ほえぶる!

ファンタジーやら現代もののエンタメ小説やら紀行文やら書いてます。自転車にも乗る。「文藝サークル~綴~」の中の人、「おにこくらぶ」の中の人、「ドジョウ街道宿場町」の中の人です。

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   地球連邦公務州スカイガーデン:州都センタータワー


「やだ! スバル君と一緒に行くの!」
「我が愛しの娘よ、考え直してみたまえ!」
 空を浮く島、スカイガーデンの朝は早い。世界で最も早い日の出を観測するからであり、また島民の大多数を占める鳥の人――バーダーという種族が総じて早起きであるからでもある。
「だってパパ子ども扱いするんだもん」
「当然だ。何せ私は、ソフィアのパパなのだからな!」
 そして、ソフィアの外遊する朝は決まってスカイガーデン王と姫の――即ち鳳凰と雛姫の――気品ある口喧嘩を拝見する破目になるのだ。
「鳳凰陛下、恐れながら本日はヒンド地方宰との会談がございます。雛姫殿下のダージリア外遊とは、どうしても予定が合いません」
 側近であるテルルアナンが奏上するも、陛下は全く聞き耳を持とうとはしなさらなかった。
「ダージリアの地とムンバイがどれだけ離れているのか分かっているだろう? 我が愛しの娘のことが心配で会談どころではないぞ!」
 ムンバイはヒンド半島北西に位置し、ここ一体で最も栄えているボジャ=ヴィダルヴァの中心都市だ。一方ダージリアは北にヒマラヤ山脈、東にアラカン山脈、その先は枯海(生命の存在することが不可能な地域のこと。地球――ジアース――の総面積の九割以上を占める)という、極東の地区なのだ。
「お支度を。早くしないと遅刻しますよ、ハ・ウ・ト・サ・マ」
「は、はい……」
 アナさんの言葉以上に圧迫感を感じる気迫に、ハウト様――いや、ハウトさんは怖気付き、オオワシの深く茶色い翼を縮こませた。
 ――と、まあ、この島の長はそういう存在なのだ。
 わざわざ敬意を払われるほどのものでもないと謙遜し、オレたち側近(アナさんやオレはプレイアード騎士団という近衛兵)にも、島民や地上の人々にまで親しげに話し掛けてくれる。まさにスカイガーデンの……いや、この星の象徴というに等しい存在だろう。
「えへへ、スバル君と一緒だね」
 嬉しそうに白い翼をはためかすこの少女はソフィア・ブルースカイ。ハウトさんの一人娘で、オレはこの子の護衛を主な任務としている。
 ソフィアの純情な笑顔は人々を惹きつける力を有していた。雛姫という地位も乗じて、ソフィアの虜となった人も少なくない。老若男女、生けとし生けるもの全てに受容されるその癒しみと慈しみは、亡き母親からそのまま受け継いでいるとも言われているが、詳しいことは新米騎士団員のオレには分からない。
 ただ、確かに彼女の可愛らしさの中に、ふと美しいものが交じっていることがあるようにも思えた。
「お前ら、本来の目的、忘れんじゃねえよ」
 プレイアード騎士団団長のネオン・キーガスさんは茶番に構うことなく朝っぱらから肉にかぶりついていた。
「はい、当然です」
 オレはしかと胸に手を当て、今日の任務の成功を誓った。
 突然変異した空飛ぶクジラによって全壊したダージリアの中継貿易都市ダルジリンの視察をするんだ。
 多分、人は誰もいないだろう。きっと一年後には草原となり、十年後には山林と化し、二十年後に村が出来るのだ。
 口には出さないが、誰しもがそう思っているし、現実変異生物に襲われた都市は必ずその経緯を辿るのだそうだ。
「うん、大丈夫だよ!」
 それでもソフィアは、とびきりの笑顔でいた。
「姫、本当に大丈夫ですか」
 そんな笑顔でいられる場所へ行くわけじゃないのだが……。
「むう、私のことは『ソフィア』でいいの」
 ソフィアが少し不機嫌になる。いや、だって仕方がないじゃないか。初めて会ったあのときを思うと、丁重に話さざるを得なくなる。
「でもね、本当に大丈夫なの」
 天然記念物級のほほえみに、思わず見とれてしまいそうになる。
「私ね、みんなに、たくさんたくさん笑顔をプレゼントしたいんだ」
 それはまるで、小さな子どものような、大きな夢だった。
「そうすればきっと、大丈夫だよ!」
 思わずこぶしを握り締める。己の惨めさに。
 きっと、まだオレには無理だ。ソフィアの夢を守れるほど、オレは強くない。
 でもいつか、ソフィアを守れるくらい強くなれたとしたら。
 絶対に、ソフィアの願いを叶えてやるんだ。


   地球連邦オリエント州ダージリア方面:ペル村


 彼は呼吸を落ち着かせ、標準を合わせる。狙いは二百メートル先の木の葉――と枝を繋ぐ茎一点だ。彼の立つ樹齢千年相当の巨樹と的との高低差、銃身の射角を考慮に入れる。木々のざわめきから風を読みとり、また風と共に揺れる目標と、発射から着弾までの時間のズレをも予測する。それから立射体勢のため生じる微かな手のブレと、自動小銃の命中精度も頭の中で計算する。
 奇跡でも起こらない限り、奇跡という言葉が死語となりつつあるのであれば、そうなるはずの運命でもなければ、命中させることは不可能であろう。
 しかし、彼には頼もしい味方がいた。
 幼い頃から共に過ごしてきた、相棒とも言えるアサルトライフルとの絆だ。日々手入れを怠らず、二十四時間三百六十五日、肌身離さず暮らしてきたその年月は、相棒の癖を隅々まで理解するに至った。
 じっと標的を凝視するだけで、相棒が助言を与えてくれるようだった。
 ここだ――彼は引き金を引いた。
 たん、という人工音に、森は悲鳴を上げる。幾十、幾百の鳥が大空へと舞う。
 銃口の煙、山並みの鳥、志、全てが上を目指してゆく中、たった一つだけ、散り落ちてゆくものがあった。
 銃弾の摩擦によって茎を焦がした一葉だ。
「ひゅー、さすが小銃使いのスナロて呼ばれるだけのことはあんべぇよ!」
 樹下で双眼鏡を覗く青年がやや興奮気味に叫んだ。
「……いンや」
 大木から飛び降り、スナロはライフルを下ろした。
「こんなんじゃあ駄目だ。何かが足ンねえ」
「足ンねえて、おめぇもう充分だべよ。この村さ救ったんだ。あの空飛ぶ鯨倒したて、普通じゃ考えらンねえベ」
 青年の言う通り、スナロはペル村を飛行鯨から守った小さな英雄だった。排水量一トンにもなるその飛行艦艇がひとたび暴れれば、町が三つ程更地と化してしまう。野生の爆撃艇を倒したのだから、それは英雄と呼ばれても差し支えなかろう。
 しかし、それはスナロが一人で討伐した訳ではない。いやむしろ、彼は単に討伐の手助けをしただけであった。
「足ンねえんだ、まだまだ」
「おめぇ、強欲はいけねえよ。ンなことしたら、運命に嫌われるだぁよ」
 双眼鏡を持った青年は、半ば本気で――いや全力でスナロを忠告した。
 運命。
 運命を司るワールドフューチャーの存在。
 全てはワールドフューチャーの思し召しである。
 スナロはこの一ヶ月間、日常の中に溶け込んでいた決まり文句と向き合って過ごしてきたのだ。
 一ヶ月前、村の外れに刀を携えた男がやってきた。
 彼は運命に抗い続ける人間であった。
 良いことも悪いことも全て運命の二文字で片付け、ただただ機械的に暮らしている人々を悲観する人間だった。
 村に飛行巨大鯨が襲来するという一報を聞いたとき、スナロは諦めた。今思えば、もうあの日のような諦めはもう出来ないだろう。そのくらい、すんなりと諦めが付いてしまった。まるで遊びの最中で山の斜面へと鞠を落としてしまったときのように。ああ落としちまった、でも仕方ないべ、そういう運命だったんだな。自身の命に対しても、本当に、そんな感覚だったのだ。
 でも、流離の男は諦めようなどとは少しも考えていなかった。辺境の、さらに辺境の小さな村を守るために。ここが地図から消えたとしても何一つとして影響が出ないような、小さな村のために、命がけで自身の十倍はあろう化物と対峙したのだ。
 運命に抗い変えようとする意志でさえ運命の一部であっても構わない。それでも私は抗い続ける。
 男はそんなことを言い、死闘を繰り広げていた。
 そして彼は、本当に運命を覆してしまった。スナロはその時援護射撃をしただけだ。それが未来を変える引き金になったのかは定かではない。男が言った通り、ここでスナロが銃を構えたことが運命であり、鯨が倒されるのはシナリオ通りだったのかもしれない。
 真相は、それこそワールドフューチャーでなければ見えることはないのだ。
 分からないことだらけの毎日で、眠れない日々が続いた。
「そンでも、行っちまうか?」
 それは、友を気遣う紛れもない友情の証であった。
 スナロは、ゆっくりと、だが強い意志と共に頷いた。
 ここで分からないのであれば、違うどこかできっと分かるはずだ。
 なにしろ極東の地に於いて西極の地はSFのそれと等号の符で結ばれているのだから。噂では遠い星にも人間が住んでいると聞く。そんな場所となるともうSFどころの話では無かった。
「そっか」
 青年は遠く雪に覆われた山を見た。この先ですら、スナロ達を含めた人類にとっては未知の世界であった。
「ンなら、仕方ねえ。おらはここで応援しか出来ねえけンど、いづまでも、いづまでも待ってンからよ。旅疲れしたら帰ってこい、な?」
「ああ、そんときゃ腹いっぱい土産話してやンべ」
「話なんていいがら、うンめぇもン食わしてけろ」
 そう言って、二人は笑い合った。またいつか笑い合える日まで、存分に笑っておこう。そう思って、ずっとずっと笑った。
 がさり、と音がした。
 二人は笑い顔のまま声だけを失う。そして、同じ方向へ、同時に顔を向けた。
 熊。
 いわゆるベアー。
 森のくまさんが、樹木の合間から顔を覗かせていた。
「さあ、小銃使いスナロ・ダ=ペル! 今こそ練習の成果だべ!」
 青年は威勢よくくまさんに人差し指を突きつけた。
「にに、逃げンべぇよ!」
 その小銃使いは既に青年の視界から消えていた。
「ちょ、おい、待てって、待てってよぉ!」
 青年が走りだすと同時に、くまさんとの鬼ごっこが始まった。
「う、撃ったらい、い、痛いべ? 痛いのは誰だって嫌だっぺよ!」
「こんな状況でも熊っこに同情するけえ? 訳分がンねって!」
 青年は知らなかった。
「そうさ、おめぇに足ンねえもんは、根性だけだべよ! なーにがまだ足ンねえだ、この臆病もんが!」
 小銃使いという肩書は、「小心者の銃使い」の略であることを。


   地底連合王都ホール=イー:地底城


 どたどたと、けたたましい床音が真夜中の地底城内に響き渡る。そして、その倍以上の声々が帝の寝床である清涼の間にも入ってきた。呻きながらの目覚めが到来する。低血圧の彼女にとっては、目覚めが悪いどころではない。夜更けに起こされるとは不快の極みであった。
「畜生、どこ行きやがった」
「あっちだ! 追え! 追うんだ!」
「クソったれ、素早っこしいアライグマ野郎が!」
「ツチケモノの分際め!」
 神聖なる殿内とは思えない暴言が飛び交う。彼女は「アライグマ」という的確な形容と「ツチケモノ」という彼のような種族に対して古くから使用される蔑称を耳にして飛び起きた。寝間着の単衣に、愛用の菊紋章の刻まれた扇を手にし、御簾を上げた。
「せ、聖上」
 寝惚け眼の側室には、丁度いい目覚ましになったことだろう。蝋燭の火に浮かぶ若き女帝の姿を見て、慌てて身なりを整えていた。
 帝は呆れた様子で寝台から降り立った。控えの女性二人が二歩擦り足で下がる。
「申し訳ございません。またツチ……いえ、あの子が」
「よい。吾(ワ)が見つける」
 ひれ伏す女御に構わず襖を引き放つ。幾つもの畳間を過ぎ、最後の襖を開けた廊下から地下を見下ろす。大極の広間は慌ただしく駆ける人々で溢れ返っていた。
 全く頭が悪い。
 人海戦術で捕らえられるような相手では無い事くらい、いい加減学ばれてはどうかしら。
 彼女は気を落ち着かせ、懐から竹札と小筆、それから矢立を取りだした。
「派手にやってくれるわね」
 さらさらと、札に古代の文字を書き記す。
「スリルとか興奮とか、そんなのいりませんのに」
 細く美しく走り書かれた文字の刻まれた竹の札から、そっと手を離す。札は自ら意志を持ったように宙を漂った。
「吾はただ、静かに暮らしたいの」
 札は音もなく移動を始めた。彼女は溜息をついて、その軌道に付いていった。無遠慮な足音も、やかましい怒声もすぐ近くまで迫るのだが、誰一人として接触せずに単衣の少女は正倉の間と呼ばれる倉庫部屋に辿り着いた。
「ロッジャー・メットはここかしら?」
 戸を開ける。中は夜そのものの暗闇であった。
「ロッジャー、その名に秘められた魂は、『粗末な家の者』。……ふふ、相応しい隠れ場所ね」
 新たな札を取りだし、先程とは違う字を記す。
「でも、貴方は名声高きメット家の長男、違う?」
 同じように、札を宙に解放する。すると、竹のそれは闇から光を集め取るように光り始めた。
「何より、貴方はこそこそ隠れるような人間じゃない。違うかしら?」
 光が銅像の隅からはみ出る獣の尻尾を映し出した。
「みーつけた」
 きし、きしりとその尻尾との距離を縮める。
 そして、少女は屈みこみ、そっとその尻尾に手を伸ばそうとした、その時――
「うがああああああああああっ!」
「きゃあああああああああああああああっ?」
「わああぁぇっ?」
 獣の尻尾が金切り声を上げると、彼女はそれより大きな悲鳴を上げ、それに驚いた尻尾の主が絶叫する。
 少女は腰を抜かして尻餅を付いた。
「あ、えと……ごめん」
 札の照明があどけない少年の顔を持つ小さな動物の姿を照らす。それは白茶の縞模様をした尻尾に、茶色い大きな耳がヒビだらけの石帽子からぴょこりと飛び出ていた。両頬に三本ずつ長い髭が伸びている。身長は日頃その背の低さに苦悩する少女の、これまた日頃気苦労の絶えない慎ましい胸の高さほどしかない。その姿は明らかに人外であるが、確かに人間の言葉を使用している。
「ただ、脅かそうとして……」
 少年の言葉はここで切れた。少女から小さなしゃくり声がしたからだ。
「馬鹿……ばかぁ!」
 彼女はロッジャーを指でさした。それが何かの命令だったのか、月明かりの札と神隠しの札がロッジャーのデコへと直進する。
「でっ!」
「なんでこんなことするのよう! ばかぁ!」
 再びお札を発射する。ロッジャーはかわすことなくそれに直撃した。なんとなく、寂しくなる。弱々しいロッジャーなんて見たくなかった。どんなことがあっても、崖淵に立たされていたとしても敵に立ち向かっていくロッジャーでい続けて欲しかった。
 こんなことで戸惑ってしまっては、他の人々と同じだ。みんな、女帝の吾を畏れ、近付こうとはしない、心まで近くに寄る人なんて誰もいない。誰も彼もが恭しい。
 ……小さな帝は、伸ばした手を引っ込めようとした。
 いや、それじゃあいけない。もう一度、力強く小さな少年を指した。
 もう一度札で攻撃をする。この倉にある品々はどれも何千年前の芸術だ。でも、帝にとって歴史なんてものはどうでもいいものだった。遺産を台無しにしてもいいからロッジャーに避けて欲しいと心の中で思いながら、加減弾を放った。
 願いは叶うことはなかった。
 命中し、その反動で獣人は首をのけぞらした。
 しかし、彼女が絶望することはなかった。
「……もう怒った、もう怒ったぞ!」
 ぶぶんと顔を左右に振り、じろりと少女を睨んだロッジャーは、相手が女帝であるにもかかわらず躊躇の無い脅し掛けをした。
「第一なんだよ、あんなので泣いちゃうなんて、まだまだお子様じゃん! どの口が地底を平和にしたいなんて言うんだかね! ムリムリ、無理に決まってんよ!」
「泣いてませんわ」
「じゃあさっきのしゃくり声はなんだったんだい? その真っ赤なおめめはなんなんだい?」
 思わず目を押さえて確認しかけるが、どうにかそれを抑え、見下げる口調で言い放つ。
「しゃくってもいませんし、目だって赤くありませんわ。貴方の子どもっぽさに飽き飽きしてますのよ。十二にもなって、その程度の発想とは笑ってしまいますわね」
「はっ、ウソつきじゃんか。僕がいなくちゃなんにも出来ないクセに」
 その一言に、彼女はいい返しが出来なかった。何せ、それは本当のことなのだから。
 脳裏に、地底大陸に燃え広がる充血した瞳のように真っ赤な海が浮かんだ。
「あ、貴方こそ、サフィがいなければ吾を守れませんでしょう? 今日だって、清涼の間に一歩も入れなかったんじゃありませんこと?」
 それもまた、本当のことであった。
「う、うっさい! うっさいよ!」
 そして、ロッジャーが最も気にしていることでもある。
「貧乳! 病弱! 格式幼帝!」
 暴言を撒き散らす少年。またやってしまった。弱気なロッジャーなんて見たくないのに。なのになんで傷付けることしか出来ないの……?
「やれやれ、お互い傷口に塩を擦りつけるのはやめましょう」
「ふん、今日も僕の勝ちだかんね」
 強がるロッジャーも、本当はとても傷付いている。二人は、同じ目に遭ったのだから。
 滲んだ汗を拭いたところで、彼女は足を広げたまま座り込んでいる自身の猥らな姿に気が付いた。白く細い腿を曝け出し、また見る角度によっては……。
 慌てて正座に直る。
「……み、見ましたわね?」
「み、見る価値もなかったね!」
 やっぱり見られたんだ……。
 これでは目どころか、顔まで赤くなってしまう。それだけは何とか阻止しなければならない。
 いや、それならば顔が見えないようにすればいい。良案を思いついたと帝は空咳をし、千五百年前に造られた像に背を預けた。
「ロッジャー、隣に座りなさい」
 強い語調で言ってしまったことを帝少女は後悔するも、とにかく隣り合えばどんなに顔を真赤にさせても分からないだろう。
「まったく、寂しがり屋だなあ、レンカは」
 第二百十八代レンカ帝は何も言えなかった。それは本当のことなのだから。
 ――ただ、無言に過ぎていく時間が好きだった。
 楽しい話でもして、子どもらしい二人だけの約束を交わしたりもしたかったが、そうしたらまた喧嘩になってしまいそうで、怖かった。
 喧嘩は嫌いだ。喧嘩をして別れた路は後悔しか残らない。
 楽しい話はすぐ時が過ぎ去ってしまう。だから、したくない。
 それなら、何も無くてもいいから、少しでも長くロッジャーと居続けたいと彼女は願った。
「いつか……」
 ぽそりと、ロッジャーは独り言つ。
「絶対、レンカんとこに辿り着いてやる。絶対に守るんだって、姉ちゃんと誓ったんだから」
 ロッジャーはたまにそんな可愛いことを言う。負けず嫌いで、いつでも全身傷だらけになるまで演習をする。その奇形の姿に後ろ指をさされ続けても懸命に前進することをやめない。
 もちろんサフィに首ったけのところは良しとは思えないが、それでもレンカにはない物をたくさん持っていた。
 吾にはただ、地位だけしかない。今使ってる幻想だって、人暗ましや人探し、明かり灯火の幻想くらいしか使えない。父上のような、強大な幻想を使うことすら難しい末っ娘の凡才なのだから。
 憧れ――そうこれは憧れだ。
 恋なんてそんな美しいものじゃない。そんなものは地底連合の頂点に立つ帝が、最下層に位置するツチケモノに抱いてはいけない感情なのだから。
 だから、だからいつか。
「期待してるわ」
 もっともっと帝らしくなって、強くなろう。そうして、証明しよう。
 ロッジャーだって、同じ人間なのだということを。
 その強い決心をレンカは胸に刻み込み、ただただ今は隣の少年の温もりを感じていた。






The-Earth Chronik(仮)


 ――いつかあなたを、まもりたいから。


2011.4.1 APRIL-FOOL...
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「……きです」


それは、迷い路の境界線


「どうしてそこまでいさがる、バイトの分際で」


それは、試練の鎖


、最近友達とうまくいってなくてね」
「もうこれ……がらないんです」


二人の追憶


鈴木さんて、かと付き合ったこと、あるんすか?
――さあ、どうなんだろうねえ。


やがて物語は――


駄目、ですか?」
「お前をストーキングして分かった」
……降ってるわね」
はもう、ともうな」
「待ち続けるのは……とってもとっても、つらいことなの」

「オレを、その名で呼ぶな!」


複雑に入り乱れてゆき――




「死はありません。したがってもありません。
あるのは、『貴女』であるかどうか。
すなわち『私』がいるかどうかなのです」



迷境を彷徨い、踏み歩むことになる




翼の生えた少女はもういない。

第二部

迷 境




「助けてよ……統流君」
2011.2.11(Sat)

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どうして君はここにいるんだい?
さあ、知らないね。
どうして僕はここにいるんだい?
それは音に選ばれたからさ。
それなら君も音に選ばれたんじゃないのかい?
さあ、知らないね。
ところで音と言うのはなんだい?
音はこの世界の空気さ。
それなら僕も空気なのかい?
いいや、違うね、君はここにいるじゃないか。
なら君も空気じゃないんだね?
さあ、知らないね。
僕と同じ姿をしているじゃないか。
この世界じゃ自分の姿を見ることは出来ないよ。
どうしてだい?
この世界には音しかないからさ。
それなら僕も音なんじゃないのかい?
いや違う、君には形がある。
君も形があるように思えるよ。
形があるように見えるだけさ。
なら僕だって形があるように見えるだけなんじゃないのかい?
そう言ったところで実際形があるように思っているはずさ。
確かにそうだが、なら君自身も形があるように思っているはずだろう?
さあ、知らないね。
どうして君は君のことを知らないんだい?
さあ、知らないね。
どうして君は君以外のことを全て知っているんだい?
こうしてここを漂っているからだよ。
漂っていると君以外のことを全て知るようになるのかい?
そうだよ。
それならどうして君自身のことだけは知らないんだい?
さあ、知らないね。
ここはどうして存在しているんだい?
君を待っていたんだ。
君のことは待ってくれなかったのかい?
さあ、知らないね。
なら僕を待っていて、僕が来たらここはどうなるんだい?
どうにもならない、ただ音は奏でている。
音は何を奏でているんだい?
音を奏でているんだ。
僕も音と一緒に奏でることが出来るのかい?
奏でてみればいい。
君は音と一緒に奏でることはしないのかい?
さあ、知らないね。
君と一緒に音を奏でることは出来るのかい?
どういうこと。
君と一緒に音を奏でることさ。
それはどう答えればいいのか分からない。
それはきっと君が孤独だったからさ。
どうしてそうと言えるんだい?
君は孤独だったから、自分のことは何も知らないんだ。
どうしてそうと言えるんだい?
誰かがいなければ、自分と言う存在に気が付かないからさ。
どうしてそうと言えるんだい?
誰かがいなければ、世界は一つしかないのだと思えるからさ。
どうしてそうと言えるんだい?
知らないことは何もないと言えるからだよ。
どうしてそうと言えるんだい?
自分のことだからさ。
でも僕は自分のことを知らない。
誰かがいなければ、自分を自覚することがきっとないからさ。
それならどうして自分の世界のことを何でも知っているんだい?
さあ、知らないね。
そもそもこの世界はなんなんだい?
ここは君の世界さ。
君の世界ではないのかい?
さあ、知らないね。
ならどうして君は僕の世界にいるんだい?
さあ、知らないね。
ならきっと君は僕なんだ。
そうかもしれないね。
ならきっと僕は君なんだね?
そうかもしれないね。
僕が君で、君が僕なら、僕と君以外のこれはなんだい?
さあ、知らないね。
さあ、知らないね。
僕が君で、君が僕なのに、どうして僕と君は話しているんだい?
それは君が君で僕が僕だからさ。
君が君で僕が僕なら、君以外の君は僕で、僕以外の僕は君なのかい?
そうかもしれないね。
でもそれはおかしいと思うよ。
僕であって君であって、君であって僕であるそこはなんなんだい?
そもそも君であって僕であって、僕であって君であるそこはどこだい?
どこにあるのだろう?
どこにあるのだろう?
さあ、知らないね。
さあ、知らないね。
でも知っていることはあるよ。
それなら僕も知っている。
僕と君はきっと音を奏でているんだ。
君であって僕であるそこと僕であって君であるそこも音を奏でているね。
ところで音と言うのはなんだい?
音は空気さ。
それなら僕と君は空気なのかい?
さあ、知らないね。
君であって僕であるそこは空気なのかい?
さあ、知らないね。
僕であって君であるそこは空気なのかい?
そうだね、そうとも言える。
それならきっとそうなのだろう。
この世界じゃ自分の姿を見ることは出来ないね。
そうだね、そうとも言える。
それならきっと君は音なんだ。
それならきっと君も音なんだ。
さあ、知らないね。
さあ、知らないね。









?..Who are we are who.
胸に空いた穴は塞がらない。

トラウマを植えつけられたあの日から、もうすぐ七年の歳月が経つ。

七年。
小一だった子が中二になてしまうほどの、長い長い時間。

でも、あの時の悲しみ、苦しみ、孤独感、疎外感、不安、恐怖は全て消化出来ているわけではない。
むしろ、心の穴は日に日に大きくなっている。

徐々に蝕まれていく数多の感情を、
上辺だけ、表層だけ薄い膜で覆っている。

楊枝か画鋲でその膜に触れれば、
たちまちぽっかり空いた穴があらわになるだろう。

それはみぞおちの周りだけなのか、
もしかすると肩から丹田まであるワームホールに化けてしまっているかもしれない。

確認する術はない。
ないことにする。


想像するのでさえ、怖いのだから。


例え身振りや口振り、表情で隠そうとしてもそれは表面を取り繕っただけにすぎない。
穴を隠すために仮面を付けることもある。

そうして二重に守ることで、なんとか今までを過ごすことが出来た。

しかし二重の壁を築くのは辛く、悲しく、苦しい。
必然的に上辺だけで付き合わざるを得なかった。

愚痴を言い合えるような人は、
きっとあいつしかいない。


ときどき私を襲う被害妄想には、常にあいつの影が見え隠れしていた。

突然あいつが無関心になって、どこか遠くへ行ってしまう。
あいつが無意識に手元の針をちらつかせる。
それだけで、何をされるわけじゃない。

いや、逆に何もされないからこそ、
私は孤独に怯え、文字通り胸が張り裂けそうになる。


もはや心を開ける存在はあいつだけであり、
知らぬ間に私の心の支柱はあいつになっていた。

不器用すぎるあいつが不器用すぎる優しさで、
今にも崩れそうな私を支えるのだ。


危険極まりなく、だがそれしか方法はなく、
だからこそ、あいつから離れることだけはしなかった。


追奏~tsuisou
2011

Written by Johgasaki Yuki.
文化祭の個人誌から。印刷ミスって綺麗にでなかったので^^;

重いので追記の展開▼からどうぞ^^

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じょがぁへのお便りは
  こちらからどうぞ。

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