんなときでも、例えしらばっくれても、無言であってさえも何を考えているのかくらいなら読みとることができた。仄めかすだけで心意を明かさないときは、奏が隠し事をしているんだと理解することができた。
 それは、奏と初めて会ったときからずっと変わらない。
 でも、今は違った。
 奏が何を考えているのか、まるで分からない。オレのことを拒絶しているのか、一昨日の口論の和約を持ちだしたいのか、ただそういったことを隠しているだけなのか、全くもって分からないのだ。
 ただオレは、黙って従う他無かった。中華鍋を流し台に入れ、スポンジを泡立てる。いきなり渓谷へ放られ、孤独のまま立ち尽くしているようだった。物を洗う気分になんてなれるわけがなかったが、ひたすら鍋を削るように擦って洗い続けた。何度も、何度も念入りに底だけを洗い続けた。
 すくりと奏が立ち上がった。それを尻目に見てもなお、オレは鍋の中で円を描いていた。台を叩くように紙切れを置き、未だに沈没している大瀬崎の腕を取る。
「ちょ、俺まだ何も食ってないんだけど」
「アンタの分まで飲んでやったわよ、水」
 ぐいと力任せに金髪男を引っ張り、出入口の引き戸に手を掛ける。
「ちょっと! なんかもうツッコみたいことばっかしなんですけども!」
 大瀬崎の動揺にちっとも動じることのない奏が暖簾の奥に消えた。そして、大瀬崎の喚き声も、ぴしゃりと戸が閉まった後、聞こえなくなった。
 夕方のニュース番組が覚醒剤を乱用したミュージシャンの経歴を淡々と紹介していた。
 奏は何を置いていったのだろうか。コップと皿を片付けるついでに奏の置いていった紙切れを手にする。
「あいつ、何考えてんだよ……」
 それは、千円札だった。
 レバニラの定食で五五〇円、単品で三八〇円の品なのに、だ。
 ……毛嫌いしてるのだろうか。
 それなら、なんで来たんだよ。
「……分かんねえよ」
 ぽつりと、口に出てしまった。
「今の、神子元のお嬢さんじゃねえか」
 知らぬ間に現れていた親方が、含み声で呟いた。
「そうですけど、親方は今まで何してたんですか? もう店開く時間ですよ」
「……坊主が喚いて仕方なかったから、寝かしつけてたんだ」
 透け透けの嘘を平気で放った。隠すつもりはさらさらないのだろう。親方は軽く辺りを見渡してから暖簾を掛けに出た。
「……今日は客が多いな」
 暖簾を出し終えた親方が、ぼやきながら厨房の中に入り、再び靴を脱いで上がってしまった。初めその意味に首を傾げたが、入口を見れば一目瞭然だった。
「き、来ちゃいました」
 吉佐美がいた。身体の正面に水玉模様のポーチを提げ、ベージュピンクのノースリーブカットソーとフリルのついた若緑色のショートパンツを身につけている。
 なんというか、こんな油っこい定食屋にはもったいないというか、いやもう不似合いと言ったほうがいいんだろうな。
「き、緊張します」
 一つ一つの所作を丁寧にこなしながら席に座る。その席は先程奏が座っていたところであった。
「あたし、統流君の親子丼が食べたいです!」
「おう」
「半熟玉子とか、作れちゃうんですか?」
「当たり前だ」
「本当ですか! 統流君、凄いです!」
 そんな歓声をラジオに調理を開始した。
「……あ、そういえば」
 割下(丼物の調味料みたいなもんだ)を火に掛ける。
「さっき、奏と大瀬崎君とすれ違いました」
 背筋が、吉佐美の視線が注がれている背筋に悪寒が奔った。
「さっきまでここにいたんですか?」
「……ああ」
 すっと息を吐きながら答えた。
「奏、一昨日もいたんです」
「は?」
 思わず彼女の方を向いてしまう。
 いたって、この店にか? いや店に入って来はしなかったから外にいたのか? その様子を吉佐美は語った。吉佐美を見た瞬間、奏は消えてしまったらしい。
 意味不明だ、意味が不明すぎる。そんなのウソだ、ウソに決まっている。だってそうだろ? あの奏が、わざわざオレの働いてる場所に向かうワケがない。何の理由も無しで。働きはじめの頃、まだ右往左往していたオレを冷やかすために来たことはあっても、仕事に慣れてからは一度も来ることはなかったのに。
 今日を除いて。
 何がしたいんだ。奏は、一体何がしたいっていうんだよ。
「奏、無言で通り過ぎていきました」
 吉佐美は沈んでいた。
「統流君と付き合い始めてから、ずっと元気がないんです。とっても疲れているように見えて、お話してくれないんです」
 ここ数日奏の様子がおかしいことは、吉佐美も感じ取っていたようだった。やっぱりおかしい、何かがおかしいんだ。
「統流君と付き合うことになって、一番喜んでくれるのは奏だと思ってました」
「奏が?」
「だって、奏がずっと応援してくれてたんですよ?」
 正体不明の刃が心臓を繋ぐ大動脈を切断した。毛細血管の先まで凍てついていった。
「統流君に一目ぼれしたあたしに誰よりも早く気付いてくれて、屋上でみんな集まるときも、統流君の隣の席を定位置にしてくれたんです。こ、告白だって、奏が提案してくれたんです。大丈夫だからって、背中を押してくれたんですよ? それなのに……」
 それなのに、奏は押し黙ったまま謎の行動に走り続けている、ということか。
 腹の中でどろどろとした原油のような気味悪さを覚える。既に成立したものを、ただ可決していないだけのような、そんなむずむずとした居た堪れなさに、思わず外へ飛び出して、駆け出して、駆けたまま大声を上げたかった。奇声のような狂気じみた絶叫を上げたかった。
「統流君」
 吉佐美が、切立った絶壁を繋ぐ綱へと足を伸ばした。
「奏は……統流君のことが好きなのでしょうか?」
 どす黒い割下が、泡立ちながら蒸気を吹き出していた。
 ただオレはそれをじっと見下ろすことしかできなかった。


 吉佐美は閉店まで席を立たずにいた。その間、酒の回った年老いた客からの際どい質問や誘いに赤面し、その度に店は馬鹿デカイ爆笑の渦に呑まれた。
 午後からはオレも料理を作らせてもらえるようになった。二、三度お叱りを受けたものの、重大なヘマをかますことはなかった。
 暖簾が下がり、親方がテーブル席で精算をしている間、オレは食器を洗っていた。吉佐美はなぜか外で待つと言って、出ていってしまった。いても構わないと言ったのだが、閉店後の雰囲気はアルコール臭い開店中とは違った意味で居づらいという意見には確かに一理あると思った。
「神子元――奏とか言ったな」
 親方は3Hの鉛筆でとんとんと頭を叩いて簿記と睨み合いを続けていた。
 昨年の今頃、奏と大瀬崎は毎日のようにやってきてはからかっていたのだから、親方に顔を覚えられている。
「あそこの親父さんも常連だった」
 相変わらず唸り声交じりであったが、比較的機嫌のいい声色だった。
「それって、奏の父親ってことですか、それとも伯父ってことですか?」
「どっちもだよ。もっとも、俺が見習いのときだったがな」
 親方が見習いだった頃……そんなの、想像が付かない。親方もオレみたいに叱られまくったのだろうか。やっぱり想像できない。親方はやっぱりずっと親方であったように思われる。
 いや、違和感はそれだけじゃない。
「親方って、初代じゃないんですか?」
 確か半年くらい前に、親方の父親は有名な大工だったと聞いたもんだから、てっきりこの店は親方から始めたのだと思っていた。
「二代目だよ。ま、この店は世襲じゃあねえし、俺の代に入ってから移転したからな」
「最初の店ってどこにあったんですか?」
 そうだなあ、と親方は天井を見上げ、何か思い至ったように、簿記を凝視し、舌打ちをする。
「この町も随分変わっちまった。あの店も潰されて新しく建て直された」
 淡々と語り、電卓を叩く。機嫌が悪しくなり、これ以上何も訊くなと無言で圧していた。
 でも、最後にこれだけは尋ねておきたかった。
「初代の方って、どんな方だったんですか」
 ぼきり、と大きな音がした。鉛筆の芯が折れた音だった。
「……そんなことを知る努力をするんなら、その労力を料理に費やせ」
「は、はい」
 はいとしか返事ができなかった。
 でも、よくよく考えるとそれはおかしいんじゃないかと思う。オレに弟子のような存在ができたとしたら、親方のことを自慢げに話すだろう。教わった教訓も交えながら、先々代って偉大な人だったんだと思わせてやりたい。そうやって受け継いでいくのが普通なんじゃないか?
「馬鹿野郎だったよ」
 それはまるで、独り言のようであった。
「思い出に浸ってばかりいる、大馬鹿野郎だったよ」
 でもそれは、決して貶そうとしているワケではなく、むしろ慕わしみの情がしみじみと沁みていく独り言だった。
 その本意はきっとまだ理解に達することはないだろう。
 いつか、三代目として看板を背負っていく日が来たら、分かるのだろうか。


   tsuisou-5  ニラレバ炒め


 あいつが現れてくれるのはそんなときだ。私がおかしくなる寸前、タイミングが良すぎて、どうしても疑心を抱いてしまう。そんなときは仮面も付けて対応する。心の中で、ごめんねと謝りながら、上辺だけの対応を取る。ごめんね、ごめんねと。あの時のあの子も心の中で懺悔をしながら私を陥れたのだろうか。内側で謝るだけで泣き出してしまいそうだった。そんな姿を見ても、飯食うかと普段通りの気恥ずかしそうな顔で言ってくれると、瞬間仮面が蒸発する。
「え、何、モスドナルド? アンタと?」
「違えよ。どうしてファーストフードなんて食わなくちゃいけねえんだよ。オレの手作りだ」
「また食べなきゃいけないわけ?」
「いいだろ別に。作りたいから作るんだよ」
「アンタ、ほんと性格が乙女よね。その口調と眼つきさえ直せば」
「うるせえな、今どき男だって料理作れなくちゃいけない時代なんだよ。あと眼つきはお前と変わらないから」
 そうやってまたよく分からない口論を始め、周りからまた痴話喧嘩ですねはははと笑われるのだ。私たちは顔を真赤にして、そそくさと学校を出る。門を出ると、それじゃあ先行って準備してくると言ってあいつは私を置いて先に行ってしまう。それは私を異性だと自覚してくれている証拠であって喜ぶべきことなのだろうが、そのときは寂しさのほうが圧倒的に強かった。
 一人の通学路は、もう慣れた。
 この歳になって男子の家に上がり込むのは、世間一般常識的にいえばよろしくないことであろう。だがあいつの家は幼い頃から何度も足を運んでいるので、もう我が家の延長であった。おば様やおじ様は第二の父母と呼べる。新茶の摘み終えの時期だったので、二人は畑にある作業室にいるようだ。この家は三六五日お茶の香りに包まれている。この香りは落ち着く。一方弟身分のあいつはこの場にそぐわない油の弾ける音を台所から無遠慮に喚き散らしていた。もう慣れっこであったし、逆に純和風の料理が出されても困る。あいつの得意料理は中華なのだ。
「中華に求められるのはスピードと火力なんだよ。いかにして食材に余すことなく熱を通すか。焦げを作らず光沢のある出来栄えにするか。そのためには食材を細く、細かく切り、大量の油で一気に熱を芯まで染み渡らせるんだ」
 また中華料理のことになると活き活きと語りだす。学校でそんな姿を見たことがない。目玉焼きもろくに作れないし、レタスとキャベツの識別さえ怪しい私だが、あいつの話を聴いているときだけはプロフェッショナルになれた。それほど料理に対する情熱があるのだから、将来もそっちの道に行けばいいのに、と心の中で呟いた。あいつの夢が何なのか聞いたことがない。逆もまた然りだった。
 がしゃがしゃと中華鍋を揺らす大きな背中に尋ねてみたのだが、料理中は話しかけるなとはぐらかされてしまった。私には言えないようなことなのだろうか。別に言えないのなら言わなくてもいいだろう。無論言ってくれたほうが嬉しいのだが、私だってこいつに隠していることがある。絶対に言えないことだ。それにここで無茶をして関係が崩れでもしたら、私は恐らく二度と立ち直れない。
「ほらよ、レバニラ炒めだ」
 ことんと置かれた白い大皿には柔らかい光を放つレバーにもやし、それから全体を緑で埋め尽くさんとばかりに載ったニラ。
「ねえ、これちょっとニラ多すぎない?」
「そうか? 普通だろ」
「主役のレバーが隠れちゃってるじゃない」
「主役がレバー? おい、レバニラ炒めの主役はニラだって相場は決まってんだよ!」
「レバーが主菜でニラが副菜だとしたら、順位的にレバーが主役になるじゃない」
「レバニラ炒め、一つで主菜だ! いいか、レバニラ炒めにニラの歯ごたえがなくなったら何もかもが終わりなんだよ! 単なるレバー炒めなんて、食いたくないだろ?」
 そんな、またどうでもいい会話を始めてしまう。でも嫌な気はしない。これが、私たちの形なのだと、これが均衡状態なのだとそう思った。
「また夫婦喧嘩かよ、お二人さん」
 ランドセル姿の少年が居間に上がり込んできた。
「翔流、聞いてくれ。奏の奴、レバニラ炒めの主役はレバーだって言うんだよ。主役はニラに決まってるだろ?」
「レバーだって言ってるじゃない。あとこれ、痴話喧嘩じゃないの。厳粛たる討論なのよ」
 翔流はあいつの弟で、このときは小学五年生だった。翔流少年はいかにも面倒くさそうな顔をした。
「どうでもいいよ。それよりこれ、『ニラレバ』炒めでしょ?」
 謎の言葉を言い残し、翔流はアドバンスを手にすると外へと飛び出していった。取り残された私たちは二人ではどうにもならない壁にぶち当たったような気がして、結局「ニラレバ炒めの主役は『炒め』である」ということで和解となった。


表紙の学が欲しい。
どうも、今月もガンガンJOKERです、じょがぁです。

J1グランプリの予選結果が出たようですね。

遠藤ミドリ「繰繰れ!コックリさん」
龍水貴史「ORGAN」

の2作品が来月号に掲載されるそうですね。
おめでとうございます。


来月4/22(火)発売の新刊↓

「ひぐらしのく頃に解 祭囃し編 7」
「うみねこのく頃に Episode3:Banquet of the golden witch 4」
「うみねこのく頃に散 Episode5:End of the golden witch」


これはきっと、他誌でも竜騎士07祭なのかもしれない……。

今月発売の新刊↓

「花咲くいろは 1」
「ヤンデレ彼女 5」
「アラクニド 3」


「花咲くいろは」は四月からアニメ放映しちゃったりするらしい。


では本編へ。


忍「ヤンデレ彼女」

最近ヤンキー要素が少なかった気がしたところで暴走回。
過失致死防止加工はテンプレです。当然武器屋もテンプレです。
まあ、色々言いたかったけど学のイケメンに全て持ってかれたぜ……。


夏海ケイ「うみねこのく頃に Episode3:Banquet of the golden witch」

戦人に痺れる憧れるゥの巻でベアトに癒されるの巻。
すげえテンポの良さ。逆転裁判でもこんなのないわ。チェックメイト!
あー、この好調な感じ、絶対次回辺り地獄の展開が待ってるんだろうなあ。


吉辺あくろ「絶対☆霊域」

第一回はやったね! ヒナちゃん祭りだ! おめでとうヒナちゃん!
あとウサたんの登場っぷりが凄まじい。前田さんより登場頻度が多かったりする。
しかし、あの雛壇はさすがにどうかと思う。

第二回はお外で遊ぼう! 大の大人が。
聖二の過去は掘り返さないであげてください。
そして安心の前田さんオチ。いや彼女の登場それそのものがオチ。


藤原ここあ「妖狐× 僕SS」

女体化御狐神君にグハッと来た。
きっと自分は将来女狐に騙されるんだと思う。
凛々蝶の強制デレに全俺がメニアック! 次回はスーパーメニアック!


鈴羅木かりん「ひぐらしのく頃に解 祭囃し編」

うおお、こいつは誰も恨んじゃいけねえ。こういうのうまいよなあ、本当に。
羽生の厳かな存在感がもうたまんないね。うん。
次回でラスト。頼むからみんなが笑顔で締めてほしいのう。


千田衛人「花咲くいろは」

学園編来た! いやまあ学校シーンすよ! 懐かしいねえ。
うん大人のお友達が民子ファンクラブを結成させると確信した。
やっぱこの作品好きだわ。自分にはほのぼのが向いているらしい。


松本トモキ「プラナス・ガール」

あーう、コンテだ! ……この時期にコンテとか、先生大丈夫なのか……?
なんだ、なんだこの修羅場は……! 展開も作業場も修羅場だったに違いない!
しかし槙の周囲にはロクな人がいないな。まあ絆がいるからイケメンの無駄遣いじゃないか


鍵空とみやき「カミヨメ」

前月「くそう、お前ら結婚しちゃえ! ケッコングラッチュレイションズ!」
今月「本当に結婚しやがったあああぁぁぁ!? おいまだ連載四週目じゃねえか!」
そう言えばタイトルからして「ヨメ」になってからがスタートなのね。


横山知生「私のおウチはHON屋さん」無題3

みゆ(幼児)……駄目だこの幼児はやくなんとかしないと。
いやそれより気になったのは例の常連二人組だな。
七年前からみゆとお留守番するほど入り浸ってるとか……どういうことなの?


高坂りと「“文学少女”と飢え渇く幽霊」

こりゃ不幸の手紙ってレベルじゃねえw
怖がる遠子さんええのう。表情に富んでおる。
でも遠子さんを放置するとあとで怖いぜ?


檜山大輔「ひまわり 2nd episode」

星乃丈治……まさかお前、ジョニーなのか? ああそうだろうな昇竜拳。
大吾のアホカッコ良いです。
事故前のSA-DAN、死亡フラグはいつ立つのか?


村田真哉 いふじシンセン「アラクニド」

「ボス」が学校関係者、ねえ。
頼子がくさいけど、あえてアリスの伯父だと賭けてみるぜ!
新登場の生徒会長さん、蛾の能力を持ってるとかいう勝手な予想。どうよ?


めいびい「黄昏乙女×アムネジア」

「不安があると勘違いも起きやすいの なんだか分からないものに人は理由を欲しがるから
だからこういう記事で不安がる人が少しでも減ってくれればいいんだけどね」

笹葉先輩の台詞がタイムリーだぜ……。


タカヒロ 田代哲也「アカメが斬る!」

死亡回避呪文「やったか?」発動しましたな……。
そして次回、生き残るのは二人……と地の文が宣言しちまったよ!
タツミと誰だ? アニキ頼むぜアニキ!


河内和泉「EIGHTH」

「りおさん僕とも仲良くしましょう」と三次元のお友達が群がりそうな気配。
8歳の天才なりの悩みもあるんだろうなあ。あ、でも講義分かりやすいっす。
そしてまたナオヤの部屋の密度が上昇するのであった……?


七海慎吾「戦國ストレイズ」

「みんなで、逆境なんてふき飛ばしちゃいましょうね!」
かなね、言ってくれるね。
今川寿桂尼さんがクールで思わず鳥肌が立った。


秋タカ「うみねこのく頃に散 Episode5:End of the golden witch」

箸の下りは実に面白いっす。うめえ……。
しかしつくづく自分は謎解き向きじゃないと実感。
こんな普通のシーンに謎を解くヒントなんてあるんかいな?


栄智ゆう「Mんちゅ」

ド、ドえむぅ……!
だからM人間の対処法を誰か考案してくれと言ってるだろうわああ!!!
作者さんはMをよく理解してると思う、うんマジで。


思羽「ドジモバ。」

おー懐かしい。携帯電話も進化するもんですね。
この作品の正しい読み方は人型携帯を愛でまくることですねわかります。
色々と想像の広がるいい話ですよ。


小島あきら「わ!」

ついにさいしゅうわ。ブレイクの二人も相変わらずの仲でよかった。
七人の輪。ラストの絵がいいなあ。
再来月辺りに「まなびや」が再連載しそうだけど先生の体調が不安。


山口ミコト「死神様に最期のお願いを」

え、ウソだろ、最終回!?
最後のオチ、これはまさか単行本最終巻を買えということなのか?
これは買うしかない……! 卑怯だ! 買うしかないじゃないか!


尚村透「失楽園」

最終回。ユートピアはここに。
ツキが変顔要員になってて泣いた。でも人それぞれってことよ。
元ネタってあるんだよね? 読んでみたいなあ。


黒「終わりゆく世界で、終わらない旅を。」

読み切りですが、なんだこのクォリティ!?
久々に本格ファンタジー。コーヒー飲んだ後の「にがい」表情がええ。
のびやかな感じで、読んでて安心したです。連載とかしないのかなあ。


篠宮トシミ「コープス・パーティー」

うええ~。
えええー。
ひえぇ……。



さて本編は以上。

なんだこの読後感……。だからコープスを最後にするなと。まあそこが妥当なんだけど。

えーっと、今月で完結した作品は、
「わ!」
「死神様に最期のお願いを」
「失楽園」


で、来月完結する予定なのが、
「ひぐらしのなく頃に解 祭囃し編」

……と。
J1作品が入るんだろうけど、来月はちょっと薄めのJOKERになるかも。



執筆陣コメントから

うん、やっぱり震災の話が多いですね。震度6強は家具が飛ぶのか……。

「死神様」は、あー、やっぱり打ち切りだったのかなあ。面白かったんだけどね。
(最終ページに例の文句が張ってあったからもしやと思ったけど)

作家陣コメントの作家出席率に驚いたり。
ああ、やっぱり先生方も気に掛けているんだなあ、と。

そんな中で横山先生とめいびい先生のコメントが輝いて見えましたよ……。


自分も頑張んないとなあ。
笹波のしか、ひときわ明るい望月を眺め詠む歌。

  月影や 沈まぬ陽の日を 偲ばるる ささめく木々の もの語りけり


今宵は月が綺麗ですね。

というわけで、今夜はスーパームーンとかなんとからしい。
19年ぶりくらいに月が最接近する日とか。

いいねえ、明るいよ。うん、とっても明るい。


でも個人的には、朧月夜もいいと思うんだ。
朧月のことも忘れないであげてね。

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 駅というものは思う以上に大切なものらしい。吉佐美曰く、今歩いている歩道の脇にある二車線道路がこの町の中心を為す道なのだそうだが、ビルの街路でもなければ商店街路でもない。あるのは市役所と、道路を挟んで両立する小学校と中学校だけだ。確かに行政機関が集中している地域としては中心かもしれないが、だが店は町のあちこちに点在していて、またどれも同じくらいの賑わいをみせているため、町全体が中心街であるような、中心なんて存在は無いような錯覚を感じさせるのだ。
 土曜の昼下がり、と言ってはもう遅い時刻だが、小学校のグラウンドでは小さな子どもたちが無邪気にボールを追い掛けていた。あんな頃があったのかと思うと懐かしさが込み上げてくる。
「こっちが私の母校の中学です」
 横断歩道を渡った先を指差す。広大な校庭のその奥にポツンと校舎が立っているが、間近で見たらその圧倒感に口が開いて塞がらなくなるかもしれない。休日にもかかわらずサッカー部と陸上部と野球部がグラウンドを占領していた。喉が爆発するのではないかと恐れるくらいの金切り声を上げ、蹴音と金属音と銃声の打楽器が不協和音を成立させている。
「バスケはやってないのか?」
 オレの母校では体育館の他グラウンドにもバスケ用のゴールが設置されていた。
「そうですね……バスケ部はきっと体育館か、それとも――」
「あれ、伊東センパイじゃないですか?」
 若々しい瑞々しい声が沿道から飛んでくる。
「あ……アキちゃん!」
 吉佐美の視線の先には、黒髪を後頭部で結わえた女子中学生がいた。平均より随分と小さな背丈で、白のTシャツに恐らくこの中学指定のものであろう空色のハーフパンツを穿く、いかにも健康そうな子だ。
「お久しぶりです! 元気でしたか?」
 アキと呼ばれた彼女は自然体の声量でもハキハキと通り、少し耳が痛くなるくらいで、いかにも運動部少女といった様子だ。
「はい! 見ての通りです!」
 確かに見てすぐ分かるくらいの元気だ。
 そしてその元気な丸い瞳が向けられる。しばし脳内の既存データと照合を試みるが、結果は頭上にクエスチョンマークを浮かべるところとなった。
 そして、何かを閃いたのか、目視できてしまうくらい大きな感嘆符を浮かべた。
「あ! もしかしてセンパイの、イ・イ・ヒ・ト、ですか?」
 期待と期待と期待を込めて、親指を立てている。
 その膨らみに膨らみ続ける期待を、吉佐美はとびきりの笑顔で応えた。
「はい! あたしのイイヒトです」
 おい、そうやってあからさまに肯定するとだな……。
「きゃーっ! 本当ですか? おめでとうございますっ!」
 ほらこうやって大声出される。いやまあ祝福されるのは嬉しいが、街の真ん中でされるのは困る。……といっても、オレたち以外に人影はなく、校庭の少年たちも全く興味を示してはいないのだが。
「私、伊東センパイの後輩で、バスケ部三年の藤原彰子です! 宜しくお願いします!」
 腰から直角に折って挨拶する。吉佐美の後輩らしく、とても礼儀がいい。合唱部の二人といい、母といい、吉佐美の周りにはいい人ばかりが集まっているように感じた。
「アキちゃんはバスケ部の二代目ムードメーカーなんです。あたしもアキちゃんのパワーで頑張ってこれたんです」
「センパイ、私そんな凄い人じゃないですよ? 万年ベンチですし」
「いいえ、チームを盛り上げられるなんて、あたしには出来ませんから……。とっても羨ましいです」
 彰子はそんなことないですよ、といいながら小さな笑みを漏らしていた。なるほど吉佐美の謙虚な態度は後輩にまで及ぶのか。
「彼氏さん、伊東センパイは、本当に、ほんっとーに尊敬できる方です!」
 後輩の顔が一歩近付く。少し興奮気味な様子で言葉を連ねる。
「私や、他のみんなが困ってるときも、いつだって相談に乗ってくれるんです。後輩思いのセンパイのこと、みんな大好きなんですよ! 憧れの的なんです!」
「そんな、あたしなんかよりキャプテンの方が上手ですよ」
「足利先輩ですか? ……足利先輩は怖いから嫌いです」
 彰子は頬を膨らませてそっぽを向いた。
 吉佐美が部長を擁護するも、後輩の耳には届かなかったようだ。部活なんてやったことのないオレにとっては異国の話だった。
「とにかく、センパイは憧れなんです!」
 後輩が半ば強引に結論を下す。
「あ……でも冬練の伊東センパイは怖かったですね」
 ふと今朝の悪夢を思い出したかのようだった。
「冬練……普通の練習と違うのか?」
「あ、当たり前ですよ!」
 語気を荒げるほど違うらしい。多分かなり違うんだろう。
「それはそれは……か、語るのも恐ろしい」
 外周途中のこの子の唇が瞬時に青くなるのだから、それはそれは恐ろしいんだろう。
「そんな大袈裟なものじゃないですよ」
 吉佐美が冗談っぽく笑って、その笑顔に彰子の表情は凍って、そしてそんな後輩の代わりに先輩が冬練のメニューを語った。
 まずウォーミングアップにこの学校から代樹山の頂上まで走り、ストレッチをしてから代樹山のデコボコした山道を走り込み、階段ダッシュをし、腹筋背筋腕立てを各百回、反復横跳び、シャトルラン、それに変形ダッシュやらラダートレーニングやら専門用語が飛び出してきてからはわけが分からなくなり、最後に山を降りて学校でクールダウンをする程度のものらしい。成長期だから極力負荷を掛けず、且つ下半身バランスを考慮しているとか何とかとうんちくを交えており、吉佐美はいつにもなく饒舌だった。
「基礎練習ですよ。冬は体力作りが基本ですから。体力がなくちゃバスケなんてすぐバテちゃいますからね」
 そうオレの彼女が締めくくる。
「正直、代樹山まですら着いていける気がしないんだが」
「全国の大半の人がそう思ってますよ……」
 あまりにも吉佐美が平然と言うものなので、オレの身体能力の低さにうんざりしかけた。冬練経験者の彰子も蒼白状態なので、きっと吉佐美がおかしいんだ。間違いない。
「センパイくらいですよ、あの地獄のメニューをこなせる人なんて……。うう、思い出しただけで大量の汗が……」
 オレも経験したことがないのに気色の悪い汗が噴き出てきた。
「体力には自信があります」
 そういう吉佐美は、少し自慢げで、珍しく満たされた表情を見せていた。
「なあ、一つ気になったんだが」
 車一台通らない街路を見渡し、吉佐美の後輩に尋ねる。
「外周中だろ? 他の部員はどうしたんだ?」
 バスケ少女はピクリと一瞬身体を硬直させ、舌をぺろりと出した。
「実は、お叱りを受けましてですね……」
「またサボったんですか?」
 えへへと愛想笑いを浮かべる彰子に、吉佐美は呆れた様子だった。どこにでも大瀬崎のような奴はいるということらしい。
「残りを全力疾走して、『いつもの二倍走りました』って言えば感心してくれますって!」
「ダメですよ、ちゃんとやらないと」
 長年大瀬崎を見ているオレから言わせれば、その嘘はすぐに見破られる。大抵この言い訳は二回以上使用されているものであり、使用頻度が多くなるにつれて信用度が落ちていく。それでも懲りずに取り繕おうとする大瀬崎は何を言っても先生から信用されなくなっている。自業自得だ。
「わかりましたよ」
 吉佐美の小言はもう聞き飽きているのだろう。小さな彼女は常套句をさらりと言い流した。
「それで、えっと、彼氏さん」
 彰子は気を付けをし、きりりと見上げ見つめる。
「伊東センパイのこと、泣かしちゃダメですよ?」
「分かってるよ」
 聞き覚えのある言葉で、それは奏の言葉だった。
 そのまま角度を吉佐美の方へ変えた。
「吉佐美先輩、肩の方、お大事にして下さいね」
 え?
 それは、オレからか、吉佐美からか、彰子からか、どこからか漏れた声だった。
 一言に、吉佐美の表情が固まる。
 後輩の表情も固まる。
 そして、意味が理解できなかったオレも、固まった。
「あ……えっと、すみません」
 変に装った笑みだからか、後輩の頬は引き攣ったままだった。
「い、いいえ、大丈夫ですから、気にしないで下さい」
 我に返ったように吉佐美は首と両手を振り、後輩を気に掛けていた。
 一変した空気に付いていけない。
「そ、それでは、あ、ありがとうございましたっ!」
 堅苦しい笑顔のまま、彰子はまた走りだした。その後ろ姿は、まるでオレたちから――いや、吉佐美から逃げ出しているかのようにも思われた。
「吉佐美」「統流君」
 声が重なる。
 一瞬の間。
「統流君……先に、いい、ですよ」
 それはまるで、執行人に自らの首を差し出す囚人のように、震えた声だった。
「お前、肩……何かあるのか?」
「あの、ごめんなさい!」
 彼女の悲痛な声が空に響く。やがてノックを受ける野球選手の喧騒に呑まれ、残ったのは彼女の下がった頭と、そこから垂れた一本の髪束だった。
「あたし、統流君に隠してました! あたし、あたし……」
 その、見えない重みを背負った肩が震える。

 ――あたしの肩は、この右肩は、もう上がらないんです。


   ****


 中学校に入学したての頃、バスケ部はこの地区で最弱のチームでした。あたしは当時バスケなんてほとんど興味がなくて、でもとりあえず何かの部活に入りたくて、バスケ部に入ったんです。人より少し背が高いから、それだけの理由です。バスケ部に入ったのは五人。その中に千代もいました。今も合唱部で一緒の、源千代です。あたしはこの口調で話していましたが、バスケ部は先輩とため口でお喋り出来る、言わば「仲良しクラブ」でした。放課後は体を動かしたい人が集まって笑いながらパスをしてシュートをするような、緩い部活だったんです。
 当然そんな部活が試合で勝てるわけもなく、夏の大会は地区予選一回戦で敗退しました。三年生の先輩は何も言い残さず、笑ってコートを去っていきました。私やみんなも、微塵の悔しさも感じていませんでした。
「私、みんなと一緒に関東行きたい」
 ただ一人、足利義美(あしかがヨシミ)……私たちの代のキャプテンだけが、高みを目指していました。義江は一年生の中で一番ふざけている子で、それでいて一番信頼されていた子でした。カリスマがあって、あたしたちは自然と彼女に惹かれていたんです。
 ですが、なあなあ主義に染まっていたあたしや千代たちにとって、関東大会に出場することなんて夢のまた夢のお話であって、冗談でしか思えませんでした。
 それからしばらく経ったある夏の朝でした。確か夏休みが終わった直後に始まる文化祭の為、八時前に学校へ登校した朝だったかと思います。校庭を横切る際に、ダン、ダンとしばらく耳にしていなかった音を聞きました。夏休みの練習は一度も入っていなかったんです。その音は体育館から聞こえました。気になって、一緒にいた千代と覗いてみました。
 すると、体育館には一人の姿がありました。――義美です。今まで見た誰よりも低い姿勢のジノビリステップ――ディフェンスの壁をジグザグにすり抜けるような素早いドリブル――で空気を切り裂いていました。そして、レイアップを確実に決めていたのです。コートに跳ねるボールを引き寄せ、フリースローのエリアから、まるで紙飛行機を飛ばすようにやさしいフォームで再びネットを揺らしました。
 あたしたちの義美に対するイメージは、おちゃらけていて、冗談を言い、部活中もふざけているような、そんな姿ばかりが浮かぶような人でした。
 ですが今ここにいる義美は本物のバスケプレイヤーでした。引退してしまった先輩方や、二年生の先輩方なんかよりもずっと、ずっとバスケを愛しているんだと、素人ながら悟ったのです。
「あの、どうやったら入るんですか?」
 知らぬ間にそんなことを訊いてしまっていました。三日に一度入るか入らないかの得点率だったあたしにとって、二回連続で入る光景は不思議でならなかったのです。靴下でコートに上がってしまっていたにもかかわらず、義美は嬉しそうに指導してくれました。
「伊東さんはいつも肩に力が入ってるから……そう、息を抜いて」
 数個のコツを聞き、何度か彼女の模範ショットを見つつ、見様見真似でボールを放ちました。
 そのシュートは今でも、スローモーションのように浮かんで思い出されます。ボールは緩やかな軌道を描き、そしてバックボードの内縁、リングとぶつかり、義美と同じようにネットの中に吸い込まれていきました。
 嬉しくて嬉しくて何度も何度も飛び跳ねて喜びました。これほど簡単に入ってしまうことに、内心信じられない気持ちも含みながら。
「もう一度打ってみる?」
 当然試みました。そして再びポイント。初めて二回連続で入れることが出来たのです。そしてようやく、彼女の素晴らしさに気付いたのです。
 千代も同じように指導されると、当初はほとんどシュートを決めることがなかったのに、あたしと同様二回連続でゴールしました。
「凄いじゃん。二人とも、センスあると思うよ」
 それはあたしの台詞であって、彼女は単に誇張して言ったのかもしれませんが、あたしたちは本当にそうだと信じて疑いませんでした。
 とてつもない自信に溢れていたんです。
 実は義美は小学時代もバスケをしていて、関東大会で優勝した経験を持つという、隠れたスーパーエースだったのです。そして、強いチームではなく、弱いチームの中で共に成長していきたいが為に私立中学の入学を取り止め、この学校のバスケ部に入部したのでした。
 もしかしたら本当に関東へ行けるのかもしれない。
 ……いや、行こう。
 その思いは、義美に指導されたあたしたち一年生全員で掲げた目標でした。


 ですが、その道は決して簡単なものではありませんでした。
 部活を牽引する二年生方に、関東大会への情熱を語りましたが、先輩方は全く聞く耳を持ちませんでした。
「楽しい部活のままでいーじゃん」
 それが先輩方の言い分でした。あたしにとって関東大会に行くことこそが楽しい部活だったのですが、どうしてもその面白さを伝えきることが出来なかったのです。
 また、顧問の先生も否定的でした。
「俺のしたいようにする。それがこの部活だ」
 あたしたちは顧問の先生と喧嘩をしてしまいました。定年間近の先生は、常に厳つく硬い表情をしています。性格も頑固者で、支配欲が強く、思い通りにいかないとすぐに怒るような方です。その上バスケに関する知識はほとんどゼロと言っても良いくらいで、誰もが不満を膨らませていました。
「こうなったら私たちで何とかしよう」
 それでも義美は前を向き続けていました。
 朝、二年生がいない間に義美を指導者として基礎の技術を学び、放課後は体力を付けるために、陸上部に交じって練習をしたり、その顧問にアドバイスを頂いて体力向上のメニューを作ったりしました。冬練も陸上部の顧問が考案したメニューです。
 あたしたちは総じて体力がありませんでしたが、あたしは特に体力がなく、普通のメニューのときでさえすぐに息が上がってしまい、まともに練習が出来ませんでした。
 劣等感を抱き始めたある朝、あたしが一番乗りで体育館の扉を開けるとそこには義美の姿がありました。一番乗りだと思っていたあたしは驚いてしまいました。まだ七時を回る前の出来事です。彼女は黙々と、あのジグザグステップを踏み、跳躍をしてボールをゴールへと渡していました。
 彼女は私たちの指導で自分の練習が出来ない分を、こうして努力で補おうとしていたのです。
「あの、一対一で、ゲームしませんか?」
 義美はやはり、満面の笑みで応えてくれました。
 それから朝は義美とマンツーマンでゲームをし、夜は走り込みをしました。雨の日も風の日も毎日欠かさず努力を重ねました。帰ったらすぐお風呂に入って身体をほぐしました。お母さんはいつもおいしい料理を作ってくれていて、本当に幸せでした。
 顧問の先生には完全に嫌われ、先輩がいる間試合には出させてもらえませんでした。それでもめげずに、あたしたちは鞭を打ち続けました。冬の厳しい体力作りの日々は、関東大会に出るんだと大声で叫び、励まし、気力を絞り続けました。
 新入生がやって来ると、先輩や先生が介入する前にあたしたち流のメニューを叩き込みました。先生に好かれ、あたしたちを出し抜いて試合に出されるかもしれないと思ってのことです。先輩方の様子を見て、遊びで入るつもりだった新入生たちは仮入部の時点で弾かれてしまいました。もしあたしが一年遅れて生まれていたとしたら……そう思うと胸が苦しくなりましたが、だからこそ正式に入部してくれた後輩を――初めて出来た後輩を、大切にしたいと思うようになりました。
 冬の試練を乗り越えたあたしは知らぬ間に誰よりも体力が付いていて、義美も驚いていたほどです。体力が付くと、周囲がよく見えるようになってきました。厳しい練習に付いていけない後輩が見えるようになってきました。そんなときは、一緒に走りましょう、あともう少しですよ、そう言って背中を支えてあげられるようになりました。
 練習にも慣れてくると、次第に後輩があたしの周りに集まってくるようになってきました。時には後輩の悩みも聞いてあげました。アキちゃんも、一度練習がきつくて辞めたくなったことがありましたが、あたしに相談しているうちに心が晴れてきたんだそうです。あたしは何もしていませんが、それ以降慕ってくれるようになって、嬉しさと恥ずかしさが混ぜこぜになった気持ちで一杯になりました。
 千代は持ち前の明るさと元気と根気で部内の士気を高めてくれていました。義美は常に厳しい言葉を使って後輩には嫌われていましたが、「こういう役目の人もいないとね」と、いつものように彼女は笑っていましたし、あたしたちもそのことをきちんと理解し、支え続けました。
 二度目の夏がやってきて、先輩方は呪縛から解放されたように引退しました。ついにあたしたちの時代がやってきたのです。
 顧問の先生も渋々あたしたちを認めざるを得なくなって、試合にも出させてくれるようになりました。近辺の中学校に顔を出しては練習試合を申し込み、毎週のように遠征へ行きました。そして、毎週のように勝利を収めました。一年半の下積みは、確かに実りを得ていたのです。
 あたしの体力は試合の後半で活かされました。周囲がバテてきた辺りからパスを貰い、ディフェンスの壁を義美直伝のジノビリステップで掻い潜り、ポイントを積み重ねていきました。
 新人戦では地区大会を制し、神奈川県大会ではベスト十六にまで上り詰めることが出来ました。敗北を喫したとき、あたしたちは初めて試合で涙を流しました。自然と涙が流れたんです。このとき、あたしは先輩方以上にバスケを愛しているんだと確信が持て、そしてそれが自信へと変わりました。
 春季大会はベスト八に輝きましたが、関東大会には上位四チームしか行くことが出来ず、あたしたちは再び涙を流す結果となってしまいました。
 ですが、顧問の先生はとても満足そうでした。急に強くなったことで、他校からの注目を浴びているからだそうです。まるで自分の力でここまで成長したきたかのように振舞っていたそうなのですが、あたしたちにとっては甚だどうでもいいことで、前を向き続けていました。
 夏の、最後の大会こそは関東へ。
 あたしたちの決意は、どんな鉱石よりも固いものとなりました。
 悔いを残さないため、一日一日を大切に過ごしていきました。より精密なショットを、より親密なチームプレーを。みんなで過ごした最後の二ヶ月が、まるで一生の半分を詰め籠めたような、そんな濃密な日々でした。
 そして、あたしたちにとって最後の大会の幕が開きました。関東大会へ行くには、県大会で上位二チームの中に入らなければいけません。春よりも狭き門でしたが、不思議と門幅が広がっているように見えました。きっと自分と仲間を信じきっているからだと思います。これだけ練習を積んだんだから、と。
 地区大会は順調に勝ち進んでいきました。県大会はまずトーナメントで上位四チームまで絞られ、その後リーグ戦によって順位が決められます。順調に勝ち進んでいったあたしたちは、初めてベスト四のところにまで辿り着くことができました。
 リーグ戦の一戦目は、大会でよく目にする強豪校でした。今まで何度も苦戦を強いられてきましたが、この試合は特に苦しいものでした。相手は攻撃的で、こちらは防戦一方でした。ですが千代が相手の隙を見つけて前へ出たことで戦局が一変しました。仕舞いにはあたしたちの圧勝で試合終了のブザーが鳴っていました。
 あと一勝。
 あと一勝しさえすれば関東大会への道はぐんと近くなる……強豪を倒した部内の士気は最高潮に達していました。
 二戦目はあまり名の知られていない学校でした。ですが、試合開始の整列時に、その背丈に思わず圧倒されてしまいました。どの選手もあたしより背が高く、相手のキャプテンであろう選手は男子選手さながらの巨体で、縦はあたしより頭一つ分大きく、横はあたしが二人以上入ってしまうほどの幅なのでした。
 試合開始直後から点の取り合いになりました。しかし次第に相手方キャプテンのディフェンスによって得点が阻止され、徐々に点差は開いていってしまいました。
 試合の後半になり、ついにチャンスボールが回ってきました。千代から義美と相手の巨体さんの間を抜けるようなノンルックパスが届いたのです。点差は六点。残り時間はあと八分。ここでシュートを決められれば四点差になり、流れを変えられるかもしれません。相手のキャプテンが往く手を阻みました。義美がパスを求めますが、他のガードがすぐそこにまでやってきていました。
 あたしが入れるしかない、そう思いました。あたしには義美から教わったジノビリステップシュートがあります。相手の懐に潜り、その軌道に乗るように跳ね、そしてボールを放てば――。
 一度ボールを弾ませ、巨体さんに背を向けながら一歩の助走を付け、足を踏み出しました。
 ですが、あたしは浅く見積もりすぎていたのです。相手のその、大きな円周を。
 跳躍の角度を誤ったあたしは相手校のキャプテンのお腹に直撃し、そして弾き飛ばされました。それでもボールをリングの中へ送ろうとがむしゃらになって投げました。
 次の瞬間、あたしは右肩からコートに叩き落とされていました。ホイッスルが鳴ります。チャージングが宣告されたんだと思います。チームメイトがドンマイと声を掛けてくれました。あたしも失敗を取り戻そうと立ち上がろうとしたその時でした。
 肩が、動かないのです。
 脱臼です。
 そうとも知らずに立ち上がろうとしたため、バランスを崩し再び右肩から転倒してしまいました。
 今まで経験したことのないほどの激痛が襲いました。異変に気付いた誰かが近付いてきましたが、それが誰だかは分かりませんでした。ただチームメイトがあたしのことを囲い、心配そうに声を掛けてくれている気配がするだけでした。
「大丈夫か」
 コートへやって来た顧問の先生の声がしました。
「脱臼か。待ってろ、俺が治してやる」
 それはまるであたしの頸椎を握り潰そうとしている殺人鬼の声に聞こえました。
「やめて……下さい」
「何言ってるんだ。早く治さねえといかんだろ」
 あたしの肩から、黒くどろどろとした気色の悪い感触が全身に広がります。
「先生、救急車を呼んでください。専門の人に任せるべきです」
 落ち着きを装った義美の声。
「お願いします先生」
 千代の声。そして、二年半の間共に汗を流してきた仲間の懇願、後輩の声、観客のざわめき……。
「黙れ、俺の言うことが聞けねえって言うのか。お前らをここまで育ててきたのは誰だと思ってるんだ」
 右肩に激痛。この叫び声は誰のものなのでしょうか。あたしには分かりませんでした。なぜなら、その煮えたぎるような痛みによって、あたしの意識はとうに失われていたからです。


   ****


「ぶん殴ってやりたい」
 オレは固く拳を握りしめていた。今まで幾人もの下種な先生を見てきたが、これほどひどい奴は見たことも聞いたこともない。
 吉佐美は何度か涙に詰まらせながら、中学時代を語ってくれた。オレのとは違い、彼女は実に充実した三年間だった。
 そしてその三年間を全て無駄にさせた男がいた。
「先生はもう免許を剥奪されています。もう、先生じゃありません」
「そういう問題じゃない……」
 そいつが先生であろうとなかろうと、投獄されようとなかろうと、この怒りを鎮めることはきっとできない。どうして先生になって、長々と先生を続けられて、顧問になって、一人の人生を狂わせたのか。今となってはどうしようもできない衝動に駆られる。
 吉佐美の脱臼は骨折を伴っており、素人の手によって無理に治そうとしたために悪化し、全身麻酔を受ける羽目になったのだ。その上後遺症が残ってしまい、肩を上げると激痛が走り、衝撃を受けると関節が外れてしまうのだった。
 その試合は点差を縮められずに敗北した。チームは顧問に対する怒りで、もう試合どころではなくなってしまったらしい。キャプテンの義美は集中力を切らしてしまった自分を今でも責めている、そう吉佐美は話してくれた。
「あの試合は勝てたって、会う度に悲しく呟くんです。気にしてないって言っても、吉佐美ちゃんじゃなくて、私が気にしてるんだ、って……」
 義美はとある私立高校に推薦入学し、今もバスケを続けているようだった。
「入院中に引退したことを聞かされました。結局、あたしたちは関東へ行けなかったんです」
 日は傾き、空は染まり、山影は湖に伸びる。
「そんなとき、歌に出会ったんです」
 手入れのされていない、ペンキのはがれ落ちたベンチに腰掛けているオレたちは、夕暮れの景色を眺めていた。
「千代があたしのために、バスケ部全員で歌った歌を録音してきてくれたんです」
「あいつが?」
 あの体育会系合唱部員の源千代。あの明るい彼女がラジカセを片手に提案している姿が容易に思い浮かぶ。
「それで、あたし泣いちゃったんです。みんなでカラオケ行っても、みんな揃って音痴ですから、女の子してないよねって笑い合っちゃう仲間なんですよ? その歌だって、決して上手いとは思えないバラバラの合唱だったんです。それなのに、感動しちゃって、涙が止まらなかったんです。歌って凄いんだなって。人を感動させられるんだなって。あたしも誰かを感動させたいなって……」
 そうして、源と一緒に合唱部のある代樹台高校に入り、廃部寸前の部室に落胆し、そして新たに出会った平野と共に新合唱部を立ち上げた、という経緯なのだった。
「あ、あの、肩のこと、最初から隠し通そうだなんて、そんなことは思ってませんでしたし、今だってそうです。ただ、統流君のこと好きになってから、もしそんなことを言って統流君の迷惑になってしまったら、嫌われちゃったらと思うと不安になって、躊躇してしまって……」
「迷惑なもんか。嫌いになるもんか」
 本当に、吉佐美はどんな不自由を持っていようと、吉佐美のままだった。自然体のまま、自分を卑下した態度をとっていた。
「でも、高いところのもの、取れないんですよ?」
「オレが取ってやるよ」
「自転車だって、痛くて乗れないんですよ?」
「オレの後ろに座ってればいいさ」
「二人乗りは駄目です」
「自転車持ってないから大丈夫だよ」
「なんですか、それ……」
 笑い泣きした彼女の頭に手を乗せる。夕陽に光る黒髪を撫でる。愛おしみを籠めて撫でる。
「……いちど」
 ぽつりと、彼女の口が開かれた。
「いちど、統流君と、バスケがしたかったです」
 再び大粒の涙がぽろぽろと流れる。雫が赤く煌めき、地面に吸い込まれていった。
「お前がいれば、それでいいよ」
 空蝉の言葉を囁き、抱きしめるともなく、ただただ寄り添いながら、山際から広がる夕焼けを見つめていた。


   Tsuisou-4  宿木持ち


 胸に空いた穴は塞がらない。穴を隠す膜を更に隠すために仮面を付けることもある。そうして二重の守りを得ることで、なんとか今までを過ごすことが出来た。しかし身振りや口振り、表情で表面を取り繕った壁の維持は、辛く、悲しく、苦しいことだ。必然的に他人と上辺だけで付き合わざるを得なくなる。愚痴を言い合えるような人は、きっともうあいつしかいない。
 ときどき私を襲う被害妄想には、常にあいつの影が見え隠れしていた。突然あいつが私のことに無関心になって、どこか遠くへ行ってしまう。あいつが手元のナイフをちらつかせる。それだけで何をされるわけでもない。胸の膜を裂こうとはしない。そのため、私は孤独に怯え、最終的に胸が張り裂けてしまうというパラドックスを生んでいた。もはや心を開ける存在はあいつだけであり、同時に私の心の支柱にもなっていた。不器用すぎるあいつが不器用すぎる優しさで、今にも崩れそうな私を支えるのだ。危険極まりなく、でもそれしか方法はなく、だからこそ私はどんなときもあいつから離れることだけはしなかった。
 あいつの存在に怯えながらも、危険物質が存在しなければ生きてはいけない。身を酸化させると分かっていながら酸素を取り入れる生命体のようだ。戦争という恐怖に怯えながら、戦争を繰り返してきた人類を見て嘲笑してしまうように、私もまた嘲笑されるに値するだろう。
 私は寄生虫のようだった。
 鈍感なあいつは、自身に植わる宿木に気付くことなく小学校を卒業した。
 しかし、中学に入ってからは上手い具合にはいかなかった。中学は私たちの通う小学校ともう一つの小学校の児童が入学することになっている。だから当然が当然でなくなることもあるのだ。中学に入学したその日に、見知らぬ誰かがぼそりと囁いたその言葉が、私にもあいつにも届いた。
「いちゃいちゃしてんじゃねえよ」
 その日からあいつは変わってしまった。私を突き放すようになったのだ。女子にいじめられたときよりもずっと怖かった。暴れ馬のたてがみに必死になってしがみ付いているようだった。あいつにとっては何度も何度もひっ付いてくる藪蚊を追い払っているようなものなのかもしれない。でも私は必死だった。本当に必死だった。嫌われるんじゃないかと本気で思ったときは、止むを得ず一日距離を置いて耐えた。でも次の日には耐えきれなくなってまたくっつく。羽虫は払いのけられる。その繰り返しだった。
 そして、少しでも繋がり――付き合うわけでもなく、手を握るわけでもない、同じ趣味や同じ登下校の時間を一緒に過ごすという、共通性ともいうべき本当に小さな繋がり――を求めた私は、「同じ」をテーマにあいつとの「同じ」を探し続けていた。一緒に剣道部に入ろうと誘った。本当はバスケが良かったが、バスケ部は男子と女子とで別々の部活だった。だから、やったことがなくても男女合同の剣道部に入ろうと思ったのだ。だがあいつは断った。あいつは帰宅部だと言って聞かなかったから、仕方なく私も帰宅部になった。小学時代と同じように一緒に登校しようとしたものの、あいつは次第に家を出るのが遅くなり、終いには遅刻するから先に行ってくれ、と言われる始末だった。
「バカ! 嘘つき! やるきなし! せっかくこの私が待ってやってるのに!」
 という捨て台詞を何度吐いたことだろう。でも、吐けば吐くほど心に恐怖と、苦痛と不安とが胴体の空洞に溜まっていく気がした。どす黒い感情が心の穴一杯に溜まってしまったら爆発してしまうのではなかろうか、最も見せたくない部分を他人に、自分に、そしてあいつに見せつけることになるのではなかろうかと戦々恐々としながら、毎日毎日中学校へ続く道を歩くのだった。下校も同様に、変な理由を言い訳にして私を先に帰らせたり、逆に帰りのホームルームが終わった瞬間に教室を飛び出したりして、隣り合って歩くことはなくなってしまった。
 今思えば、それは年頃の男子特有の反応に過ぎないのだと冷静に分析できるのだが、当時の知識、生活、精神状態ではそんな判断をする余裕がなかった。あいつは私のことを毛嫌いしているのだと、最悪の精神状態のときには、意識的に私を避けて陰で笑っているのだと本気で思ったりもした。
 どうか、私の言葉を耳にして、私の行為を目にしても、私を捨てていかないで下さい……とあいつのことを思うたびに祈り願っていた。


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へっへっへ、被災地にこいつを恵みしんぜよう。
ありがたく思え、ふははは。





おっと手が滑ったぁ!!!


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やべえ、間違えて五千円も募金追加しちまったよwww


どうも、所持金千円です、じょがぁです。
自転車ならまたあとでも買えるもんね。

初の給料……と言っていいのかは謎だけど、来たらもう少し募金しよう。


初めてのお給料でこれ以上ないほど有意義に使えるなんてね。いいよね。
というわけで募金のススメだよ!
赤十字とかやほーの募金なんかがいいんじゃないかな?


あと、節電もすげえ楽しい。

計画停電の時間でも停電にならないと、
「ああ、みんなが節電してくれてるんだなあ」
って感謝したくなる。

なんかみんなでやってる感があって、感動だよ、うん。


あと、西日本さんはマジ経済活動頑張ってくだせえ。

こっちはオイルショックのあった頃までタイムスリップしたような感じで
お客さんがトイレットペーパーを買い漁る始末だし、
電気系統の商品、日用品、ガスボンベ、灯油、ガソリン、米、パン、飲み物が
日に日に無くなっていくのを肌で感じる。

今は大繁盛で嬉しいけども、
いつ商品を積んだトラックがやってくるのか分からない状況。
まあ震災地方面を優先してるからなんだと思うけど、
とにかく混乱状態であるのは間違いないはず。

というわけで、西日本さんはたくさん物を生んで下さると助かるです。
まあ自分が言ってもどうにもなりませんけど。

天下の台所と言われた大阪もいらっしゃるんだから、
もう本当に色々支えてやってくだしあ。


あと阪神大震災の教訓は本当にためになったです。
通電してるんなら飯は炊いといたほうがいいね。うん。



まあそんなわけですけど。
富士山を震源とする地震がさっきありましたが、私は元気です。

原発で水素爆発があっても、
放射能が洩れて東京で観測されても、私は元気です。

もし富士山が爆発しても、私は元気ですのでご安心あれ。
もし君が絶え間ない現実に
心が呑まれそうだととしたら
小さく小さくほほえんでごらんよ
「わたし、げんき」とつぶやいてごらんよ
ほら 君にげんきはたまったでしょ?



  大きな揺れに辺りを見渡した
  ながいながい船旅さ
  地球というふねに乗ってるんだね
  君という大切な人といっしょに

  空が一つであるように
  この大地もまた一つなんだよ

  君が苦しいときは僕が
  とびっきりの笑顔を見せるから
  僕が苦しいときは君が
  まぶしく笑ってくれるよね?


  明かりのないがれきのなか
  日も暮れ途方に暮れてたら
  ただただ彷徨うだけじゃなくてさ
  少しだけ立ち止まってみようよ

  ほらほら暗い顔してないでさ
  少しだけ空を見てみてみようよ

  ちらちら光るあれはなに?
  初めて見る星の海だね
  ほらまた一つ夢がかなったんだ
  明日へ一つ願おう ながれぼし
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ぬこです。
いつ見てもかあいいです。


どうも、じょがぁです。色々ありますがテレ東並みの平常運航でまいります。


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ずっと前に高麗山公園に行ってきました!

ええ、当然震災前です。


ちょっと自転車乗って体力を鍛えたり、写真撮る練習をしてきました。
(ただここに来るまでに気を失いかけるほどヘトヘトになってしまったので
結構適当なアングルだったりする)



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近-遠ショットは基本的なショットみたいですけども、
まあ近をヘルメットにするのはどうかと思う。でかすぎよ。

ちなみに後ろはテレビ塔です。特に名称は無いっぽい。
子どもはきっとこいつを東京タワーだと勘違いしてたりしてそう。

その展望台にはなぜか南京錠がこれでもかと施錠していたりする。
恋結びのおまじないとかなんとか言うけども、
正直言うと景観が悪くなるのです。はい


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アスファルトな広場。
花見の季節になるとにぎにぎしくなったりする。


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こいつがレストハウス。
新しく建てられたんだっけ? 多分そう。


ちなみに逗子にある披露山公園のレストハウスは
大戦中監視所として敵機を観測していたらしい。

この公園のレストハウスは新たに作られたようですが。


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「湘南平」の碑(?)と愛車。
前輪スプリングが錆付いてきたなあ……。手入れ怠ってますからね^^;


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ちなみにその下は急勾配。
ボール遊びやると、大体後ろ逸らして落ちていって終わるのがテンプレっぽい。
まあスリルがあっていいと思うよ。


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まあ、そんな感じで、山はいいですよ。

次は海でも紹介しましょうかね?
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どうも、安否の安です、じょがぁです。


とりあえず、湘南付近はほとんど被害なしです。
横浜は地割れがあったみたいですけど、ここら辺はそれもないみたいです。

ちょっと車の通りが多くて、スーパーの駐車率が高いような気がするだけですね。


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はい、金目川です。いや、花水川といったほうがいいかもしれませんが、
河口から約1.5kmの地点です。

見た感じ普通の流れでした。
普通に散歩の人も歩いていまして、和やかな感じでした。

ただ、

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ここ二、三日、雨が降っていないにも関わらず、
水が濁っておりました。

それから、


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護岸の木に枯れ草がまとわりついていました。
写真左が上流、右が下流です。

つまりこの枯れ草は、既に津波がやってきて、
それが引いたときに付いたものなのではないかと思われます。

水面からの高さは多分1mくらいです。


うーん、自分が家に籠っているうちに、
地震の余波はここにまで至っていたようです。


本当に、川には絶対近付くな、と言っておきましょう。
例え1.5km離れていたとしても、
2km離れていたとしても津波は簡単に遡って行くようです。

自分は神奈川住みで、
地震も報道しているようなものが現実のものではないと認識しうるほど
災害とは遠くかけ離れた場所に住んでいますけども、
そういった地域の方ほど、川には注意して下さいませ。

川見たときに、ようやく現実感が湧いてきましたからね……。
 湿って黒ずんだ階段を登る。息が上がり始めるが、吉佐美の声に応援される。彼氏としてみっともないかもしれないがそれどころではない。最後の一段を登り切ると、大空といくつもの綿雲が迎えてくれた。日差しは午前であるにもかかわらず暖かで眩しい。
「代樹山って、断崖絶壁ってイメージがあるんだよな」
 脳内と現実との錯誤を見て感想を漏らす。
「そんなことないですよ」
「それに、もっと誰もいない殺伐とした場所だと思った」
 頂上に着いた途端に広がる人の多さに開口しっぱなしだった。代樹山に見合うのは人ではなく風に流れる木葉で、青空ではなく闇夜の空で、積雲群ではなく星々で、太陽ではなく半月だと思っていた。
「ここらへんじゃ有名な観光地なんですから」
 こんな田舎の山ではあるが、ここまで来る途中何度か人とすれ違い、目が合うと挨拶をしてくれた。陽はまだ東にあるにもかかわらず、平らかな頂は人々の幸せで埋め尽くされていた。こんな一面があるとは知らなかった。


四月二六日(土)


「統流君、フリスビーしましょう!」
 ハットから髪を垂らし、両手で赤い円盤を手にした吉佐美が言った。目を線にし、まるでフリスビーをやるのが長年の夢だったかのような口ぶりだった。断る理由なんて一つもない。快く承諾した。
 何とか空間を確保し、まずは吉佐美から投擲する。円盤は地面と平行に、微動しながらオレの手に収まった。この軌道はいくつになっても興味を失わない。
「あ、統流君」
 投げる体勢に入ってから吉佐美が声を掛ける。
「あの、高くに投げないで下さいね?」
 吉佐美の背後では木々が鬱蒼と茂っている。その下は草も生えない傾斜で、落ちたら人も物も二度と這い上がることはできないだろう。
「分かった」
 投げる。機械的な線を描き、吉佐美の胸に着地した。
「えへへ、楽しいです」
 投げ返す。さっきと同じ場所に収まり、制止する。
「オレもだ」
 今まで慌ただしかったから、こうしてゆっくりと遊ぶことができるのはなかなかよかった。
 低めに投げてしまうが、しかし彼女はしっかりとフライングディスクを受け止めた。
「統流君はフリスビーやったことあるんですか?」
 その伝言を乗せた円盤がやってくる。
「小学のときに流行って、そんとき何度かやったくらいだな」
 思い出補正というものもあるだろうが、集合場所で待つ吉佐美がフリスビーを持っていたときは自ずから胸の鼓動が早く打たれたのだった。
「フリスビー、好きですか?」
「ああ、好きだよ」
 円盤と共にやってきた他愛ない質問を同じようにして返す。
「あたしと、どっちの方が好きですか?」
 拍子抜けの質問に、思わず飛んできたフリスビーを落としてしまった。
「あ、今動揺しましたね?」
「あ、当たり前だろ!」
 顔が熱くなり、全身から汗が滲む。
 冷静になろうと努めて、溜息を吐いた。
「吉佐美って意外に大胆だよな」
 拾った円盤を力任せに投げる。だが吉佐美は何事もなく両手でそれを掴んだ。
「どこら辺がですか?」
 その間延びした大声は何一つ心当たりが無いように思われた。
「大声で好きだとか言うんじゃねえよ、恥ずかしい」
 近くでキャッチボールをしている少年がこっちを見た。オレの声の方が大きかったらしい。
「お前、天然とかよく言われるだろ」
 話を変え、投げる。
「よく言われます」
 受けとった吉佐美が答えた。
「それって、どういう意味なんですか?」
 返答のフリスビーをキャッチする。
「いや、深い意味はない」
「ウソです! みんなそう言ってはぐらかすんです」
「みんなが言うくらいつまらないもんなんだよ」
「ウソです」
「嘘じゃねえよ」
「じゃああたしのこと好きですか?」
「ぶっ」
 ラリーという名のドッジボールはここで幕を閉じた。相手は強情になると手強くもなるようだった。
「やれやれ」
 溜息が漏れる。
「好きだよ好き。いちいち言わせるなよ」
 全力投擲の照れ隠しをするも、吉佐美は落とすことなく受け止めた。なんというか、脱力である。どんだけ運動神経がよすぎるのか。はてはオレの力が弱いのか……。
「し、至福です……」
 こいつの、オレに対する思いが身体能力を助長させているというのだろうか? ……いやいやないない。どんな設定だよ。
「も、もう一度お願いします!」
 フリスビーが飛んでくる。
「嫌だよ……あ」
 手が滑り、誤って高くに投げてしまった。だがすぐに失速し、円盤は吉佐美の頭上、手を伸ばせばすぐに取れるような地点へと向かう。吉佐美は寸前動揺し、ぎこちなく左腕を伸ばし――、
「あっ」
 彼女は今日初めての失策を犯した。オレの全力をも楽々捕盤するくせに、ただ少し高いだけのそれを捕らえることはできなかった。慌てて片手で捕ろうとすれば当然の結果かもしれないが。
「えへへ、少し疲れちゃいました」
 吉佐美は力なく笑った。太陽はもう南に昇りきっていた。
「そろそろ、下りますか?」
 バスケ部時代の癖なのか、フリスビーを脇に挟んで肩を伸ばすストレッチをしていた。こういう姿を見ると、合唱部よりも運動部の方が似合っているように感じられる。
「そうだな。次はどこを案内してくれるんだ?」
「あたしのお家です」
 オレの修羅場は予想以上に早く到来した。


 代樹山公園の階段を下りる最中、吉佐美はこの山について熱く語っていた。古くからそのピラミッド型のシルエットは目印として親しまれており、また頂上の広場は昔城が築かれた歴史があるらしい。太平洋戦争中は東京絶対防衛の要地として砲台や司令塔が置かれたとのことだ。現在取り壊されてしまったものの、一部は展望台やレストハウスになっている……などなど。
 いつもと違う出入口から公園を抜けると、山腹山麓の住宅街が広がっていた。湖に至るまで所狭く敷き詰められた屋根に、抹茶色の湖、対岸の連山、そして空と雲の比率は壮観を覚えたであろうが、今の心境からして素直に楽しめない自分がいた。斜面に這いつくばって連なる家々の間を縫うように分かれる道を進む。昭和チックな家から今めいた家まである街路は、一度入ったら二度と出られない迷宮のようであった。
「もうすぐですよ」
 急勾配を下り、右へ左へ折り返したところで吉佐美が言った。一人で帰れる自信もなければ一人で来られる自信もなかった。それより今は伊東家でどんな応対をすればいいのかを第一に考えるべきだろう。とは言っても何も発想するわけがないのだが。
「ここです」
 立ち止まった先には、今から二十年ほど前に建てられたような家があった。当時は恐らく「豪華」の二文字が肩に書かれていたのだろうが、今ではすっかり影に埋もれてしまっている。
 ちょっと待って下さい、と一言残して彼女は先に入る。外玄関で待たされている間、内で二言三言話声が耳に入ってきた。どうも母親を呼んでいるらしい。緊張は倍になり、吉佐美の母と思しき声を認識すると全身は硬直し、扉が開いた瞬間それは最高潮に達した。
「あなたが統流さんですか?」
 物腰のやわらかい、温和な中年女性が現れた。
「あ、はい。どうも」
 気の利いたことなんてとても言えず、ただ首だけ曲げて挨拶する。
「うちの吉佐美が本当にお世話になっています。何も無い家ですが、どうぞお上がり下さい」
 オレの無礼さは少しも気にせず、優しく案内してくれた。お邪魔します、と決まりきった言葉しか出てこないが、それほど緊張しなくてもいい場所であることはなんとなく分かった。
「自分のお家だと思ってくつろいで下さい」
 オレを思ってか、吉佐美が緊張を和らげるようなことを言った。
「あ……その! け、ケ、ケッコンとか、そそそういう意味じゃないですから!」
「何言ってんだお前……」
 一人で言って、一人で慌てふためいていて、実に面白い奴だ。
 リビングは手入れが行き届いているものの、時代遅れな雰囲気まで拭い去ることはできていなかったし、正方形の床板パネルは歩く度にきしりきしりと音を立てていた。
 それでも居心地がいいと思えるのは、吉佐美の台詞ではないがこの家が実家の空気に似ているからなのかもしれない。
「ごめんなさい、色々お話を聞きたいところなんですが、お魚を焼いてる途中なの」
「は、はい」
「ご飯のとき、お願いしますね」
 吉佐美の母はそう言って台所に入った。
「あ、あたしも手伝います!」
「大丈夫よ。もう少しで終わりますから。統流さんとお話しててちょうだい」
 母も娘も丁寧口調で、なるほどこれは母性遺伝なのかと勝手に解釈した。この環境で育ったというならあの語尾は矯正でもしない限り直らないだろう。
「統流君はこっちに座って下さい」
 ダイニングまで案内され、クロスの敷かれた長テーブルのベンチ席に座る。
「それで、えと……と、隣に座ってもいいですか?」
「自分の家だと思ってくつろいでくれよ」
 吉佐美の言葉をそのまま返す。
「と、統流君は緊張感なさすぎです! いじわるです!」
 いじわるかどうかは謎だが、吉佐美の母の声を聞いてからすっかり気分が落ち着いてしまったのは確かだ。
「まあほら、座れよ」
 腰を浮かせ、彼女が座るスペースを確保する。
「で、では失礼して……」
 吉佐美が謙虚すぎてどちらがお客か分からない。
 とにかく彼女が座すると、テーブルがやけに大きく感じられた。透明でシャープなデザインの花瓶、ひだの付いた黄色い蛍光灯、所々にはめられたステンドグラスに薄型テレビ。少なくともオレが生まれるより長い時間を生きてきた部屋なのだろう。無言の空間で、そんな年配者にじろじろ見られている感覚に襲われる。何とも気まずいというか、もどかしくも思われる。
「お、お茶淹れてきます!」
 空気に圧迫された吉佐美が起立した。
「むむ麦茶でいいですか? いいですね? 行ってきます!」
 返答する間もなく飛び出して行ってしまった。
 一人になる。やがて開いた扉からとん、とん、という音が微かに聞こえた。
 野菜を切る音だ。
 それがなぜだか懐かしさが溢れ出てきて、目を閉じると童心が蘇ってくるのであった。


「お母さん、今日のご飯はなあに」「今日は、統流の大好きな、大好きな、カレーライスよ」「かれえらいすなら、ぼくのほうがもっと、もおっとだいすきだよ」「ふふ、そうね。翔流は、本当に、カレーが好きなのね」「うん! だいすき!」「ただいま」「あ、ぱぱだ!」「お父さん、お帰り!」「おかえりなさい、あなた。今日はカレーですよ」「……そうか」「お父さんも、カレー好き?」「ん、ああ、好きだな」「ぱぱ、ぼくもね、かれえらいすだいすきなんだ!」「僕も好きだよ!」「そうか、良かったな……」「ふふふ、照れてますよ、あなた――


 お袋のカレーライスなんて何年も食べていない。深層にある仄かな甘み――舌の味覚的なものではなく、何とも形容しがたいもっと別の味――をどうすれば作れるのかいまだに分からなかった。
「統流君、お茶、どうぞです」
 半透明の茶が置かれる。
「おお、サンキュな」
 突然の出現に動揺しつつコップを手にし、一口飲む。早めの初夏を感じさせるさっぱりとした喉越しだった。
「今、何か考え事してました」
 吉佐美は心配そうな面持ちで隣に座る。
「宜しければ、相談に乗りますよ?」
「ガキん頃を、ちょっとな」
 最近昔を髣髴とさせることが少なかったから、思わず余韻に浸ってしまっていた。
「お袋に父さん、それから翔流がいて、あの頃は無条件で幸せだったんだなあって」
 親とケンカしてこの町へやってきたわけだが、それ以前はとても平穏で、平穏だからこそ、とても恵まれた生活を送っていたんだなあと実感する。
「統流君、今一人暮らしですよね?」
 吉佐美は何かを閃いたようで、ずいと身体を寄せてきた。ソバカスも、メガネで拡大された瞳もよく見える。
「まあ、そうだが――
 でもな」「それなら!」
 声が重なる。
「と、統流君、先にどうぞ」
 しなくてもいいのに恐縮する吉佐美は顔を赤らめた。
 言葉に甘えて続ける。
「でも、一人暮らしに後悔はしてないぞ。こうしてここに来られたから夢を諦めずにいられるんだし」
 昨日のバイト先で感じた昂揚は確かなものだった。それに一人で生きていくために、言い換えれば食っていくために定食屋で働ける環境はかなり貴重なものだろう。
「そう、なんですか」
 灯の消えたように俯く。
「あの、もし良かったらいつでも遊びに来て下さいって言おうとしたんですけど……余計なお世話ですよね」
 いや、そんなことはない。
 ……なんてことを言ってあげたかった。でも、遊びに行くということは吉佐美の言う通り料理人の夢を遠のかせる一因になるのではないだろうか? 大した根拠なんて無いだろうが、その重苦しい気配はオレの不安を増長させるに足るものだった。
 でも、例え嘘になろうとも、今の彼女をどうにかさせてやりたい気持ちは強く胸の中で脈打っていた。
「またいつでも、呼んでくれよ」
 彼女の天然の茶色い髪を、そっと撫でた。
「統流君……」
 ふと甘い香りが鼻孔をくすぐる。これが吉佐美の香りだ。とろりと見つめる二つの瞳が近付く。艶めかしい唇はまるでオレを誘うかのように、潤い照らされている。静寂の中、彼女の瞼がやさしく閉じられる。湿った小さな吐息でさえも聞きとれる。そっと、彼女の背中に腕をまわし――、
「あらら、ごめんなさい!」
 第三者の悲鳴に、二人の距離は急激に離れていった。
「わ、私が動揺してはいけないことは分かっていますが……久しぶりだったもので」
 吉佐美母がぎこちなくダイニングに入る。
 いつでも呼んでくれ、そんなことを言ったオレだったが、実際昼飯も食っておらず、何一つ終えてはいなかったのだ。
「ちょっと煮詰めすぎてしまいましたが」
 吉佐美母は湯気で覆われた大深皿をテーブルの真ん中に置いた。蒸気が揺らぐ。芳しさに涎がじわりと溢れ、そして肉じゃがであることに気付く。大振りのふかし芋に煮汁をよく呑みこんだ牛肉、煮込んだニンジン・インゲン・シラタキ……。正統派の具材たちが上手に彩りと香りを演出していた。
 ヤマメの塩焼き、豆腐とワカメの味噌汁、それから大根と小松菜の和風サラダが食卓に並ぶ。今どき珍しい純和風の昼食だ。最後に吉佐美の母親は炊飯器を持ってきて、この場で一人一人にご飯を盛った。日本の香りが立ち込める。食欲はピークに達していた。
「それでは、頂きましょうか」
 三人で手を合わせ、頂きますと斉唱する。早速主菜である肉じゃがに手を付けた。味の染みたジャガイモを頬張る。
「と、統流君、まだ熱いですよ!」
 一噛みすると途端に隠れていた蒸気が放出する。途端に口の中は大火事になる。
「む、麦茶どうぞ!」
 吉佐美が投げるようにコップを渡してくれた。すぐさま消火活動に当たる。冷たいお茶が温くなるほどの熱であった。
 舌がヒリヒリする。軽い火傷を負ってしまったらしい。一口目から気を抜きすぎていた。
「大丈夫ですか?」
 吉佐美の母親も心配そうに見遣る。
「あまりにも美味そうだったんで、つい……」
 苦笑いを浮かべ会釈する。すると彼女は気を張った顔を緩めて微笑んだ。
「そう言ってくれると嬉しいわ。でも、慌てなくても料理は逃げていきませんからね」
 この人はお袋のようなことを言う。いや、言葉だけじゃない。この肉じゃがだって深いコクの中にお袋の味が眠っている。この味はどうしても言葉では表現することができないが、根幹に存在する重要な要素であった。
「あの、何か隠し味が入ってたりしませんか?」
 こんなことを初対面で尋ねるのは失礼かもしれないが、気になってしまったものは仕方がない。これが性と言うものだ。
「隠し味ねえ……。お芋も普通に蒸かしただけですし、お煮出しもお醤油お砂糖お酒……それに味醂だけですから、特に変わったものは入れてませんよ」
 その調味料だけだとしたら、オレが作る肉じゃがと大差ないどころか、同じものだった。それならば比率が違うのか、質が違うのか。
「あ、そう言えば」
 ぽんと手を合わせた吉佐美の母は何かを思い出したようだった。
「とっても大切な隠し味を言い忘れてました」
 彼女は人差し指をつきあげて、悪戯っぽく笑った。
「それは、愛情です」
「愛情?」
 頭上に疑問符を浮かべるオレを見て、吉佐美の母親はそっと頷いた。二十年前に遡ったような、温かで若々しい笑顔だった。
「あなたも子どもを持てば、きっと分かりますよ」
「お、お母さん! 何言ってるんですかっ!」
 ガタリと立ち上がる吉佐美。考えすぎだお前は。
 ……愛情、か。
 その調味料を、オレは知っていたはずだった。
 いつだっただろうか、暮の日だったと思う。
 オレのために作ってくれた料理に、その調味料の味は確かにあった。
 あの、少し甘味の含まれた味噌汁は、一体誰が作ったのだろうか……?
 思い出そうとすると、全ての温もりが引いていく幻想に囚われる。血の気が座席に吸い取られていき、自身が脱け殻になってしまうのではないかと不安になる。
 払拭しようと、ヤマメの塩焼きに箸を入れた。
「そのお魚はね、近くで獲れたものなのよ」
「あ、そうなんですか」
 あの深緑色のダム湖に魚が棲んでいるとは思えなかったが、更に上流は山中湖を源流としており、とても綺麗なのだという評判は山中湖から河口まで走り抜いた大瀬崎から聞いたことがある。
 背中の身を皮ごと食す。程良い塩味と脂の乗った湯気で口一杯になる。
「どうかしら? 少し焦しちゃったんですが」
 黄金比の焦げ目をそう謙遜する。
「とんでもない。美味しいです。……ビールが合いそうだ」
「統流君、ビール飲むんですか?」
「いや、なんかオレの父さんがいたら言いそうだなあって」
 さすがにさっきの発言は浅はか過ぎた。「自分の家」のようにくつろぐのはいいが、ここは自宅ではない。
「吉佐美の父さんもビール好きだったりするのか?」
 気を抜いちゃいけない。料理に胡椒を加えよう。
「あ、えっと……」
 ヤマメに胡椒をまぶした結果、吉佐美の目が泳ぐ結果となった。
「ええ、あの人は好きでしたよ」
 代わりにその母が答える。語調なのか言葉なのか、とにかく違和感の波が押し寄せる。
「……でした?」
 その違和感が確信に変化する前に、実に軽々しい言葉を伊東家に投げつけてしまった。
 この罪はどれだけ重いものなのだろう。まるで一万円札の束のような重量。シルエットとは裏腹の圧力。それでいて、それそのものは、絶対に見ることができない。
「もう、いないんです」
 無知とはなんて恐ろしいものなんだ。それは幼い子どもの純粋さに似ていた。
「で、でもいいんですよ? あたしが生まれてすぐいなくなっちゃったみたいですし、何も覚えていませんから」
 オレは今沈んでいるんだろう。そっけなく笑ってやれば、ちょっとした失言で終わったであろうに。こんな顔をしては、彼氏として失格だ。いや人間として失格だ。
 どうしてはぐらかせないのか。
「分かる、分かるよ……」
 ふと頭に浮かんだのは、柳桜での出来事だった。知らない誰かの温もりがある。やわらかな感触が唇に触れる。
 それはきっと夢の中での話だったのだろう。相手の顔すら分からない曖昧な記憶だ。でも、敏感な肌に触れる手先と大空の香りを認識する鼻先はちゃんと相手を覚えていた。
「統流君……」
 その声に目を覚ます。ここは吉佐美の家で、食卓だ。オレが拡散させた重々しい雰囲気が美味しい飯に付着している。
「すみません、お袋の味みたいで、昔のことを思い出してしまいました」
 ぎこちなさは仕方がないだろうが、笑って味噌汁を飲んだ。
 少し温くなってしまったが、ダシから丁寧に施されている愛情の味だった。


 何とか元の空気を取り戻し、三人で色々な話をした。正直オレに対する第一印象は最悪以外の何ものでもないにも関わらず、吉佐美の母親は終始落ち着きを払った言葉遣いで、なおかつ親密に話し掛けてくれた。これが本当の大人というものなのか。いやこれが吉佐美の母親なのだ。
「統流さんには感謝しています」
 昼食後、吉佐美が後片付けをしている合間のことだった。食器洗いは十八番だったので、オレも手伝おうとしたのだが、吉佐美が珍しく一人でやると言い張ったので折れることにしたのだった。
 こんな自分に感謝をされるほどのことはやっていない。ただ不器用な挨拶をしては飯を食い、家庭の事情を掘り返しては飯を食い、ぐうたらお茶を飲んでは飯を食っただけだ。こちらがお詫びをしなければいけないくらいだと思う。
「あんなに活き活きしたあの子を見るの、久しぶりなんですよ」
「吉佐美が?」
 あの姿から、活き活きという姿もその逆の姿も想像がつかなかったが、母がそういうのだからそうなのだろう。
「ずっと、劣等感を持ち続けてた子なんです」
「劣等感ですか? とても持ってるようには思えないんですが」
「そうですね、そう思われるでしょう。私もそう思いました。ですが、そこがあの子の悩みなんです。何でも人並みに出来ますが、一番だと思えるものは何もない……その、微妙な立場が悩みなんです」
 確かに目立たない奴だった。知り合ってからも、大室や白渚にばかり目が行っていて、吉佐美が表に立つのはほとんど無かったように思われる。いや、そう言えば一回二人だけで駅の周りで買い物をしたような気がする。
 こんな言葉で表してはいけないのは分かるが、微妙、という言葉が一番似合う。唯一胸の豊かさは誇れるのかもしれないが、それだってまた違う意味でコンプレックスを抱えている可能性もある。
「ですから、統流さんと出会えて本当に嬉しそうでした。あなたを思う気持ちは一番だって、眩しいくらいの笑顔で話してくれたんです」
 その顔から当時の様子がありありと浮かぶ。とある日の食卓で、今のオレと吉佐美の母親のようにテーブルを挟んで対峙し、終始和やかに麦茶を飲んでいる二人の姿が。
 オレという存在は、きっと自分が思っているよりも遥かに、彼女の支えとして映っているらしい。オレの方こそ吉佐美よりも目立たないし取り柄もない。彼女のように一途に思うこともなければ、謙虚に振舞うこともできない。
「どうか、これからも吉佐美のことを、宜しくお願いします」
 吉佐美のお袋さん、そんな頭を深く下げないで下さい。オレはそんな下げられるほどの価値を持った人間じゃあないんです。むしろオレが下げるべきなんです。今だって食器を洗っている吉佐美の手伝いすらできない甲斐性無しの男なんです。吉佐美からなんて聞かされたかは知りませんが、それは全部脚色されたオレなんです。ただ何となく付き合い始めただけの、やる気のない存在なんです。
「それと――」
 母親の顔が上がる。
「誰か違う人を好きになったら、ちゃんと別れてあげて下さい」
「……え?」
 一人の親らしからぬ、突然の一言に声が詰まった。
「あの子にも、別れを経験させてあげたいんです……なんて言ったら、親として失格ですよね」
 老けた力のない笑みに怒鳴ってやりたかった。あなたは間違っていますと。ふざけているんですかと。はいその通り親失格です、と。
 でも、できなかった。なぜか口が動かなかった。どうしても喉が言葉を制していた。それは、もしかしたら、きっと……。
「あなたたちは若いですから、たくさんたくさん、色んなものを経験して下さい。楽しいこと、嬉しいこと、経験して下さい。でも同じように、辛いこと、苦しいことも経験して下さい。そうすれば、大人になって、辛いことがあっても、苦しいことがあっても、きっと乗り越えられますから」
 まるで過去の彼女自身と対話しているようだった。それでいて、今を生きるオレの心にも強く響いた。吉佐美とのことだけではなく、全てのことに対して。
「ですが、これだけは約束して下さい」
 母の瞳が向けられる。そのあらゆる風景を目にした二つの眼差しは、ただただこの町を流れる清流のようにオレの映していた。
「喧嘩をしても、吉佐美の彼氏でいてあげて下さい。喧嘩ができることは、実はとても幸せなことなんですから。喧嘩ができるということは、仲がいい証拠なんですから。謝るのが恥ずかしいのなら、手を握ってあげるだけでいいです。どうか、あの子を大切にしてあげて下さい」
「……はい」
 自ずから頷き、吉佐美の母親へ決意の視線を向けていた。
 しばらくして吉佐美が戻ってきた。どこか満足げな面持ちで隣に座る。
「なあ、吉佐美」
 麦茶を飲み、一息吐く彼女に問う。
「オレだって後片付けくらいしてやりたかったのに」
「あ、えと、それはですね……」
 吉佐美ははにかみ、オレを見、母を見、もう一度、今度は上目遣いでオレを見た。
「し、新婚さんの気分を味わいたくって……」
 それは、彼女が懸命に考えた風景なのだろう。空洞を想像力で補って、思い描いた未来図なのだ。
「お前、恥ずかしいぞ」
「い、いいじゃないですか! 夢だったんです!」
 その「新郎」は果たしてオレなのだろうか。
 ……いや、そんなものをまだ考える歳ではないだろう。
「それで、これからどうしようか?」
 オレの未来は吉佐美のように鮮明ではないが、今を進んでいけばそれでいい。
「えと、あたしの母校、紹介しちゃってもいいですか?」
「紹介しちゃってくれ」
 吉佐美の笑顔をここに。
 彼女の小さな夢を一つ一つ叶えてやれば、それでいいじゃないか。


   Tsuisou-3  異国の潮騒


 その年の夏休みだったか、あいつに海へ行こうと誘われた。内気なあいつから誘われるなんて、津波でも起こるのかと思ったが、あいつは本気だった。小学生だった私にとって海は異国の地だった。直線距離でいえばたったの五キロ。しかし山の中腹、茶畑に囲まれて育った私たちにとっては、平地の世界は本気でニューヨークやロンドンなのだと思っていた。元々冒険が好きな私は、不安よりもワクワクの方が強かった。あいつは自分で誘っておきながら、私が自転車を準備している間ずっと、ねえ行くのやめようよと壊れたレコードみたいに繰り返していた。小学校に入る前から、海はおろか、一人で山を降りるのも許されてはいなかった。だから親には内緒だ。まるでスパイになった気分だった。あいつはそれどころではないようであったが。
 長い、緩やかに曲がりくねる坂を下り終えると国道が立ち塞がっていた。国境線の運河が目の前に広がっていた。車やバス、ダンプのトラックの濁流が右から左へ流れていく。この町は山と平地の境界が明瞭なのだ。同時に、この大河の向こうは異文明の地であった。大魔境であった。この先は危険な場所、踏み入れてはならない場所なのだ。私は意気揚々とし、あいつは戦々恐々となりながらも先頭を走る。信号で立ち止まる度に車用の地図と悪戦苦闘していた。
 なんとかこの町の中心街に着く。道路には車が溢れ返っていて、どぶ川のように少しずつしか進まない。山の清流とはまるで違う。伊豆半島最大の都市は漁業が盛んで、こんな街中からでも至る所から潮の香りが漂っていた。私はここで初めて人混みというものを理解した。商店街はとても賑やかで、なんだか居心地が悪かった。自転車を乗りながら進むのは迷惑なので、押して歩いた。駅から離れるにつれてシャッターの下りたお店が目立ちはじめる。そして、ふと周囲を意識すると人の姿はなく、あれほど多かった車も数える程しか走っていなかった。遠くへ、本当に遠くの国へと辿り着いてしまったのだ。
 ついに迷子になった。主要道を走っていたはずがいつの間にか細い道になり、一方通行の標識が目立つようになっていた。景色はとうに商店街から住宅街に変化しており、同じ場所をぐるぐる回っている錯覚に陥った。あいつはまた泣きそうになる。私は溜息を吐き、地図を奪い取り、海の方向を調べた。憶測を立て、今度は私が先導する。大きな病院の脇を通り過ぎて少し走ると、途端に建物が消え、代わりに大きな松が世界を覆った。何百本も何千本も、二人が手を繋いで大きな輪を作っても幹の円周には届かないくらい、二人が何十人といてもその天辺には至らないくらい大きな松が何千と生えていた。幻想的で、絵本の中でしか見たことのない生きものがいる気がした。このまま走ったら山へ行ってしまいそうな予感が掠めるものの、この先には海があると胸を張って思えた。なぜなら、このとき私は潮風を全身で感じていたのだから。
 海は初めてだった。ただしそこでの記憶は曖昧だ。現在に至るまで、海に行ったことはこれ一回きりだったからだ。砂浜の感触や波の音は七年が過ぎるうちにすっかり曖昧になってしまった。覚えているのは、青が広がっていて、その向こうに異国の山がぼんやりと見えることくらいだ。家からでもその山は見えるが、そこからと近くで見るのとではまるで違って見える。あの山の向こう側には一体どんな世界が広がっているのだろうかと、幼心に空想を抱いたものだった。
「ねえ、アンタさ、助けてくれたわけ?」
 山の見える浜辺で、例の件を尋ねた。あいつは挙動が不審になるも、助けてないと顔を背けた。いつも通りの反応で安心した。あの事件からもう一、二ヶ月が経つのに、しかも私は直接「いじめから」とは言ってないはずなのにあいつは「助けてない」と言った。きっとこの弱虫が助けてくれたのだ。
 これ以上のことは訊かなかった。追求してもよかったのだが、そのままにしておいたほうが気持ちがよかった。
「その、大丈夫、なのか?」
 その台詞は海岸でだったか、帰り道の途中でだったか、家の前でだったか。とにかくあいつの不器用な優しさに思わず顔を綻ばしてしまった。
「ええ、大丈夫よ」
 ……発声した瞬間までその言葉は真実だった。
 しかし、時の経過ということは――例えばあの山の向こうには山と海しかなく、広大な花畑も、魔法使いの住むお城も、地底へと続く穴も存在しないことが明らかになるように――信じられないほどあっけなく、大切なものを置いて去ってしまう。
 大丈夫という言葉は、その瞬間の状態しか伝えることが出来ないということを、当時の私はまだ知らなかったのだ。


どうも、バイト始めました、じょがぁです。

そいつを言い訳にはしたくありませんがお久しぶりです。



さて津久井湖には何本か橋が掛かっておりまして、
地元の人々の交通の要となっております。

特に北岸地域は切り開かれておらず、
橋は無くてはならない存在となっている地域もあったりします。


img009-1.jpg

そんな橋の一つ、名手橋。
かながわの橋100選にも選ばれている吊橋です。
相変わらずの不気味画質はインスタントカメラのせいです。


img009-2.jpg

サドルらへんに見えるワイヤーの束が錆びてます。
ええ老朽化です。

そんな名手橋は車が一台が通れる程度の幅で、


img009-3.jpg

自転車二台分……まあ3.5mくらいの幅しかありません。
ヒビがあって、バイクが通過しただけでけっこう揺れます。怖いです。

景色はいいんですけどね。



というわけで、相模原市緑区な話その二です。


今日のメインは名手橋ではなく、


img009-5.jpg

神奈川の誇る険道515号線です。

ちなみに

img009-5-1.jpg


これが険道515号名物の、
「車両横幅制限」です。


1.7m以上の幅を持つ車は通ってはいけません。
約1.74mの自分には、横になりながらの水平移動はしちゃダメみたいです。残念。

というか、こんな標識、自動車学校じゃ習わないんじゃないのかなあ……?

でも、地元民の車は特にためらいもなく制限の棒の間を通り過ぎていくんです。
彼らはきっと特殊免許を獲得しているに違いない。


img009-8.jpg

ちなみに道路の幅はこんな感じ。写真が斜めってるのはスキャンの影響。

名手橋の幅が広く感じられてしまう不思議。




さて、問題ですが、

img009-6.jpg

この分かれ道、険道はどちらでしょう?




正解は、

img009-6-1.jpg

はい、どう見ても険道が私道です。
この先にはお庭があるとしか思えません。

ちなみに市道を下ると名手橋の道に出ます。


img010-1.jpg

さて険道を進みますと、
通行止めの踏切がものすごい存在感を醸し出していました。

険道は現在一部が使われていないんですね。はい。
まあそれでも先に行こうとする輩がいるようで、


img010-3.jpg

こんな風に、まだエンジンがあたたかいバイクが……


!?



img009-9.jpg


なん…だと……!?


錆付いた鉄パイプの柵……というかがお出迎えしちゃってるという。


まあでも右側の崖崩れ防護鉄柵から中に侵入可能なんですけどね。
というわけで、険道515号はここからスタートと言っても過言じゃあない。

※ここから先は何が起こっても自己責任の世界です。
※あ、あとバイクで中に入るのは道交法かなんかで禁止されているようです。
※じょがぁはこの時ヘルメット(自転車用)を着用しております。



img010-6.jpg

これが標準的な険道515号の道筋です。

この道が廃道となった理由がわかりますね。
とにかく、崖が崩れるわ崩れるわ。

そして降り積もった落ち葉が少しずつ道路を埋めていっている……。
これが険道515号です。


img010-4.jpg

ただ石がころころ落ちてる道に見えるかもしれませんが、良く見て下さい。

左側のガードレールが見えますか?

ええ、
ガードレールが埋まるほどの崖崩れが起きた場所なんです。


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当然下は崖。落ちたら多分戻ってこれないです、はい。

歩いてると「ぱら...」と音がするんですが、
それが落ち葉なのか石なのかは全く区別つきません。



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時間の関係上廃道地域を走破することは出来なかったんですが、
自分が歩いてきた中で一番ひどかった崖崩れの痕。

十何年か前のものだと思うんですが、
もう道路ではなく自然の一部と化してましたね。

険道「ふははは、自然を支配しようなどとどの口がほざくか!」


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今にも雪崩れてきそうな、ひび割れた大岩。
その上に、根っこをむき出しにした大木があったりする。

正直この脇を通過したときは生きた心地がしなかった……。


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崖崩れ防止のフェンスに、溢れんばかりの石が溜まってました。
メタボリックなお腹を彷彿とさせますけど、
こりゃあネットがはち切れたら目を覆いたくなるような現象が起きる予感。

メタボは改善出来ますが、自然には太刀打ちできませんねこりゃ。


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倒木たち。人為的に切った跡があるけど、
きっと廃道になってからやってきたマニアさんが切ったんじゃないかなあ。


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そのマニアさんというのは、廃道マニアと、それとダムマニアです。

実はこの廃道でないと見ることの出来ないダムがあるのです。
沼本ダムという、現在津久井湖によって半没してしまったダムです。

そのダムを写す好スポットとしてこの道が重宝されているようで。

半没しているにもかかわらず未だに稼働を続けているという、
捉えようによってはSFの世界を思わせる、何とも切ない噂がございます。


今回は時間が無くて走破出来ませんでしたが、
いつか必ず起点から終点まで走り抜けたいと思っています。


その時は必ずデジカメとバッテリーを持って、ですね、はい……。


tizu2.jpg

県道515号線の城山方面です。
じょがぁは廃道の1/3くらい歩いたのかな……?
「え?」
 誰ともなく拍子の抜けた声が漏れる。
 程度の具合は様々だろう。ただオレとの付き合いが長ければ長いほど驚きは深いものになっているように感じる。
 昼休み、いつものように屋上でレジャーシートを敷く仲間に昨日の件を報告したときの反応だ。
 早速大室は目を潤わせ、祝福するようにオレと吉佐美とを交互に見遣っている。
 白渚も顔も顔を綻ばせた。
「日曜日にダブルデートでもするかい?」
「ダダ、ダブルデートですかっ?」
 冗談交じりの祝辞に吉佐美の顔が赤く火照る。
「お、そんならトリプルデートにしようぜ! な、神子元!」
 冗談なのか本気なのかは分からないが、大瀬崎が首を突っ込む。
「そうだね、サンデーだけに、三デート……なんちゃって」
「まま、待って下さい! トリプルデートなんてそんな、まだ心の準備が」
 白渚の猛雪発言をまともに捉えた吉佐美は凍てつく空気の中、両手を頬にあててはにかんでいた。恥ずかしさと嬉しさが同時に湧き起こっているらしい。
「冗談言わないで、慶二も駿河も」
 神子元はミルクティーのタブを引き、三口ほど口にする。
「ええっ! じょ、冗談だったんですか?」
 吉佐美の驚愕はさておき、日曜日はバイトで一日潰れる予定になっている。先週客としてきた白渚のカツを焦がしてしまったリベンジとしていつもより長く従事するつもりだ。
「それより早く食べましょ」
「そうだね、僕も早くいずみんのお弁当食べたいよ」
 白渚が目配せすると、大室はいそいそと風呂敷を解きはじめた。相変わらず中身は漆の重箱で、和洋中の織りなす計算されたカオスの世界が広がっている。
「ケイジくん、今日は麻婆豆腐がおすすめ……かも」
 三段目のオムレツの隣。日光に照らされ輝く香ばしさがあった。それだけで涎が噴き出て止まらない。
「と、統流君」
 隣に座る吉佐美が小さな弁当を片手に見つめていた。
「あの、良かったらこれ、お好きなのどうぞ」
 菜飯のおにぎり、大根・人参・豚肉の味噌煮、ダシの染み込んだ里芋の煮ころがしには細切りの柚子が添えられている。相変わらずの簡素ぶりだが、細かいところにまで手が施されている。どの品も少しずつ味わいたいところだが、一まず里芋を口に放り込む。
 里芋の粘りが舌に擦りこまれる瞬間、薄味ながら絶妙な醤油と味醂と砂糖の黄金比が味覚を刺激させる。だが決してそれは主役として突出しているのではなく、里芋本来の滑らかな甘みを上手に牽引する標としての役目をただ全うしているだけだ。その単純で精錬された業に柚子の香りを添えることで、無限大の可能性を鼻孔から拡大していく。
「穂枝、お前美味そうに食うな」
 大室のスモークチキンを頬張る大瀬崎がそんなことを漏らしているが、野獣のようにかぶりつく大瀬崎もそそられるものを感じる。
「まあ、実際美味いからな」
「あ、ありがとうございます! し、至福ですっ!」
 ほとんど反射的に吉佐美が頭を下げていた。
「つーか、大瀬崎は特に何も言わないんだな」
「スモークチキンの感想か? いずみちゃん、かぶりつきたくなるほど大好きだぜ!」
 その言い方だと大室への告白にしか聞こえない。案の定白渚の安定したチョップを喰らう。
「そうじゃなくて、『俺たち彼女作らない仲だったろ?』とか『裏切り者め!』とか、言いたいことは山ほどあるんじゃねえの?」
「ああ、なんだそんなことか」
 金髪の少年は箸で里芋を二つ串刺す。
「そりゃ羨ましいけどよ、でもなんかあんまし驚かないというか、ああ、やっぱりなって感じなんだよな。ま、俺は心が広いから、このくらいじゃ腹は立たないぜ!」
 なんか今お前が仏のように見えてしまった。なんて恐ろしい幻覚なんだ。
「ま、無性に殴りたい気分なんだけどな」
 前言撤回。
 それからしばらく雑談に花を咲かせた。大瀬崎が寛容なのは昨日のコンビニでの出来事も大きいようだ。奴はオレの指示通り店員に「俺の心も温めて下さい」と言ったのだそうで、すると店員は大瀬崎曰く「ニコッと笑った」らしい。それ、どう見ても憐みの笑みだとしか思えないのだが、大瀬崎の儚い夢を壊さないよう黙っておいた。
 もう少し戸惑いが生じるものとばかり思っていた。それなのにみんなオレたちのことを快く受け入れてくれている。
 思えば周りの奴らは環境の変化に柔軟で、いつも付いていけないのはオレだけだった。少し考えれば受け入れてくれることくらい分かる話なのに。
「あれ、神子元、さっきから箸が進んでないみたいだな」
 オレの冷静さを欠いていたのは、さっきからじっとオレの二段弁当を睨んでいる奏の存在が大きい。
「ごめんね、食欲無いの」
 今まで大瀬崎に見せたことのないような微笑に鳥肌が立った。大瀬崎もどことなく違和感を感じている表情を見せている。
「奏、大丈夫? 具合が悪いのでしたら保健室に行ったほうが……」
「ううん、平気。それよりほら、統流がおにぎり食べたそうにしてるわよ」
「え? あ、はい、統流君……」
 今ので誤魔化せたのは、吉佐美と奏自身の二人だけだった。
 そう、鈍感なオレでさえも、気付いてしまったのだ。
 奏はこの変化に対応できずにいる。
 そして、周りの応対に惑わされ、すっかり流れに呑まれてしまっていた。常に空気は奏が支配していたのに、今や空気が奏を支配している。
「あの、おいしいですか? 統流君」
「ん? あ、ああ……」
 俯く奏の表情は読み取れない。
 奏が、あの奏が、一体どうして隠せないほどの動揺を見せている?
 どんなときでも不動の大岩に据わっている、あの奏が……。


 四月二五日(金)


「統流」
 そしてそれは屋上を出る寸前のことだった。
「話があるわ、少し残りなさい」
 ふて腐れた顔をした奏に呼び止められる。
「じゃ、僕たちはお先に失礼するよ」
 間延びした素振りで白渚は階段を下りる。大室や大瀬崎や、何か言いたげだった吉佐美もそれに続く。こういうことを何気なく振舞える白渚が羨ましく思えた。
「で、何だよ」
 白渚たちの気配が消え、奏と向き合う。
「昨日の電話のこと。ねえ、吉佐美と話してたんでしょ?」
 前振りもない質問で、最初何を言っているのか分からなかった。やがて昨日の夜の出来事を言っているのだと理解する。
「ああ、そうだ。でもな――
「なんで嘘吐いたのよ」
 有無を言わせぬ強制力に弁解の余地は無かった。確かに正直に言おうと思えばできた。ただ付き合い始めたことは今日まで内緒にするという約束をしていたから嘘をついた。その一言を言うことができればどんなに楽なことか。でも突然荒い語気の前に立たされたオレには到底無理な話だった。
「別にいいだろ。なんでオレのことを全部教えなきゃいけないんだよ」
 日頃感じていた小さなストレスも込めて、小石の入った言葉を投げつけた。
「こっち来るときにおばさんからアンタのこと見張ってろって言われたの!」
「いつの話だよ! それとこれとは話が別だろ?」
「別じゃないわよ! 私に嘘まで吐かないと付き合えないわけ? いきなり『オレたち付き合い始めたんだ』って、こっちの身にもなりなさいよ!」
「か、奏?」
 奏の様子が明らかにおかしい。いつもの奏らしい合理的な説教ではない。
 小さく息を飲む音がする。奏の鋭い瞳が大きく開かれていた。そしてすぐに平静を装う。
「ア、アンタが心配なだけよ。嘘吐いたら吉佐美に嫌われるんだから」
 それは本音なのか? 本音のようで全く違う気遣いなのか?
 それでも、その真実を暴くほどの技能を持っていないオレには、ただその言葉を真に受けることしか出来なかった。
「……で、土曜日、デートなの?」
「あ、ああ。だからお前の方には行けない」
「分かってる。じゃ、彼女を泣かせないようにね」
 返事を待たずに出ていってしまう。一人南下した太陽に見下されている自分は、しばらくひび割れた黒いコンクリートの上に佇んでいた。
 既に吉佐美に対して心の無い言葉を掛け、虚ろの慰めで彼女を騙した。それがもし仮に奏の言う「嘘」であるとするならば……。
 いや、考えることはよそう。オレは吉佐美の彼氏で、これから吉佐美を大事にしていけばいいじゃないか。そうだ、奏だって応援してくれている。だから吉佐美に楽しい思い出をたくさん作ってやるんだ。それでいいじゃないか。何を怯えているんだ。怯える理由なんて無いだろう?
 ただ奏の声が鼓膜の中で哀しく響いていた。
 教室にはまだ大瀬崎の姿は無い。白渚のクラスで馬鹿騒ぎでもしているのだろう。見物してやろうとも思ったが、わざわざ疲れているのに重ねて疲れる必要もない。適当にクラスの奴らと中身の無い話をする方がまだいい。
「あの……ト、トベルくん」
 弁当をカバンに仕舞っていると、大室に声を掛けられた。そわそわと指を遊ばせ、小さな目をくりくり動かす仕草はいつ見ても癒される。
「おやおや、そこにいらっしゃるのはお弁当箱と幸せハートを手にしたトベル君じゃあないですか」
 そして、大室の隣の女子もいる。こちらは悪戯な視線を向け、ニヤニヤと口元を緩ませている。だがそれは悪意ではなく祝福の眼差しであった。
「もう本当に爆発してほしいよね、こういうの聞くとね」
 なかなか物騒なことを言う隣の子に、大室はどういう顔をすればいいのか迷っているようだった。
「お前、そんなこと言うと大室も爆発しなきゃいけなくなるぞ」
「いずみんは別ですー。ハムちゃんとドブネズミを同列に置かないで下さいー。あなただけ爆殺するんですー」
 生意気なこと言いやがって……。なぜか腹が立たないのは彼女の特性だろう。元気の暴走列車のようで、余波が周囲の奴らをみなぎらせている。こいつはそんな奴なのだ。
「ハムスターもドブネズミもネズミだろうが」
「ほら、そうやって屁理屈言うから爆破ターゲットにされるんだよ。全く、友達の友達の彼氏に祝福してやってるんだから、ドブネズミはありがとうございますって言うだけでいいの」
 なんかオレ、酷い言われような気がする。
「はいはい、ありがとうありがとう」
「まあ、いいんじゃないかな? 心は少しも籠ってないけど。それで、いずみん、言いたいことあるんでしょ?」
「あ、うん……」
 ガトリングスピーキングからエスカルゴも驚くロートークにギアチェンジする。
「あのね、ケイジくんからの伝言なんだけど、その、キサミーとのこと、おめでとうって。それで、ミコちゃんのことも気になるかもしれないけど、今はキサミーのことを第一に考えてって……言ってた、かも」
 大室至上主義の白渚らしい言葉だった。
「でもあのっ、勘違いしちゃダメなの……かも!」
 難しい顔をするオレを見てか、慌てて付け加える。
「ケイジくん、言ってることは厳しいだけで、ただトベルくんとキサミーのこと、おめでとうって言いたいだけなの……かも。わたしも同じ……だと思う、から」
 顔が赤くなるにつれて声量が小さくなっていく。内容というよりは慣れない長い台詞のせいで小さくなったのだろう。
「おう、センキューな」
「あ、今のは心籠ってる。全く、トベル君はモキュモキュたんには甘いんですか?」
 隣の席が、まるで獲物を見つけた鷹のように会話へ割り込んできた。
「あのなあ……。つーか、お前そろそろ名前教えろよ」
「ひ、ひどいっ! 彼女の名前を覚えてないなんて! ワタクシ傷付きましたワ!」
「はいはい口調口調、お前はオレの彼女の友達の友達だ。いつからオレの彼女になった」
「むう、屁理屈言う人には教えてあげないもん。最初の自己紹介のときに聞き逃してたほうが悪いんだからね」
 と、何だかんだで大室とその隣の奴との雑談で昼休みが終わってしまった。そろそろクラスから浮くんんじゃないかと内心ヒヤヒヤしている。


 放課後になって、大瀬崎が意気揚々と一人で帰っていった。今日こそコンビニの店員にアタックしてやると燃えていたが、物理的アタックを仕出かさないよう祈るばかりだ。いや別に期待しているわけじゃないぞ?
「統流君、一緒に部活、来てくれませんか?」
 人も疎らになった頃に吉佐美が教室へ入ってくる。合唱部の部員たちに紹介するためだ。
「おう。……あ、でも今日バイトがあるから長居できないな」
「そ、そうなんですか? えと、それじゃあ日を改めた方がいいでしょうか……?」
「そうすると来週になるし、少しくらいなら間に合うよ」
「そうですか……すみません、なんか」
 一目で分かる申し訳なさそうな顔をする。謝るのはこっちの方だというのに。
 二年教室のある西校舎最上階の端に合唱部の教室は位置している。学校で最も目立たない教室を挙げよ、という問題があれば真っ先にこの教室を挙げれば正解だ。元物置部屋であろうこの立方体の教室は学校関係者の内、数パーセントの人間しか知らない秘密基地だといえる。埃やカビの臭いが学校の歴史を感じさせた。
「穂枝君だっけ?」
 野球部の様子を見ていると、短髪細身細目の女子に声を掛けられる。首にタオルを提げており、またその運動部系の体型は歌を歌うより腕立てや腹筋をしている姿の方がよく似合いそうだった。
「おう。穂枝統流だ」
「私、源千代。吉佐美とは中学からの仲だよ」
 はきはきとした口調で紹介された。社交的でとても親しみやすい。
「吉佐美、何でもかんでも謝る癖あるだろ?」
「な、無いですよ!」
 顔を真赤にする吉佐美と、上手く吉佐美を扱う源。なるほど確かに長年の慣れが窺える。
「で、こっちが――」
 源の後ろに隠れていたもう一人を前へ突き出す。
「平野雪音……です」
 垂れ目の彼女は、存在それだけで空気をやわらかく丸めてしまう雰囲気を醸し出していた。
「ゆきねえはダベっ子で、そいつがもうめっちゃくちゃ可愛いんだ」
「そ、そんなことないべ……ないです!」
「ない、べ?」
 確かに言い直したところは可愛げがあった。栃木か群馬の方言だろうか。
「あの、やっぱり変ですよね」
 平野はおずおずと尋ねる。
「別に変じゃないというか、むしろ愛嬌があっていいと思うぞ」
「ホ、ホントけ? 嬉しいべ!」
 澄んだ目を輝かす平野は、実に嬉しそうだった。嬉しみをそのままの形で受け貰ったような感覚だった。方言もなかなかいいものだな。
「そんでな、穂枝君、吉佐美ンのこと宜しくね。吉佐美ンは頼りになんからいつでも頼ってくんな」
 若干意味は取れなかったものの、背中を押されていることはよく伝わった。
「雪音は一番歌が上手いんですよ」
 ラジカセにMDをセットする吉佐美がそんなことを言う。
「そ、そんなことないべ……」
 照れる平野はまんざらでもないようだった。ダベっ子で美声というのも気になる。まあ彼氏としては吉佐美の歌声も気になるところであり、また源の喉からはどんな声が出るのかも気になる。以前一回合唱部の歌を耳にしたことはあるが、そのときは一人一人の声まで細かく聴く余裕なんてなかった。
「統流君、今から一度練習するんですが、時間の方は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
 本当はそろそろ出ないといけないのだが、三人の未知なる歌声に惹かれてしまった。源が椅子を開けてくれたので、ありがたく座ることにする。楽譜を手にした平野は声の調子を整え、吉佐美が再生ボタンを押す。
 た、たん。
 目を閉じるとピアノの絨毯がなだらかな波を打って広がった。前聴いた歌とはまた違った歌で、オレたちくらいの世代には心の底まで沁み渡ってくる味わい深いものだった。
 源の歌声はその性格を反映させている。力強い歌は、他の二人を頼もしく引っ張っていた。
 平野の声は源とは裏腹に繊細で可憐な提琴のようだった。先程の小さな口調とはまるで違っている。
 そして吉佐美は誰より音楽に乗っていた。目を閉じ、音色の風に揺られた律動に自身の満ち満ちた感情をシャボン玉のように漂わせている。
 十人十色ならぬ三人三色の合唱は個性が強く現れているものの、決して支離滅裂なわけではなかった。むしろこの調和は三人の深い仲を象徴しているかのように思われる。
 合唱が終わったときに芽吹いたこの、感情と称すべきか衝動と称すべきか定かでないものなんなのだろうか。ただ、そよ風が埃を払い落とすような爽快さは確かにあった。
 感想を迫られるが、どう返せばいいのか思い浮かばない。だから思いついた言葉を垂れ流しただけの感想になってしまったが、それでも吉佐美はこちらが恥ずかしくなるくらいの照れ顔や、とびきりの笑顔で応えてくれた。
 とはいえ、もう時間がない。一言断って帰る支度をする。
「穂枝君、また来てくんな」
「いつでも大歓迎だから遠慮すんなよ」
 平野と源から声を掛けられる。親しみやすい奴らで良かった。
「と、統流君、あの!」
 最後に吉佐美が呼び止める。
「部活終わったら、食べに行ってもいいですか? と、統流君のバイト先で!」
 彼女にとっては大層勇気のいる言葉だったろう。含まれた緊張や不安というものを強く受け感じた。
「ああ、待ってるよ」
「本当ですかっ!」
 大きくサイドテールを揺らしてお辞儀をし、顔を上げた吉佐美はとても幸せそうで、その暖かな表情を作っているのがオレだという事実に、なんとも宙を漂っているような感覚に襲われた。


 親方の機嫌が悪い。
 そりゃ、いつでも不愉快そうに厳しい顔をしていて無口な人だけれども、今日はオレに対する圧迫感のようなものが増大している。
 理由は一つ。遅刻ギリギリに定食屋の暖簾をくぐった、それだけだ。
 親方が厳格な人間であることは重々承知なのだが、それだけでこれほど機嫌が悪くならなくてもいいと思う。忠告すらせず何も言わないで、ただ黙りに黙り続ける。食材や包丁には一切触れさせてもらえず、ただ食器洗い、会計、その他雑用の命令を無言で強いられる。いつものことなのだが、しかし腑に落ちることはなかった。
 バイトが終わった後、日曜の昼間にもバイトを入れたい旨を伝えようと思ったのだが、この調子で了承してくれるとはとても思えない。食い下がる覚悟だが、きっと邪魔者扱いされてしまうだろう。
 常連たちのアルコールが回った笑い声。大層愉快な渦巻きは、まるでオレの惨めな猫背を嘲笑っているかのようだった。外が暗くなるにつれて店内はどんどん明るくなっていく。無意識に扉の方を見ることが多くなった。とっくに完全下校を過ぎている。だが店に入ってくるのはタイを緩めたサラリーマンか毛玉だらけのセーターを着た老人ばかりで、制服姿の女子高生は長針が何周しても現れることは無かった。
 今日はついていない。奏のしかめっ面が脳裏によぎる。
 最後のお客が勘定をする。
 結局何の料理も作らせてもらえず、吉佐美も来なかった。昨晩場所を教えたはずだし、吉佐美も白渚たちと一緒に来たことがあると言っていた。あれは幻聴で幻想だったのだろうか。
 親方が包丁を洗っている間、脂のこびりついたコンクリート床を掃いていた。
「親方」
「駄目だ」
 まだ何も言っていないのに、真っ向から否定された。続けて言おうとするも、親方が先制する。
「バイト増やしたいんだろ。見てりゃ分かる、駄目だ」
 親方は全てをお見通しだった。まるで、オレを何十年も見続けているような鋭さだった。
「どうしてダメなんですか」
「準備もしない輩はただ邪魔なだけだ。わざわざ手間の掛かる仕事を増やすほど俺は馬鹿じゃない」
 覚悟していたが、これほどストレートに来られるとさすがに応える。だが怯まず正直に思いをぶつける。
「今日のこと、すみませんでした。気を弛ませていました。今後の戒めのためにも、仕事の追加をお願いします。雑用でも何でもやります。お願いします」
「駄目だ」
 下げた頭に気の無い低い声と蛇口の水音をぶつけられた。
「お願いします。先週親方のいないとき失敗したカツにもう一度挑戦したいんです。お願いします」
「駄目だ」
 親方に何の迷いも感じられなかった。
「ですが……」
 言葉に詰まる。主張したいことは山ほどある。でもそれをどうしても言葉として口に出すことができなかった。自身の言語能力の低さに悔しみと憤りを抱く。
 ほんの少し仕事を伸ばすことですら叶わない。なんて弱い立場なんだ。なんて無力なんだ。そう自身を責め立てる。そうすることでしか自分を維持することができなかった。
「お前は」
 蛇口が小気味よい音を立て、水が止まる。
「なんでそんなに食い下がるんだ。バイトの分際で」
 ああ、確かにオレはバイトで見習いだ。ただの分際かもしれない。
 でもどうしてここで働いているのか、厳しい親方の下で料理もせずに掃除をしているのか。
 そんなの決まっている。初めてこの店に入って、親方を見たときに感じたんだ。この人なら、オレを一人前にしてくれると。
 そして、一人前になる理由。オレがこの道を追い求め、夢を描きはじめた理由。
 それは――
「料理が、好きだからです」
 オレの腕はまだ親方の指先にも及んでいない。どんなにもがき、喘いでもあの微かに黄ばんだコックコートは遠く離れてしまっている。
 でも料理に対する思いならば負ける気がしなかった。全力を注いだ一品が完成されたときの達成感、料理を挟んでお客と向き合うときの昂揚感は計り知れない。御愛想のときに貰う一言に、どれだけの活力がみなぎってくることか。この感情を他の誰よりも多く貰っているのが、このオレなんだ。
「料理を語るな、未熟者が」
 全ての自負がここで薙ぎ払われた。爆風に晒された一本木のように、呆然と荒野に突っ立っているようだった。
「お前は料理が何たるかを全く理解してないだろう。客との真っ向勝負だってのはお前の馬鹿な頭でも認識してるだろうが、それで全てを理解した気になってんじゃねえ。だから……」
 ここで間を置き、絶命の一言を振りかざした。
「……六時だ」
 何もかも、ここで終了した。
 そう、思った。
「え?」
「日曜六時。当然朝の方だ。次遅れたら切るからな」
 それは、親方からの了解そのものであった。
「は、はい!」
 この喜びようは、どんな言葉を遣っても形容できるものではないが、そんな不便なものを用いらずとも伝わるのは言うまでもないことだろう。


 まだ鼓動が早い。帰りは十時を過ぎてしまったが、全身は泉のように湧き立つ熱に覆われていてコートいらずの夜だった。
「統流君……」
 誰かに呼び止められる。こんな真夜中では気味悪がるのが普通なのだろうが、気持ちの昂りが脳を麻痺させていた。
 振り返ると、そこには伊東吉佐美がいた。
「どうしたんだよ」
 全身の血管が細くなっていく。暗がりでよく見えないが、吉佐美は鼻をよく啜っていた。
「統流君、ずびません……」
 嗚咽交じりの声に、ようやく異変を察知した。だが、何もしてやれずただ目を擦る彼女の前で立ち尽くしていた。
「入ろうと、入ろうとしたんでずが、怖気付いちゃいまじだ」
 無理もない。ここは夜になると居酒屋の空気になる。酔っぱらったサラリーマンばかりが入り、中から爆笑が鳴り響いているのを耳にすれば誰だって躊躇する。まして女子高生が一人で突入するなど、勇気が要って当然だ。
「でも、ずっと待っててくれたんだな。嬉しいよ」
 自然と手が吉佐美の頭に伸びる。そして彼女の頭を優しく撫でていた。
「統流君は、やさしずぎまず……」
 一人じゃ危なかったろうとか、お前は謙虚すぎるんだよとか、寒くなかったかとか、言いたくて言いたくて堪らなかったが、その全てを手に込め、髪の上から滑らせていた。
「部活、あのあとどうだったか?」
「統流君、雪音に懐かれまじた」
「はは、そっか。源は?」
「歌、歌ってまじた」
「吉佐美は?」
「……統流君のことばっか、考えてまじた」
「そっか」
 夜の道は続く。
 これからずっと、歩いていくのだろう。
『彼女を泣かせないようにね』
 ふと、奏の言葉を思い出した。


   Tsuisou-2  ゴング


 その日の帰り道、あいつにいじめのことを相談することにした。あいつの家は私の通学路の途中にあり――といっても私の家とは二件離れているだけなのだが――あいつの家の前で打ち明けた。
「私、最近友達とうまくいってなくてね、知らないうちにルールが決まってて、私をいじめてるみたいなのよ。A子がそのリーダーなんだと思うんだけど、私、本当に何をやったのか分からないの。ねえ、助けてよ」
 きっとそう感じられない口調でも私自身の中では悲痛な訴えで、心地は暗雲の中にいるようなものだった。でもあいつの前で泣きたくなかったから、酷く顔を硬直させて、じっとあいつの尖った前髪を見つめていた。
「なあ、ルールがわからなかったらA子とかいうリーダーに訊けばいいんじゃないのか?」
 そのときの幻滅ぶりは言葉に表せない。とたんに冷静になって、こいつはこういう男なのだと再認識することが出来た。今では笑い話の種になるが当時は思わず泣き出しそうになって、大声でバカと叫んで二件先の自宅へ逃げ帰った。その日は八時を過ぎても九時を過ぎても泣いていたと思う。もう学校へ行きたくなくなったが、ズル休みをする度胸はなくて、変に礼儀正しい自分を呪いたくなった。
 ところが、幾日かが経って様子は激変した。あの異変を最初に気付いたのはいつからだろうか。きっと朝だ。いつもあいつと一緒に登校していたのだけど、その日に限ってあいつは先に行ってしまったのだ。登校中は周りの話し声や足音が気になって堪らなかった。早く着いてしまえばいい。でも着いたら着いたで、六時間も地獄の釜に放られるも同然なのだ。それならば引き返したほうがましだ……そう思いながらも、決心が固まらずに前へ前へと足を引きずり歩いた。一人きりの通学路は長く感じられた。
「うす」
 教室のドアを開けたのに壁があった。ぺたぺたとその壁を触ったところで、それが我がクラスの男子を総べる巨体の男子であることに気付いた。違和感を感じる。この男子は、他の男子には強情なのだが、女子に対してはめっぽうウブなのだ。その男子のリーダーが女子である私に挨拶している。二つ目の違和感だ。
 それから何かある度に男子たちが異様に周囲を取り巻いた。それも私に話し掛けることもなく、居心地悪そうにそわそわと手を遊ばしたり髪をいじったりしている。私も何をすればいいのか迷った挙句、外の景色を眺めることにした。
 昼休み、毎度の如くあいつからドッジボールをやろうと誘われた。断ったが無理矢理腕を掴まれ、引っ張られる。全く意味不明だ。あいつにこんな力があるわけがない。少し抵抗すれば逃げだすことも出来るだろう。でも、それを実行に移すことはなかった。久しぶりのドッジボールは楽しかった。思いの限りを込めてボールをあいつの顔面に当てたら泣いてしまった。
「何泣いてんのよ、弱虫」
「い、痛いんだよ! 仕方ないだろ!」
 やけくそに叫ぶあいつの真赤な顔は涙と鼻水と唾液でグショグショだった。
 ちょっと、笑えた。
 教室に帰ると、ドッヂボールに参加していなかった男子が五人ほど、私の席の前でプロレスごっこをしていた。二人のレスラー、二人のセコンド、そして一人のレフリー。なかなか本格的な死闘が繰り広げられており、一方が十字固めを、もう一方がそれを阻止するような形だった。そこに男子リーダーが飛び入り参加をし、その巨体が二人を押し潰した。呻き声を上げるレスラーを救出すべく突入するセコンドたちも、たちまち巨体に吸収され、どさくさにレフリーまで押し潰される。
 神子元、カウントカウント! と誰かが叫ぶ。私は戸惑ったが、カウントなら何度もやったことがある。
「わん、とぅー、すりー!」
 かんかんかんと八方からゴングが鳴り響く。勝負はリーダーが勝利を奪う形で幕を閉じた。
 男子たちが私のことを気にしていることくらいわかっていた。元気がない私を励ますためにドッジボールに誘い、その間荷物や席にイタズラされないようにわざと男子たちがプロレスごっこをしていたのだ。男子はまだまだお子様で、純情だった。私がいじめられた原因はきっと男子とばかり遊んでいた私と、それを良しと思わなかったA子が原因なのだと今は推測している。男子たちの対処はそれはそれは逆効果であるのだが、逆効果もここまでやれば女子は引いていく。結局私に関わろうとする女子はいなくなった。
 これでよかったのか、悪かったのか。
 ただ、私のカウントで勝利を祝福するゴングが鳴り響いたその瞬間、今まで感じたことのない喜びを味わったことははっきりと記憶している。


どうも、ちょいと前に取材で行ってきたんですよ、じょがぁです。



はい、相模湖と津久井湖の周辺に行って参りました。


tizu.jpg

場所で言えば赤マルらへんかな?

はい、今回はとても広い場所を走りまくっておりました。チャリで。

西は相模湖公園。東は原宿公園と言うところなんですが、
まあ興味ある人はググって下さいな。


さーて、
今日も撮って撮って撮りまくr……ん?

img004-1.jpg

なん、だと……?

お分かり頂けるだろうか?



そう、昨晩うきうき気分でデジカメのバッテリーを充電し、
充電したまま飛び出して行ってしまったのである。

じょがぁのうっかりさん☆ てへっ!


というわけで、
急遽インスタントカメラを購入しました。
二つ買ったので2000円の出費。痛いってレベルじゃない。

いつの日か沼津観光のときも
デジカメを忘れてインスタントさんのお世話になったけど、
うーん、どうしてこう重要なチャリ旅のときに限って忘れるんだ……!

まあでも、

img004-14.jpg

プリンターのスキャナ機能使ってみると、
レトロ感が出てていいかもしれない。
そう、昭和の臭いがぷんぷん。

いつの日か沼津観光ではインスタントさんの写真を更にデジカメで撮ってたから
謎の夕暮れ現象が起こってたけど、
スキャナでデジタル化するとレトロ感がそのまま表れてくれてナイス。


そんなこんなでツーリング再開。

じょがぁは国道412号から北上ルートを使って目的地へ向かいました。


ええ、言わせて下さい。

412号、オススメです。


上の直線道路ありますが、これが412号です。

上ってきて、丁度下り坂になるところから走ってきた道を撮ったものです。
分かりにくいかもですが、ゆるやかーな坂道です。

こんな感じの坂道が、上って下って上って下って……を繰り返している。
それがこの国道の特徴ですね。

しかも、上りで疲れはじめた頃に下りが待っているという
飴と鞭を巧みに使い分ける設定。

さらにほぼずっと整備された歩道がありまして、
疲れたら歩道で休むことも可能です。

何度か津久井湖に行ったことのある自分ですが、
このルートが一番走りやすかったです。


img004-4.jpg

そんな国道412号の途中にあった杉林。

赤茶ばみていて、まるで枯れているみたいでした。

「うはww花粉症患者歓喜www」


ええ、私も歓喜しましたよ。





これが満開の花であることに気付く前までは。



さて、相模原市緑区の旧津久井町に到着したじょがぁは、
まず第一目的地の帝京大学へ。


img004-2.jpg

帝京大学相模湖キャンパスの北口だったと思う。

注目してもらいたいのは、じょがぁのチャリの隣にある看板。


img004-2-2.jpg

文字が潰れているので、じょがぁが補正してみる。


img004-2-3.jpg

帝京大学薬学部
正面入り口
この先100m左折
―――――→


お、俺は左に往けば良いのだろうか……!
それとも、矢印に従って右へ往けば良いのだろうか……!?


ちなみに左ですた。


img004-3.jpg

正面入口へ行くときに見かけた標識。
これは恐らくGoogle-Earthの為に開発された新型の標識なんだと思う。

若葉マーク多そうな道だしね。

で、肝心の内部に関しては大学の公式に行けばいいと思うよ!

決して写真を撮らなかったわけじゃないですよ?
スキャンが面倒なだけです。


img004-5.jpg

第二の目的地である相模湖です。

津久井湖の上流にある湖で、
日本で初めて作られた(~湖と命名された)人造湖なのです。

ふふふ、この由緒、分かる人にしか分かるまい……!

おお、この風、そして湖に浮かぶ山々……!
これは、高浜虚子先生の本をペロペロした「笹波のしか」として、
一首詠むしかないだろ!

   山奥の 細波立ちける 相模湖に 生えたる山の 丸味帯ぶかな

分かる人にしか分かるまい……!

あ、ちなみに虚子先生の本短歌ではなく俳句の話ですはい。


さて相模湖をそのまま走りますと、相模湖ダムがございます。
当然撮影はしたんですが、工事中とのことでいい絵が撮れませんでした(言い訳)

残念ながら割愛(棒)


さらに走りますと、相模湖公園が見えてきます。


img004-9.jpg

img004-7.jpg

1951年。戦後間もなくに開設されたこの公園。

行く前から古い感じなんだろうなあ、なんて思ってたんですが、



img004-8.jpg

やっぱり古かった!

すげえw
ゴシックな文字ww
ゲームwww

ええじょがぁ大喜びですよ。
こういうの大好き。

相模湖駅の周辺もこんな臭いがします。
レトロ大好きな方にはオススメです。



……で次に感じたのが、


  「人がいない」


歩いてみたんですが、
写真の「ゲーム」のお店では
恐らく店番のおじいちゃんが的当てを興じていて、

その反対側のボート乗り場では
おじいさんが二人、談笑していたりしてましたね。

まあこんなもんなのかな……なんて思って、
クレープ屋でキウイクレープを注文。確か360円くらい。

ここの店番もおじいさん。

じょがぁ「この店って、結構長いんですか?」
じいさん「いやあ、長いよー。もう何十年になるんだろうなあ」
じょがぁ「この湖も結構歴史があるって聞いたんですが」
じいさん「そりゃそうだ。なんせ日本初の人造湖なんだからな!」
じょがぁ「まじすか。……あの、なんか人少ないみたいですけど……」
じいさん「そりゃ、今シーズンオフだからね。ほれ、これ見てみい
じょがぁ「なるほど、桜が咲いた頃になるとたくさん人来るんですね」
じいさん「まあな。でもモノ好きなお客さんは年中来るよ」

みたいな話をした。
その話が嘘か本当かは知らないけど、
でもシーズン中に人が来なかったらやっていけないだろうし、
公園内にはテレビで紹介されたレストランもあったり。

多分本当なんだと思う。

うん、やっぱね、現地の人の話を聞くと新しい発見があるね。

他にもいろんな話をしたんですけど、
そういうのは小説の方で紹介出来たらいいなあ。


img004-6.jpg

クレープ、おいしかったです^^
Souvenirのマークが目印。




さてさて相模湖とはおさらばして、次は津久井湖周辺を走りますよ。


img004-12.jpg

わ、なんだこの黄色い染みは……!?
こんなのあったっけ……?
というか黒いひび割れも不自然な気が。

……まあいいや。

これが中野小学校です。

津久井の中心に建っている小学校で、
近くに中野中学校と旧津久井町役場があります。


この近くの横断歩道で信号を待っていたら、
隣にも同じく信号を待つ女性とその子どもがいました。

子どもは幼稚園から小学校の低学年くらいの女の子でしたね。

その子が、

「のどかわかないの~?」

と、いたいけな声で尋ねてきたわけです。

ええ、こんな機会、滅多に無い!


即座にボトルゲージからボトルを取り出して、

「ちゃんと飲んでるから大丈夫だよ」

と言ってあげました。

母親の「すみません」という小声が気になったけど、

じょがぁに一片の悔いすらないぜ!

紳士たる者、礼儀怠ること勿れ……。


img004-13.jpg

それから津久井の市街地も探索。

さすが山中湖の町。
適当に走ると行き止まりにぶつかったりする。

まあ多分そんな感じで走っていたからでしょう。

「変な人がいるー」

何度目の行き止まりに遭遇したとき、
そんな声が元来た道から聞こえました。

距離にして大体30m。
数は三人。
女の子が二人、男の子が一人。
そんな時代が、私にもありました……。

いや、正直最初は変な人って誰かなーって思ったんですよ?

でもね、携帯開くと、

「あ、けーたいひらいた」

変な人ってうちのことかい!

思わず笑ったら、

「あ、わらってるー」

なんで分かるんだよw目良すぎww

まあ、確かに変な人なのかもしれない。

今の服装。
  ・ヘルメット(白)
  ・サングラス(赤)
  ・ウィンドブレーカー(黒)
  ・手袋(黒)
  ・インスタントカメラ(右手)

うん、そうだね。
今どきインスタントさんは流行らないよね(*´ω`*)

「どうする?」
「追い掛けるぞ」


みたいな、なんかマジな空気になってきたので、
早々に退出することにしました。全速力で。

大人げない? いいよ別に大人げなくて。
そりゃ怪しい人追跡ごっこさせてあげても良かったんだけど、
ほら、子どもたちが白熱して、周りが見えなくなっちゃって
事故に遭わせちゃったりしたら大変だしね。

泣く泣く追い掛けられる前に撒きました。


それから前にも行ったことのある城山の、
今度は別サイドから町並と湖を撮ってみた。

img004-11.jpg

img004-10.jpg

この景色、引っ越してもいいかもしれない……っ!


というわけで、ペロペロ語るだけでこんな長くなってしまいました。

まだまだ話しそびれたことはありますが、
まあそこら辺は小説の方で活かせたらいいなあと思っています。

つーか、相模原市緑区はまじオススメよ。

緑区とか、緑が多そうだからって適当なネーミング疑惑がぷんぷんだけど、
でも東京からも近いし、特に桜の季節は行ってみると楽しいと思うよ!
(その季節に行ったことないけど)


まあ、そんなわけで、

いつの日か紹介する、
神奈川が誇る険道515篇に続くかもしれません。
翼の生えた少女
~Another Story of WORLD FUTURE~

著 城ヶ崎ユウキ
2008.1~4執筆


目次

 「こうしてオレは、翼の生えた少女と出会った」
   白い翼、青い服

 「今日、家出する予定だから泊めさせてくれ!」
   日常の始まり

 「アンタの弱みも握ったことだし、ね」
   新たな音、奏でる

 「ス、スリーサイズですか?」
   星空

 「ひ、ひいっ! わかりました! 考えます、考えますからっ!」
   エリダヌス 第一幕

 「統流って名前の由来、知ってる?」
   エリダヌス 第二幕

 「ソフィアって、何者なの?」
   翼と未来とバスタオル

 「ドッジボールしようぜ! ドッジボール!」
   遥かなる草原の詩

 「その口振りは、何かをふっきったような言い方だった」
   崖の下の決断

 「未来は小さな繋がりを求めているのです」
   湖畔の夕暮れ

 「ソフィアちゃんを信じて、未来の世界を信じることはできないか?」
   ふたりのやさしさ

 「わがまま言っても、いい?」
   サクラフブキ

 「統流くん、差し入れだよ」
   白いキボウ

登場人物

穂枝統流(Toberu Hoeda)
ソフィア・ブルースカイ(Sophia Bluesky)
大瀬崎駿河(Suruga Osezaki)
神子元奏(Kanade Mikomoto)
大家さん
お袋

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読みたい本がそれなりに集まってきたので、今月末らへんに一週間籠って参る予定。
どうも、じょがぁです。

とりあえず引き篭もって生きていた可能性(大学関連行事)も考慮して、

3/19(土)0:00~3/25(金)23:59

この間読みまくってやりたい。

なんか3/18(金)に弓道部の追い出し会があるみたいなので、
もしかしたらそいつがじょがぁの最後の晩餐となるのかもしれない……。
こいつはたらふく食うしかないな。うん。

というわけで、
『もういない。』も3/25(金)に更新予定である15話は
土曜日3/26になるかもしれないです。はい。



さてさて、卒業式の少し前に非常食が配られたんですが、
そいつが非常識で笑った。

CIMG1480.jpg

↑のスチール缶が被告でございます。

まあ、『そなえてあればだいじょうぶ。』と豪語しているようなので、
多分いざというとき大丈夫なんでしょう。

まあ、主犯は乾パンではなく相棒の金平糖なんですが、
その金平糖の説明文がヤバい。

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◇こだわり豆知識◇
カンパンの最強パートナー

金平糖のやさしさの秘密
1.すみやかなエネルギー補給源になってくれる。
2.口解けが良く、水分の少ないカンパンを食べやすくしてくれる。

3.可愛らしいその姿☆



ちょwww


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金平糖の成分わかんねええ!!


これは一体どういうことなのだろうか?

確かに金平糖はちっぽけな粒で、栄養だって取るに足らないものだろう。
だが良く考えてもらいたい。

「塵も積もれば山となる」

……昔の人は諺として小さな存在にも敬意を払い、
また米粒一つ残してはならないと戒めてきた。

確かに現在、
金平糖一粒あろうとなかろうと人間は暮らしていけるだろうし、
まして今まで食べてきた金平糖の数を覚えている人などいないに等しかろう。


しかし、これは非常食として、
我々の生命を守るため、希望として使命を帯びた一粒だ。

大勢で分けあうときに、
金平糖何粒で乾パン一個相当分の
エネルギーを計算しなければならない時が来るかもしれない。

金平糖一粒分の栄養が不足していたがために、
尊い命が犠牲になることだってあるかもしれない。


だからこそ、
金平糖一粒で泣き、亡くならないよう、

我々は日々災害に備えなければならない。


ひとりはみんなのために。

みんなはひとりのために。



そのことを忘れずに、私は生きていきたい。




可愛らしいその姿を見つめながら☆
どうも、お疲れさまでした、じょがぁです。
この日に高校を卒業する方が多いような気がしますが、
例に漏れず自分も卒業式を迎えました。

自分の学年は本当に、嵐に恵まれてたなあ。

入学式は豪雨は、ええ素晴らしい出迎えを喰らいましたよw
どうも交通機関もストップしてたらしい。最高ですね。

初遠足の伊豆は雨。霧が立ち込めるくらいヒドいものだったような。
そんな天候で城ヶ崎海岸とか、海は映えないし釣り橋は滑りやすいし……。
まあデンジャラス的な意味では楽しかったかな。

その他行事は大体雨。
まともな体育祭は一年生のときだけだったなあ。

極めつけは修学旅行。沖縄。
確か台風直撃な一泊目だったような気がする。
帰りの飛行機も、亀台風のせいで便が遅れるという。

文芸同好会が本格的に始動した一昨年度の文化展示発表会も雨。
昨年の文化祭は晴れだった気がするけど、
今年度の総合祭も雨降ってたんじゃなかったっけ?

弓道部最後の試合も雨で、
三年最後の球技大会も雨で、
自分最後の受験する日だった2月11日はなんと雪

そして卒業式の予行練習(つまり昨日)は真冬に戻ったようで且つ入学式を思い出させる大雨大風。

今日も当然雨。


いや、なんかもう清々しいです。

今日なんて、逆に「雨降れ雨降れ」と念じてたくらいですからね。



……で、色々思い出があるわけですけども、
やっぱり部活の思い出は残るもんですね。

特に山形遠征と引退する二ヶ月前からの記憶はまだ鮮明に残ってます。
山形で、ホテルの近くの食堂でバカ笑いして怒られて、
寝坊して怒られて……。ああ、ひどいことしたな……。

引退二ヶ月前からは、本当に弓道一本だった。少なくとも気持ちはそうだった。
「俺ら、引退する気がしないよな」
……あの言葉に確信をもって頷けた自分と仲間がいる。不思議なものです。

先輩は凄かった。
何があっても先輩は先輩のままで、
威厳があって、
未だに先輩の背中を追い続ける自分がいる。
自分の中で、ずっとずっと尊敬していられる。
本当に素晴らしい方たちで、その先輩たちの後輩になれたことを光栄に思います。

後輩は本当にやんちゃと言うか、
多分周りから見ればやる気がないとか、考えてることが分からないとか、
そんなことを言うかもしれないですが、
一人一人色んな才能を持っていて、そしてそれを活かしている姿を見て、
実はやる気を頂いちゃってたり、競争心を芽生えさせちゃったりする自分がいます。
生意気だからこそ激励されるし、後輩だからこそ可愛いもんで、
ええもう、自慢の後輩ですよ。

そんな先輩と後輩に挟まれた自分らは、本当に恵まれてたんだなあ。
先輩、劣等後輩でご迷惑をおかけしました。
後輩、頼りない先輩でごめんよ。



そのうち制服に袖を通すことが無くなることに寂しさを感じるようになるのかなあ。
中学生やら高校生やらとすれ違うとき、きっとそう思うに違いない。
多分そう思えた瞬間が、本当の卒業式なんだろうね。



……まあ、そんなこんなで、
毎日の如く高校に顔出して「またお前か」と言わせしめることが当面の目標です。
ウザイセンパイデゴメンネ(棒)


さてさて弓道の思い出はこのくらいにして、
今日文芸同好会の後輩が城ヶ崎たちのために
「追い出し号」なる冊子を作ってくれました。

いやあ、嬉しいねえ。
来年度に向けた同好会誌も刷り終えてるみたいだし、当分同好会のほうも安泰ですな。


……で、一番嬉しかったのが、

後輩の一人が、

ソフィア
 と
翼の生えた少女はもういない。メンバー


を描いてくれたってことなのさ!


DA☆I☆KO☆U☆HU☆N


ええこれはもう皆さんにも見せてあげたいです。
(後輩クン大丈夫……だよね?)


   NEKOs_Sophia3.jpg
【クリックで】ソフィア・ブルースカイ【全体図】

   members.jpg
【クリックで】翼の生えた少女シリーズ人物ズ【全体図】


あーもう至福だ!

ソフィアさんまじ天使。鳥の人だけど。
吉佐美さんまじ想像通り。
白渚君まじイケメン。
いみずんまじキュート
大瀬崎まじ大瀬崎。
統流まじ主人公。

こりゃもう大切にします。大切にしないわけがない!!


……というわけで、卒業しても「翼の生えた少女はもういない。」は
週一更新を続けていきたいと思います。

いいねえ、本当にこういうの貰うと泣きたくなるくらい嬉しい。
これは頑張るしかないな!

じょがぁへのお便りは
  こちらからどうぞ。

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